令和2年司法試験環境法第1問

設問1⑴

1 甲工場は、水質汚濁防止法2条2項の「特定施設」に該当するものである。そのため、これを廃止する際には、所有者等は、環境大臣または都道府県知事が指定する者に調査をさせて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない(土対法3条1項本文)。

 本件では、施行規則1条1号に該当するとして、甲工場の使用が廃止された日から起算して120日以内に報告しなければならない。

2 このような措置が免除されるのは、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときである(同項ただし書)。施行規則16条3項は、「……(その他の関係者以外の者が立ち入ることができないもの)の敷地として利用される場合には、法3条1項ただし書の確認ができる。

 本件では、「公道で区切られることなく、かつ、事業所関係者以外の立ち入りはない」とされているため、これに該当する。したがって、3条1項ただし書の確認を受けることが可能である。よって、このような確認を受けた場合には、⑴の措置が免除される。

設問1⑵

1 乙工場を設置する場合、土地の形質の変更が必要である。したがって、4条1項柱書き所定の事項及び環境省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならないのが原則である。施行規則22条ただし書は、3条1項に規定する使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場もしくは事業場の敷地の土地の形質の変更については、「900平方メートル」であると定める。

 本件では、3条1項に規定される使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場若しくは事業場の土地の形質変更である。また、1500平方メートルにわたる広さであるから、「900平方メートル」「以上のものをしようとする」場合にあたる。よって、A社は、4条1項に係る事項を届け出なければならない。

2 ただし、施行規則25条各号に定められる場合には、このような措置をとる必要はない

 まず、本件では、3条1項ただし書の確認はなされていない。

 また、施行規則25条1号について、本件工事は「深さ数メートル程度掘り下げ」るので、同号ハに該当する。よって、1号の「いずれにも該当しない行為」ではないため、届出を要しない行為であるとはいえない。

 以上のとおりであるから、原則どおり、都道府県知事に対する届出を行うという措置を取るべきであった。

設問2

1 土対法5条1項は、都道府県知事は、土対法3条1項本文に規定するもので、土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがあるものとして政令の基準に該当する土地があると認めるときは、当該土地の所有者等に対して、指定調査期間に調査をさせて、結果報告を求めることができると定める。政令の基準は、施行令3条に規定がある。

 施行令3条は、法5条1項の調査命令の対象として、1項のいずれかに該当し、かつ、2項に該当しないことを要件としている。本件では、井戸水がトリクロロエチレンにより汚染され、施行規則28条の要件を具備していること、施行規則29条の基準に照らして地下水の汚濁が認められていること及び施行規則30条で定める災害時の用水のために用いるとされている場合には、施行令3条1項ロに該当する。本件では、新聞報道がなされたに過ぎないため、知事が水質検査を行って、規則29条に該当することが明らかになれば、法5条1項に基づく調査命令ができる。

2 この調査命令の結果、法6条各号の要件該当性が肯定される場合は、要措置区域として指定されることになる(法6条1項柱書き)。

 この区域の指定がなされた場合には、汚染除去等計画を作成し、都道府県知事に提出するように指示しなければならない。

 この計画を提出した者は、当該汚染除去計画に従って実施措置を講じなければならない(法7条7項)。もし、計画に従って実施措置を講じられていない場合には、当該実施措置を講ずべきことを命ずることができる。

設問3

 Dらは、A社に対して、地下水汚染の除去を請求することが考えられる。

 Dらには、現時点において、健康被害は生じておらず、具体的な損害が生じているわけではない。しかしながら、「発がん性のある揮発性有機化合物が、地下に浸透し、隣接する公園内の井戸水等を経由して、公園内の池の水をも汚染している」という可能性があるため、身体という人格権を根拠にして、当該保管行為をやめるように請求すること及び地下水汚染の除去を請求することができる。

 地下水汚染の除去に関して、具体的な方法についてまで特定する必要があるかについて、原告の側で個別具体的な方法を特定することは困難である。どのようにすれば汚染が除去できるのかは、汚染者の責任において適当な方法を選択すべきである。そこで、原告としては、具体的な方法の特定までは必要ではなく、包括的に汚染の除去を求めるだけでも、訴訟物を特定しているといえる。本件では、地下水汚染の除去として請求すれば、請求の特定としては問題ない。

 現時点においては、地下水が汚染されているという新聞報道がなされているに過ぎないので、A社が保管していた土壌に含まれていた揮発性有機化合物が井戸水等を経由して公園内の池の水を汚染していることを立証できれば、差止が認められる。

 なお、A社に対し不法行為に基づく損害賠償請求ができるのかについて、具体的な損害が明らかではない。そのため、公園が利用できないことにより損害が生じた場合は格別として、現時点では、損害賠償請求をすることはできない。

環境法過去問コンパクト解説講義


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