【環境法】令和元年司法試験第1問

設問1

1 環境基準とは、水質の汚濁に係る環境上の条件について、人の健康を保護し、及び生活環境を維持することが望ましい基準のことをいう(環境基本法16条1項)。あくまでも「維持することが望ましい基準」であることから、これに違反したからといって、直ちに法的な責任が生じるものではない。

2 もっとも、人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)については、資料1・第3・1では、「設定後直ちに達成され、維持されるように努めるものとする」とされる。このように規定されているのは、人の健康が、一度侵害されれば回復することができない高次の利益といえるからである。

 一方、生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目)は、資料1・第3・2で、「可及的速やかにその維持達成を図るものとする」としており、健康項目基準よりは、緩やかな定めとなっている。このように規定されているのは、生活環境項目基準は、望ましい基準であることから、それを達成するためにはさまざまな施策との関係で様子を見ながら、目標達成を図る必要があることや、健康項目基準とは異なり、高次の利益を保護するための目標ではないからである。

3 生活環境項目は、「⑴と⑵」の区分に従って、取り扱いが異なる。まず、「著しい水質汚濁が生じているまたは生じつつあるもの」に関しては、5年以内に達成するように、ある程度猶予されている。一方、⑴以外の水域に関しては、「直ちに達成され、維持されるよう水質汚濁の防止に努めることとする」と定められている。このような区分となっているのは、⑴のほうは、環境基準達成に時間がかかる一方で、⑵はすぐにでも対応可能であることから、「直ちに……」というように定められている。

設問2

1 工場対策

⑴ 排水基準(水質汚濁防止法3条1項)のみによる対応では、環境基準が「20年以上にわたって続いて」いる状態である。そこで、まずは、上乗せ条例による基準の厳格化が考えられる(3条3項)。

 排水基準を定める省令は、「排出基準は1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上である工場」等に適用すると定める、いわゆる裾切りが定められている。小規模の工場等に対する規制をすることなしに、水質環境基準を維持することができない場合には、排水基準の対象となる工場等について、より厳しい許容限度を定めることができる。

 その際、水質環境基準が維持されるため必要かつ十分なものでなければならない(施行令4条)。

 ただし、亜鉛に関しては、現在は、暫定排水基準が適用されているため、令和3年12月11日まではこの基準によることになる。そのため、暫定排水基準の適用が終了してから一定期間は様子を見た上で、それでも水質環境基準を達成できない場合に、上記の条例による対応を行うべきである。

 よって、COD、全窒素、全燐については、条例による上乗せ基準を設定するという措置を取ることができる。一方、全亜鉛については、現時点では、上乗せ基準を設定することはできない。

⑵ 次に、C湾の環境基準が達成できていないのは、水質汚濁防止法上の特定事業場のほか、生活排水、農地等が発生源となる水質汚濁物質が流入していることが挙げられる。B川の下流域は、人口密集地と電気メッキ工場の集積地がある。そうすると、C湾は、「人工及び産業の集中等により、生活又は事業活動に伴い排出された水が大量に流入する広域の公共用水域」である。また、水質環境基準を達成できていない状態が「20年以上にわたって続いて」いる状態である。そうすると、3条1項による排水基準のみによっては、水質環境基準の確保が困難であると認められる。

 よって、A県知事は、総量削減計画を策定し(4条の3)、総量規制基準を設定することで対応することになる(4条の5)。その前提として、環境大臣が総量削減基本方針を定めることと指定地域を設定することが必要となる(法4条の2)。環境大臣の基本方針の策定、指定地域の設定がなされれば、総量規制という措置をとることもできる。

2 生活排水対策

 生活排水に関しては、家庭における努力義務が課せられているに過ぎない(14条の5)。A県がとり得ることとしては、生活排水対策重点地域として指定することができる(14条の8)。

 指定された地域においては、市町村が、生活排水対策推進計画を作成し、計画に基づく施策を実施する(14条の9第1項)。この施策に関して、知事は、助言・勧告を行うことができる(14条の9第6項)。

設問3

 排水基準が設けられていない物質について、条例により規制対象とできるのかを検討する。これは、いわゆる横出し条例とされる条例である。横出し条例は、法29条により認められている。

 法29条は、「地方公共団体」が横出し条例できる旨を規定している。そのため、上乗せ条例とは異なり、G市も条例を制定することができる。

 29条1号は、「有害物質によるものを除く」と規定しているが、有害物質とは、「政令で定めるもの」をいうと規定されている(2条2項1号)。そのため、政令の定めがない物質Pは、29条1号の「有害物質」ではない。

 よって、G市は、条例により独自の排出基準を設定することができる。

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