外国人の多い学校に来ちゃったなー初等教育を受ける権利


 今回は、前回の記事で述べた「我が国は、外国人の子どもにも、『初等教育を受ける権利』を保障しなければならない」点について述べる。
 これについては、分かりやすく説明してある本が見つかったので、これを引用する。書名は、「外国人住民の生活相談Q&A」(注1)で、次のように述べている。

Q27 外国人住民の子どもは、日本の小・中学校に入れますか。
 A 外国人住民の子どもには、日本の義務教育への就学義務はありませんが、公立の義務教育諸学校へ就学を希望する場合には、国際人権規約等も踏まえ、教科書の無償配付や就学援助を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障しています。(太字は筆者)
 Q32 外国人住民は、子どもを必ず日本の小・中学校に通わせなければならないのですか。
 A 義務ではありません。しかし、世界的に「初等教育は義務的なもの」で重要であるという考え方からも、何らかの学習機会は保障される必要があります。


 つまり、外国人住民に対して「子どもを日本の学校に就学させなさい」という義務を負わせることはできないが、外国人住民が希望すれば、日本の学校は受け入れなければならないということである。

 法的根拠は、この本にも述べられているが、まず「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A 規約)である。その13条の1に、次のように定められている。

一 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。
二 この規約の締約国は、一の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
 (a)初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとすること。

 次は、児童の権利に関する条約である。その28条に次のように定められている。

1 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、
(a) 初等教育を義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする。
(b) 以下省略

 これらの条約と憲法と教育基本法が定める「教育の義務」との関係について文科省は、「外国人児童生徒教育の充実方策について(報告)」(注2)の中で、次のように述べている。

憲法及び教育基本法は、国民はその保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負うものとしていることから、普通教育を受けさせる義務は、我が国の国籍を有する者に課されたものであり、外国人には課せられないと解される。しかしながら国際人権規約等の規定を踏まえ、公立の小学校、中学校等では入学を希望する外国人の子どもを無償で受け入れる等の措置を講じており、これらの取組により、外国人の子どもの教育を受ける権利を保障している。(太字は筆者)

 つまり、憲法や教育基本法は、「国民」の「教育の義務」しか規定していないが、外国人については国際人権規約等の条約に基づき、「初等教育を受ける権利」を保障するものであるということである。
 細かいことだが、日本国籍の住民には、子どもが就学年齢を迎える時に、「就学通知」が出されるが、外国人住民には「就学案内」が出される。「案内」となっていることから、外国人住民は、日本の学校に就学させるかどうか保護者が選択できるということが分かる。
 さらに、この「就学案内」についても、文科省は、「2012年に、外国人の子どもの就学機会の確保に当たっての留意点について」(注3)という通知を出して、「外国人の子どもに対する就学案内等の徹底」(太字は筆者)を指示している。

 前回の記事に書いたように、日本語教育や外国人支援に携わっている人でも、この点を正しく理解してない人もいる。さらに、学校の教員でも、「外国籍児童・生徒の指導や支援は、『本来業務』ではなく、『余分な仕事』だ」と考えている人もいる。中には、「外国人の多い学校に来ちゃったな。早く転勤したい」などと言う人もいると聞く。実際に私は、2019年に私の住む県の教育委員会が主催した「帰国・外国人児童・生徒の日本語担当者連絡協議会」で、参加者に次のような質問をして、挙手で答えてもらった。
「なぜ、日本の学校に外国出身の児童・生徒がいるのか。日本の学校が、彼らを受け入れるのは『善意』か『義務』か、どちらだと思うか」とたずねた。すると、約4割の人が「善意で受け入れている」と答えた。「日本語担当者」でさえもこの状態である。
 日本が本当に「多文化共生社会」を目指すのならば、「教育を受ける権利」について、広く理解が進むように、行政だけでなく、市民レベルでも努力する必要があると思う。

出  典

(注1) 石川久・杉田昌平著「外国人住民の生活相談Q&A」(株)ぎょうせい,2020年
(注2) 「外国人児童生徒教育の充実方策について(報告)」の「Ⅲ 外国人のこどもに対する就学支援について」の「1 現状」
(注3) 平成24年7月5日付 24文科初第388号「外国人の子どもの就学機会の確保に当たっての留意点について」

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