他人のものさしも筆箱に入れとく
もし、UFOが飛んでいたら。
たまにふと考えることがある。
あなたならどうするだろうか。
大声で叫ぶ?
写真や動画を撮る?
防衛省に連絡する?
おそらく、その選択はどれを選んでも正解だと思う。
自分なら、と考えたとき
「牛を探すだろうな」
と思う。
できれば大きめの乳牛がいい。とか思う。
なんで牛? と思った人は、僕とご飯に行っても楽しくないだろう。
もちろん、僕も楽しくない。
話の趣旨は伝わらず、会話のラリーは成立せず
趣味が合わず、オチで笑えず、険悪と沈黙の処理に頭と頬が疲れる。
御歳28歳になって完全に自覚したのだが
僕は他人と飲み会に行くのが苦手だ。
今までは「おじさんってつまらない話するなぁ」とか「なんでコイツらこんなに笑ってんだよ…」とか、「面白くないなぁ 退屈だなぁ」とか、相手が歳上だろうが歳下だろうが、要は「つまらない原因は相手側にある」と思っていた。
何丁目の誰がコロナにかかったらしい
こないだのゴルフでOB出しちゃったんだよ
あの店の大将の息子さんはあの学校出てるそうだ
あのドラマ見てないなんて信じられない
脳みその周りを 早く帰りたい。アニメ見たい。ゲームしたい。寝たい。がくるくると飛び回るのを放置して
「マジですか」と「わかります」と「はい」を
正拳突きのように繰り出す作業。
20代の飲み会といえば全部そんな感じだった。
他者否定と自己肯定。
僕はそういう人間だ。
しかし、最近になって気づいた。
「つまらない原因は自分側にある気がしてきた」
のである。
昔から、突拍子もない事をしたり、斜に構えてハズしたことを言うと、友達が笑ってくれた。
ほんの少し、「違ってること」や「ズレてること」が人を喜ばせると学んだ。学んでしまった。
あんたは面白いね、と親が褒めてくれた。
そして、"自分は特別なんだ"という
"間違った爽快感" を覚えた。
同級生が"ポケットモンスタールビー・サファイア"や"モンスターハンター"で遊んでいる頃、僕は10円玉を並べて、順番にレゴブロックで作ったロボットにぶつける、という謎の遊びを独りで延々としていた。(これに関しては親も引いてた)
授業が始まる前に「先生を驚かせよう」とクラスみんなが机に突っ伏して待機する、という一致団結を見せた時、僕だけが頑なに参加しなかった。
教室に来て「うわ!びっくりしたぁ〜!みんなどうしたの?笑」と驚く先生と数秒目が合ったとき、先生の顔から一瞬笑顔が消えた気がした。
それが快感だった。
天邪鬼なプライドなのか、普遍に対する抵抗なのか
「みんなに合わせる」ということに恐怖心や敗北感のようなものがあったのだ。
今思えば集団行動に重きを置く義務教育の場においてめちゃくちゃ迷惑なガキだ。
もちろん、ちゃんと嫌われたり怒られたりもした。
話は地獄の飲み会に戻る。
今までは【早く帰りたい】で破裂しそうな大脳を封じ込めて、愛想笑いをしながら好きでもないお酒を飲んでいた。
しかし、最近感じるのは孤独感に似た羨望の感情。
他人との飲み会がつまらない原因は、どうやらやはり自分にある。
「イレギュラーこそがおもろいねん」という誤ったセンサーを全身に装備して生きてきた"ツケ"だ。
盛り上がりを見せる飲み会の場で
面白くないのは僕の方だったのだ。
なぜなら自ら一生懸命メインストリートからズレようとしているのだから。
「てめえのものさしで他人をはかるんじゃねぇよ」
と言う言葉が、最近はそっくりそのまま自分に突き刺さる。
「面白くないなぁ」ではないのだ。
話題を噛み砕いて処理する能力が、自分は劣っているのだ。
自分のものさしをがむしゃらに振り回すことが
いつの間にか癖になっていたのだ。
他人と楽しく時を過ごすには、鼻っから「世間のものさし」を使わないといけないのだ。
不倫や時事やスポーツや流行に興味が無くても
まさに今、みんなが笑っているその場を測れるのは「他人のものさし」なのだ。
普通で平凡でありふれているこのものさしを、僕は自分の中に持っていなかった。
今の妻と結婚する前に
「UFO見つけたら、乳牛も探すよね?」
という話をしてみた。
インスタントのパスタを食べていた彼女は少し考えてから
「ちっちゃい猫とかもいると尚いいね。」
と返してくれた。
「この人を一生大切にしよう」と思った。
僕の好きな世界は、すごく狭い場所でいいんだ。
と嬉しくなった。
他人のものさしで人と話をできるようになると、会話や飲み会がすごく楽しくなった。
別に先陣切ってマイノリティ面してたわけじゃないけど、共通項を探して人と時を共にすることは、すごく楽しい。
今、この歳で気づけてよかったと思う。
一方で、
「四方八方がスネ夫なのが悟空だよね。」
と突然変化球でサービスエースを狙いに来る妻にも
「…髪型の話?」
となんとかラリー展開に持っていける。
なんて贅沢な時間だ。
「杉田玄白って、ダントツで絵師に悪意があるよね。」
晩ごはんの最中、妻が唐突に言う。
面白いなぁ。尋常じゃないなぁ。愛おしいなぁ。
と思いながら、こっそりと他人のものさしを取り出す。
「アイツだけしわっしわだもんね。わかるなぁ。」
(でもこの話は、飲み会ではできないな…。)
と心底残念がりながら、大事に大事に自分の中の
隅っこのキラキラしたスペースに置いておく。
大きなUFOが攻め込んできても
カメラを構える人も大声を出す人もいない。
狭くて静かな場所で今日も吸い込まれる牛たちを眺めながら、ふたりでご飯を食べる。
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