見出し画像

【エッセイ】20%だけ残っている記憶

 忘れたわけではありません。きっと元からそんなもの無かったんだと思います。きっとそうです。


 誰しも覚えていない記憶があります。昨日の晩御飯も思い出せないことがあるのですから。
 あの時きみが言った言葉だとか、別れ際にした彼の表情だとか、旅先で出会った団子屋の彼女だとか。

 幼いころの記憶なんて、もう欠片も思い出せません。
 それはまるで夢のように、徐々に徐々に薄れていくものなのですから。記憶なんてそういうもの。


 だから、私がそれを忘れてしまったとしても、何の問題もないのです。

 それは記憶。前世の記憶でも構いません。
 忘れるべく決められたものであれば、私はそれを快く忘れましょう。

 彼女がいなくなる世界なんて考えられないと思いながら、そんな世界を想像してしまったのは、きっと、私が彼女に命を吹き込んだから他ならないでしょう。


 残っている記憶は20%。
 私はこれで、記憶を紡ぎたいのです。




 きっとこれは、だれもしらないはなし。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?