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言葉のナイフ

ネットの匿名性を隠れ蓑に、他人を無責任な言葉で傷つける事件がネットニュースで話題になります。
 
事件化すると、攻撃した本人はアカウントを閉鎖して逃げ得です。
しかしこれは本当に逃げ得なのでしょうか。私は他の観点が存在すると考えています。
 
五十路近くまで生きて来て思うのですが、人に対して悪口や罵りの言葉を掛けることには「コトダマの作用/反作用の法則」みたいなものがあって、それが口頭であれ、ネットの書き込みであれ、言葉を発した本人もダメージを受けることになる、と感じます。
 
私自身がビジネスパーソンとして今よりもっと若かった頃、随分と尖っておりました。許せないことがあると上役であろうが何であろうがお構いなく怒鳴りつけ、相当危険人物のレッテルを貼られただろうなと今になって思います。
 
私の許せないのは大体の場合、悪意ある言動や無責任な行為によって自分の部下や同僚が傷つけられたケースです。念のために言っておくと、しょっちゅう怒鳴っているわけではなくて、私が怒鳴るケースの場合は相当ひどい事由がある場合なので、上役もシュンとしているのが通常でした。
 
今もその片鱗は残っていますが、随分丸くなったと思います。歳を重ねて今思うのは、強い言葉をぶつけることが、自分にとって良くないということです。それが例え仲間を救うために必要なことだったとしても。
ある意味本質的に冷たくなったと言えます。課題が目の前にある時、敢えて自分が傷を受けないようにするために課題解決をしないことを選択するときがあります。
 
あくまでバランスの問題ですが、自分の人生の質と成長、それから組織課題解決のどちらを選ぶかという局面です。若い頃はひたすら後者を選んでおりました。
 
長年のうちに分かってきたことは、例え人を救う正当な局面でも、誰かを非難する言葉は自分にも一定のダメージを与えるのです。ですから大きい組織のトップに立っていく人、いわゆる出世コースの人は修羅の道であると思います。守るチームや部下がある以上綺麗事は許されず、あらゆる奸計、罠を仕掛けてくる相手がいる世界を生きる以上は刀を抜く必要があるからです。そしてそれは必ず自分をも傷つけます。このことを下図の「言葉の諸刃の剣」のイラストで表現してみました。普通に言う諸刃が、刃と峰の両方に刃があることを指すのに対し、言葉の諸刃は柄も刃になっており、相手を刺せば自分も傷つきます。

イメージ 言葉の諸刃の剣

さて、この「作用/反作用の原則」の中でも、「反作用」のみが現れるケースもあります。つまり、中傷の言葉を、受けた方は傷ついておらず、投げかけたほうだけが傷つくパターンです。
 
私は第一印象が悪いのか、まれに初対面の人に罵倒されることがあります。さすがにそんな極端なことは数回しかないですが。
 
そういう時を思い起こすと、私は喰らっておりません。構造が見えているからです。
初対面の私を相手が理解しているわけが無いので、全否定の言葉を掛けるということは、その方の中の何かが私に反応しているわけです。いわば私という鏡に映った自分の姿に憤怒している。
 
それが分かるので、私は相手に対して怒ってもいないし、不快でもありません。むしろ「この人は大丈夫だろうか」とちょっと心配しています。
 
そういった方をその後観察しておりますと、「あわよくばもう一度鼻を明かしてやりたい衝動/あんなことまで言う必要は無かっただろうかという迷い」という矛盾した感情の混沌が眼の色に見えます。
そしていずれにせよ私には近づいてきません。私も色々な方とお付き合いする中で罵倒した方は優先順位が低くなるので近付かないのですが。
 
すると、自分が投げた言葉でただ自分を縛っているな、という状況が現れます。そのような言葉を掛けた真意が分かりませんが、自分の中にしこりを残し、縁を遠ざけるだけの無価値な行為です。損をされているな、と感じます。これが、投げかけた方のみが傷を受ける例です。
 
聖書の中に「右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい」という有名な言葉があります。
究極の自己犠牲、キリスト様は何とお人よしなのだろう、という印象を私は昔持っておりました。
しかし今になって思うのは、「傷を受けるのは打ったあなたなのだから、左の頬も打ってごらんなさい」という毅然とした意味合いが多分に含まれていると感じます。
 
色々「言葉のナイフ」に関する類型が出てきましたので、ここでビジネススクールが得意な「4象限」でまとめてみました。
言葉を掛ける方に悪意が無いことを「ニコ」と表現し、悪意あることを「プン」と表現します。
相手が喰らっていないことを「スカ」と表現し、ナイフが刺さって傷を受けている状態を「グサ」と表現します。名付けて「言葉のナイフ ニコプン スカグサの4象限」です。

言葉のナイフ ニコプン スカグサの4象限

残りの自分の限りある人生の質を高めていくために、この4象限の選択肢を慎重に選んでいきたいと思います。

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