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門前仲町で個性豊かな和歌山の梅酒に出会う――「梅酒堂」

東京は、日本の首都であり、流行の最先端を行く都市だ。しかし、その中には、昔から変わらない下町の趣を残したまちがある。その一つの門前仲町に、スポットライトを当ててみる。飲み屋街があり、常連さんに愛されるお手頃価格でお酒やアテを楽しめるお店や、おしゃれなデートスポットのようなお店も立地している。

そして、昨年の夏。東京メトロ東西線門前仲町駅2番出口を出て徒歩3分の場所に、和歌山の本格梅酒専門店、「梅酒堂」がオープンした。この記事では、門前仲町で和歌山の梅酒の魅力を伝える、久保田さんとそのお店梅酒堂を紹介する。

梅酒堂のこだわり

お店の中に入ると、左側に梅酒が20種類以上並ぶ壮観な眺めが広がった。ここに並ぶ梅酒はすべて、和歌山県で作られた本格梅酒だという。

※「本格梅酒」:梅、糖類及び酒類のみを原料とし、酸味料、着色料、香料を使用していない梅酒のこと。

日本洋酒酒造組合HP「本格梅酒とは」http://www.yoshu.or.jp/enjoy/liqueur/umeshu/honkaku-index.html
梅酒堂で扱われている本格梅酒。個性豊かな様子がラベルやボトルからも楽しめる

梅酒堂で扱われる梅酒は、一口に梅酒と言っても、その多彩さには目を見張るものがあった。梅酒の材料として用いる酒類はたくさんあり、使うお酒が変われば、味もまったく違うものとなる。

梅酒堂では、販売している梅酒のテイスティングができる。500円で3種類が試飲でき、店内では常に6種類の梅酒が楽しめるようになっている。

右から、ホワイトリカーベース、日本酒ベース、ブランデーベース、和歌山県のクラフトジンベース、米焼酎ベース、和歌山県の日本酒「黒牛」ベースの6種類の梅酒が並ぶ

いざ、テイスティング

私が今回、試飲させてもらったのは、ホワイトリカーベースの「梅干し屋のおすそわけ梅酒」、ブランデーベースの「勝僖梅-SHOKIBAI-」、和歌山県産クラフトジンベースの「くまの」、米焼酎ベースの「プレミアム紀州浪漫」だ。

同じ梅酒と言っても味だけではなく、色も個性の豊かさを物語っている

最初に飲んだのは、「梅干し屋のおすそわけ梅酒」。全国梅酒品評会で金賞を受賞しているこの一品は、みんなが期待している梅酒の味がする。甘さが口の中に広がっていくが、しつこさを感じさせることは全くない。嫌味を感じない甘さが、するりと喉を通り過ぎていった。

次に、ブランデーベースの「勝僖梅-SHOKIBAI-」を手に取った。口元に近づける前に、ブランデーの香りが鼻先をかすめる。口に含むと、ブランデーのまろやかさと梅の爽やかさが、口の中にじんわりと広がる。

3番目は、和歌山県産クラフトジンベースの「くまの」を。アルコール度数が高いため、香りは強いお酒らしい、独特なアルコールの匂い。口に含むと、梅酒のイメージを覆すようなスパイシーさとドライな味わいが。この梅酒は、甘いお酒が苦手という方にも、おすすめしたい。

最後に飲んだのは、米焼酎ベースの「プレミアム紀州浪漫」。金箔が入っていて、見た目が華やかなこの梅酒は、実際に飲んでみても見た目通り。白ワインのような、飲みやすさと口の中で広がる華やかさは、つい何度も口に運びたくなるものだった。

梅酒堂は、主に取り扱う商品は梅酒だが、他にも和歌山県の日本酒などの販売や、お酒以外にも梅干しや梅シロップ、梅ドボンという商品も販売している。梅シロップや梅ドボンは炭酸水で割ると、梅ソーダになる。お酒が苦手な方にもオススメしたい、これからの暑い季節にぴったりの商品である。

上段左と下段が、梅干し。上段中央が梅シロップ、上段右が梅ドボン

店主久保田さんと一緒に和歌山と梅酒を垣間見る

個性的な梅酒の魅力をにこやかに語りながら、私たちを梅酒の面白さに惹き込んでくれる、店主の久保田さん。久保田さんになぜ和歌山の梅酒のお店を始めたのか、尋ねてみた。

「私の母は、和歌山県出身なんです。だから、小さい頃から和歌山にはよく行っていました。そして、大人になって気づいたのが、和歌山の梅酒の種類の多さだったんです」

和歌山県のお土産屋さんに足を運ぶと、梅酒がずらっとならんでいて、まさにこのお店に入った時のように、圧巻される光景が広がっているのだという。しかも、本場はさらに種類が多いらしい。その光景を見た久保田さんが同時に感じたのは、自身の生まれ育った東京のことだった。

「東京には、こんなに多くの種類の梅酒に出会えるところが、なかなかないと思ったんですよね。そこが、もったいないと感じました。もっとたくさんの梅酒があることを、都内の人にも知ってほしいと思い、和歌山の梅酒に特化したお店を開きました」

