出発進行
一人待つ駅のホーム
近づいてくるのは月列車
1両ごとに違う絵柄が減速しながら過ぎていく最中
車内に居る乗客数人と目があった
停車した列車からは蒸気が抜ける音がして
扉が音を立てて開くけれど 降りる人は誰も居なかった
僕は周りを見渡して
ゆっくりと足を踏み入れると
車内は懐かしい香りに背伸びをして
優しい空気を吸いこんで
切符に表示された指定席に向かった
座席に座ると同時に発車のベルが鳴り
車掌さんの声が響いた
「駆け込み乗車は――」
旅へのプロローグに聞こえたアナウンスに
顔を一瞬しかめたけれど
遅れてやってきた女性が目の前に座ったから
思わず表情を直した
一際大きな蒸気音を響かせると
ゴトン、と動き始めた月列車は加速をはじめた
旅は道ずれと
駅弁を差し出された僕は
騒がしい旅の始まりに小さくため息をついて
それを受け取った
談笑程度の静かな車内に君の快活な声が響く
僕はそれをいさめながら
次で降りようかと思ってしまっていた
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