くしゃみの気配

理性がなかったらケダモノなのかな
俺の理性がなくなったら
暴言や暴力や性衝動にシームレスに従うようになるのかな
言語は失うのかな
道具も扱えなくなるのかな
理性が僕を僕たらしめているのかな
理性が働いていないときの僕は
僕じゃないのかな
寝ているときの僕は僕じゃないのかな
僕は起きたら僕だけど
なんで寝る前と同じだと認識できるほどの差異でいられるんだろう
僕は明日も僕でいられる保証なんて
そもそも
昨日の僕が僕である証拠すらないのに
僕は僕をやるんだ
台本もないのに
本能の僕は僕でないのかな
滅するべき僕なのかな
本能をくすぐらない無刺激に
理性も本能もいらないよな
本能に向きと強弱を与えるのが理性で
理性は僕じゃない
本能が僕でもない
破裂も消失もしない状態のあいだ中が僕だ
電気が本能で
電線が理性だ
電流と電圧があってはじめて成立するようなものだ
きっとたぶん僕はそうだ
ほかは知らん
知ってたらこわい
僕は僕しか深く知れない
僕は他者を浅くしか知れない
僕は僕のくしゃみの手前の気配まで受信できる
僕はあの子の出そうなくしゃみ顔を見て初めてわかるだけ