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タクシーと雲と


タクシーの列をひとつちぎって
あなたに逢いに来ました
鞄を掛け直した肩が
ヒールでリズムを刻むたび
躍る甘い残像
約束が帰った町に静寂が腰を下ろす頃
夢でも逢っているのでしょうか

待ち人の群れとタバコの煙
あいつはやっと来ました
ふざけて笑い合う声は
ビールのグラスを満たすたび
もっと上がるボリューム
喧騒を送ったあとのタイヤが熱を冷ます頃
続きを話したくなるのでしょうか

矯正のレンズふたつ並べて
凝らすと夜が見えます
流れに乗り損ねた雲は
次第にちぎれて離されて
どこか誰かのよう
面倒を嫌ったツケは気のないふりも飽きた頃
胸に垂れ込めてくるのでしょうが

タクシーの列がひとつちぎれて
誰かを迎えに行きます
街灯あかりで影を整えても
待ち人も約束もなくて
そんな夜の僕です
焦燥を離した腕で夜空の風を掴んだら
そのうちどれかに追いつけますか
追いつけるのでしょうか

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