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ドラマシナリオ3「いない・いない・ばあ」③(終)

■前回までのあらすじ■

作品テーマは「ハンカチ」。お互いの小さな娘のために目の前の仕事に奮闘する川渕ヒロキと森野カナエの交流を描く。別部署のカナエとの事務処理の行き違いがきっかけで、休日出勤することとなった川渕。出勤したオフィスで赤ちゃんの泣き声が。向かってみると、そこには娘のタマエの世話をしているカナエ。タマエに自分の愛娘、ノゾミを重ねる川渕は、手際よく世話をした。そして、カナエは自分がシングルマザーであることを川渕に静かに語るのだった。

■シナリオ本編■

◯山王町駅・外観(夕)

入り口に「山王町」と書かれている駅。様々な人が往来している。


◯同・改札(夕)

川渕のハンカチを握ったままのタマエを抱っこし、肩に大きなトートバッグをかけたカナエが出て、後ろから川渕が続く。二人共明るく楽しげ。改札を過ぎたところで、川渕が立止る。

カナエ「川渕さんと一緒の駅だったなんて……じゃ、私達、買い物して帰ります。今日はいろいろありがとうございました」

川渕「いいんです。他人事に思えないから。森野さんが行くスーパーと僕は反対方向かな。じゃ、タマエちゃん、またね」

カナエ「あ、タマちゃん、オジサンにハンカチ返さないと」

タマエからハンカチを取ろうとするカナエ。イヤイヤするタマエ。ぐすりだす。困った表情のカナエ。苦笑いの川渕。タマエが握るハンカチの反対側の橋をつまんで、顔を隠す。

川渕「これ、タマエちゃんにもウケるかなぁ……いない、いない……」

揺れる子犬の刺繍。不思議そうにハンカチを見るタマエ。

川渕「……ばあっ」

ハンカチをどけて、寄り目でおどける川渕。大喜びのタマエ。ホッとした顔のカナエ。川渕、カナエに向き直る。

川渕「森野さん、そのハンカチ、タマエちゃんにあげるよ」

カナエ「え、いいんですか」

困惑するカナエ。照れ笑いする川渕。

川渕「いいんだ。高いもんじゃないから。ママの匂いがついたハンカチ、離したくないみたいださ……じゃ、おつかれ」

カナエ、顔を赤くして会釈する。川渕、二人に手を振って足早に立ち去る。


◯同・改札前(朝)

通勤・通学客でごった返している改札。スーツ姿の川渕、人の流れに乗りながらセカセカと改札に向かう。

川渕「やれやれ、月曜ってのはどうして、気乗りしないのかねぇ」

ぼやきながらカバンをまさぐり、定期を取り出す。歩き出す川渕。

カナエ「川渕さん!  」

驚いて声のする方向に向く川渕。タマエを抱っこしたカナエが笑顔で川渕に手を振っている。
驚きながら小走りでカナエとタマエに近付く川渕。タマエの手には子犬の刺繍の入ったハンカチ。

川渕「森野さんにタマエちゃん……今日って健診だろ?  どうしたの?」

カナエ「驚かせてすみません。タマエがハンカチを持って出かけるってきかなくて。少し時間あるんで、お見送りに」

目を瞬かせる川渕。クスリと笑い川渕に視線を合わせるカナエ。タマエ、突然手に持っているハンカチをブンブンと振り回す。刺繍の子犬がはしゃいでいるように揺れる。

タマエ「パパ、ばあ、ばあ!!」

驚く川渕とカナエ。顔を見合わせて吹き出す。苦笑いでタマエを覗き込む川渕。

川渕「パ……パパって……わかったよ、タマエちゃんの頼みなら……時々、君のパパになってあげるよ」

川渕、そっとタマエからハンカチを取り「いない・いない・ばあ」をする。キャッキャと大喜びのタマエの手にハンカチを握らせる。驚いて川渕を見つめるカナエに気が付かない顔をして、小走りに改札に駆け込んでいく川渕。

終わり

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