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ねえカレンダー、また教えてね【短編小説】

スマホのカレンダーに予定を入れた。高機能なそれは、予定名を数文字打っただけで「これと同じ用事では?」と予測変換を提示。消し忘れた過去の日が浮上した。色褪せない苦味と共に。

「すごく楽しみです」
予定が立ったその日、そうメッセージしたのを覚えている。何気ない会話から、不思議な流れで食事へ行く事に。
どちらかが始めなければ、変えられない関係性。パワーバランス的にはこちらが下。当然のように、諦めという壁を作った。

だけど。
乗り越えてくれたんだな。
嬉しいな。
顔に出やすいから、バレてるのかな。
ただの親睦会かな、それでもいい。
どうあってもいいの。貴方の時間がもらえるなら。
純粋にそう思った。


当時の私は期待だけを握りしめていたと、そう断言出来る。隣で、理性的な私が冷静に引き止めていたけれど、無視して置いてきた。
その結果、今は隣に寂しさが寄り添っている。その友達の虚しさが、たまに連絡してきたりして。
「何故始めたんだい。こうなることくらい、分かっていただろう。未来からの言伝だよ。"正しい愛を、選びなさいね"」

正しさなんて、どう証明するの。
好きな人の時間をもらうチャンスを掴んだ。それはただひたすらに正しかった。

やってみなければ理解できないことがある。始めなければ、見えない世界もある。そこで味わう感情が、未来できっと、正しさへと導いてくれるの。

勉強料、寂しさ。
高い買い物だわ。
ねえ、カレンダー。また教えて。もし過去の苦味を忘れそうになったら、復習しろって、また教えてね。

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