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スペイン旅の記2017年5〜6月③アルメリア〜マカエル

前回までのお話
スペイン写実主義絵画の巨匠、アントニオ・ロペス・ガルシア氏による講習会に出席するため、私は2017年5月にスペインに渡った。マドリードで一泊し、講習会が開かれるアンダルシアへ向かうために早朝のマドリード・アトーチャ駅に着いた私は朝飯に寄ったカフェでいきなり置き引きに遭い、パソコンや財布の入ったバックパックを失うが画材は盗られなかったので気を取り直してその日のうちに中継地のアルメリアまで進んだ。

スペイン旅の記①〜②参照

アルメリアはスペインの南部、アンダルシア地方の東部を占めるアルメリア県の県都である。今回の講習会が開かれる小さな町、オルラ・デル・リオ(Olura del Rio)はアルメリア県にある。講習会が始まる月曜日の朝に間に合うためには、前日までに現地入りする必要があった。しかし当のオルラ・デル・リオの宿がすでにいっぱいで、最も近くて隣町のマカエル(Macael)にしか宿が取れなかった。マカエルからオルラまでどうやって通えばいいんだ?と思ったが、現地へ行って考えることにした。アルメリア~マカエルはバスで約1.5時間、バスの本数も限られているので、前日を移動にあてた。こういった情報はすべてインターネットで調べ、チケットもネットで予約できた。マカエルには夕方までに着けばよいので、半日はアルメリア市内を散策することにした。

アンダルシア地方は長くイスラムの支配を受けたため、どの街にもたいていイスラム様式の城塞(アルカサバ)などの遺跡が残っており、アルメリアも例外ではなかった。宿から歩いてそのアルカサバに向かうことにした。日曜の街は静かで落ち着いていて、観光客らしい人の姿はなく住民が休日を楽しんでいるような雰囲気だった。桐に似た淡い紫色のハカランダの花が咲いている。とりあえず日曜でも空いているスーパーを見つけ、歯磨き粉を買った。洗面用具一式も盗まれたのだ。スーパーの店員の兄ちゃんが愛想のいい人で笑顔に癒されたのを何故か憶えている。

アルカサバは市内を見下ろす小高い丘の上にあった。グラナダのアルハンブラ宮殿のような壮麗な装飾はないもののそれなりに大きく、要衝だったことがうかがえる。城壁の上からは市街地の向こうに海が見えた。城内にはぽつりぽつりと見学客が歩いているほか、ネコがあちこちにいてのんびりと寝そべったり散歩したりしていた。

アルメリアの街角
アルカサバ
アルカサバの城塞内
アルメリアの街と地中海
手前に小鳥が…(いま気づいた)

アルカサバを出て、地図で街なかに見つけたギター博物館へ行ってみた。解説を読むとアルメリアがスペイン現代ギターのギター製作者、アントニオ・デ・トーレスの出身地であることから博物館が出来たようだった。見学者は自分一人だった。ギターの製作工程の展示やマネキンもある。最後の方に世界のギタリストを紹介した写真パネルがあり、それが面白かった。クラシック、ジャズ、ブルース、フラメンコ、ロックの5つの分野から12人ずつが写真パネルになっている。その人選が万人が納得するものかどうかは分からない。ロックの中にスラッシュが入っている一方、エドワード・ヴァン・ヘイレンが入っていなかったからだ。

ギター博物館

ギター博物館を出て宿方向へ戻る途中、大きな通りでセバスチャン・サルガドの写真展をやっていた。屋外の歩道に巨大な鉄のフレームが二列に並べられ、フレームそれぞれに写真が吊り下げられている。もちろん無料である。アルメリア市の主催のようだ。日本でこんな展示を見ることはない。日本ではセバスチャン・サルガドの写真展はBunkamuraで高い入場料を払って見た。首都ではない県都で、市の主催で路上で無料サルガド展をごく普通にやってるということにスペインという国全体の文化度の高さを感じた。首都のカフェでリュックを盗まれたが…

路上のセバスチャン・サルガド展


アルメリアを15時15分に出るバスでマカエルへ向けて出発。

高速道路沿いの乾いた大地の丘の上に牛の看板が立っている。これぞアンダルシアというものだろうか。これを初めて見た時、「黒田硫黄の漫画で見たやつだ!」と思った。
バスの車内では、飛行機のように前席の背もたれについた小さなテレビでスペインの映画だかドラマを見た。音声はスペイン語でスペイン語字幕がついているので勉強になった。そこで覚えた単語は Hijo de puta だった(あまり使う機会はないだろう)。

マカエルには16時40分に着いた。アンダルシアには2年前にも来ていたが、荒涼とした岩山や原野に緑といえばオリーブ畑や松林が目立つ風景が延々と続き、たまに町が現れる。マカエルもそんな小さな町の一つである。アントニオ・ロペス講習会の宿の用がなければ一生来ることのない町だろう。街の交差点に鉱物を砕く鉄鉢のモニュメントがあった。鉱山の町なのだろうか。バス停からホテルまでは徒歩で10分ほど。黄色い花が咲いているが日本では見たことのない植物で何の仲間かも分からない。いずれにせよ雨の少ない乾燥した土地に生える植物は水分の蒸発を防ぐために葉は針のような形状のものばかりだ。

街角の鉄鉢
荒涼とした大地にへばりつく街

ホテルは一人でやっていそうな小さな宿だが今風にリフォームされた感じの小ぎれいな宿だった。個室にシャワーがついている。講習会への参加が決まった時に事務局から示された宿泊先リストにあった宿だ。管理人の女性にオルラ・デル・リオでの講習会に通うと話すと、もう一人この宿に講習会に通う女性が泊まり、車で来るから明日話してみろと言う。4km歩かなくても済むかもしれない。

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