和歌山県の梅酒の種類の多さには、じつは理由がある。
久保田さんは、その理由についても教えてくれた。

「和歌山県のみなべ町という町は、梅酒特区に認定されています。その特区に認定されると、酒税法で定められている製造量の規制緩和があります。酒類製造免許を受けるには、年間6キロリットルの製造が必要ですが、年間1キロリットルに緩和されることで、小規模な事業者でも梅酒を製造できるようになりました」

みなべ町は、梅の最高品種「南高梅」誕生の地でもあるそうだ。伝統的な梅産地であることから、みなべ町の梅農家では、伝統的に自家製梅酒を製造し各家庭で嗜好品として親しまれてきた歴史がある。(和歌山県「構造計画特別区域計画」参照)

梅農家はもちろん、梅干しのメーカーなどの小規模な事業者でも、梅酒をつくることができるようになった。そのため、それぞれの家や事業者で受け継がれてきた梅酒を私たちは味わうことができるようになったのだ。

お酒好きにこそ飲んでほしい梅酒がある

次に尋ねたのは、どうしてここ門前仲町を選んだのか、ということ。久保田さんにとって、門前仲町は身近な地域の一つだったそう。

「私は門前仲町駅の隣の木場駅の近くに、7年くらい住んでいたことがあります」

久保田さんは、当時から門前仲町にとあるイメージを抱いていたそうだ。

「門前仲町といったら、やっぱりこの辺で言うと、酒飲みの街でお酒好きが集まる街じゃないですか。居酒屋さんも多いですけど、酒屋さんもちょっと変わったお店が多くて。ただお酒を飲むのが好きな方もいると思いますが、ちょっと変わったお酒を好きな方もいらっしゃるかなと思ったんです」

そう答える久保田さんは、お酒好きな方にこそ飲んで欲しい梅酒があると続けた。

「梅酒って、初心者向けでお酒の入門のような立ち位置にある気がしていて。お酒が苦手な人が飲むイメージってあると思うんです」

そういう久保田さんは、先ほど紹介した梅酒を手に取る。ブランデーベースの「勝僖梅-SHOKIBAI-」、和歌山県産クラフトジンベースの「くまの」は、アルコール度数が20%を超えている。

「梅酒の中にも、度数が高いものもあります。度数が高いだけではなくて、甘すぎずお酒の味もしっかり、梅の味もしっかりというバランスの取れたものもたくさんあるので、梅酒なんて普段全然飲んでないっていう方にこそ、飲んでほしいと思います」

梅酒堂に来るお客さんも、まずは入店して梅酒の種類の豊富さに驚くことから始まり、テイスティングをした後には、梅酒の味がこんなに違うのかと驚くことが多いという。そんな感想をいただけると嬉しいんです、と久保田さんはこのお店を営む楽しさをおすそ分けしてくれた。

さらには、お好みありますか?とお客さんに聞いても、梅酒の好みがわからないという方も、多くいらっしゃるそう。

「テイスティングをされた後だと、ご自身の好みを発見できるので、そんなときも嬉しく思います」

そして、ターゲット層は、久保田さんの予想をいい意味で裏切ることもあった。
お客さんは、若い女性の方が多いだろうと思っていたところ、現状、感覚的には半々くらいだという。

「カップルもいらっしゃいますが、女性の方が気になって来てくれて、結局気に入って買われるのは男性の方ということもありますね」

その男性の方がどれほど梅酒に詳しいのかは、私にはわからない。それでもこの場所で、期待以上の梅酒に出会えたことが想像できた。

もっと和歌山の梅酒を広めるために

これからの目標ややってみたいことはありますか、と聞くと、久保田さんの未来予想図は明確に描かれているようで、すぐに返事が返ってくる。

「ECサイトの立ち上げですね。あとは、ポップアップストア。商業施設やイベントなどにお店を出して、門前仲町以外でも広げていきたいと思います」

昨今のインバウンド需要もあり、ぜひ海外の方にも飲んでいただきたいとも話していた久保田さん。梅酒の知名度は、世界的にみるとまだマイナーなようだ。それでも、台湾からわざわざ調べたうえで足を運んでくれるという、嬉しい出会いもあったそう。

そして、この一帯の街歩きを促進できるようなマップ作りもしてみたいと話してくれた。個性的なお酒に出会える門前仲町の北には、カフェや庭園などでお散歩が楽しい清澄白河がある。

じつは、清澄白河から門前仲町までは徒歩15分ほどの距離で、意外と近い。清澄白河と一緒に楽しめるようなまち歩きマップがあれば、どちらの街に足を運んでくれたゲストにも、もう一方に行ってみようかなと思わせるしかけ作りができる。

マップ作りはまだ構想段階なんですが、と言う久保田さんの未来予想図が実現されることを、私も楽しみにしている。

老若男女を問わず、お酒好きもカフェ好きも受け入れてくれる、この地域に訪れた際は、和歌山の梅酒との出会いもぜひ楽しんでほしい。


梅酒堂
 〒135-0047
 東京都江東区富岡1-24-6 1F
 TEL : 03-6319-7656

【営業時間】
 12:00~21:00(金・土は23:00まで)
【定休日】
 月・火(祝日の場合は通常営業)

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