Labsから事業部へ、生成AIによるプロセスのリデザイン
長いので3行で
・これまでのLLMに関するR&Dを元に、チャットではなく文書処理にフォーカスしたAI・LLM事業部をスタートします。
・ポイントはLLMのアルゴリズムの汎用性の高さを活かしつつ、業務プロセスを観察しAIが自然に溶け込む業務アシスタントを構築すること、それによるリデザインにあると捉え、プロダクト開発を進めていきます。
・第一弾は三井物産デジタル・アセットマネジメントと連携しに金融事業でのLLM活用による文書処理業務アシスタント開発を進めていきます。
AI・LLM事業部がスタートします
LayerXでは、「すべての経済活動を、デジタル化する」をミッションとして掲げこれまでバクラクによる人の生産性、ALTERNAによるお金の生産性、そしてPrivacyTechを通じたデータの生産性に取り組んできました。
また、この4月からはLayerX LLM Labsを設立し、LLMの業務活用について模索する体制を整え、R&Dを続けてきました。自前でのLLM自体の開発の模索から始まり、直近では実際のアプリケーション開発まで様々な検討を進めてきました。
そしてこの度、LayerX LLM LabsとPrivacyTech事業部を合わせて更に陣容を拡大し、事業部化することになりました。AI・LLM事業部、略してAL事業部と呼んでいます。生成AIがもたらすインパクトを、すべての経済活動のデジタル化につなげる、生産性の向上につなげるために活用していく、バクラクや三井物産デジタルアセットマネジメントとは完全に独立した新規事業チームです。これまでバクラクで培ってきたAI-OCR等の機械学習技術や、PrivacyTechを通じて得たデータ活用とプライバシー保護の両立といった知見を組み合わせ、より実業で活用可能なLLMサービスの構築を目指します。
生成AIによって、人・モノ・金・データのあらゆる生産性向上を目指す、そのために様々なプロダクトやソリューションを提供していくことがこの事業部の目指すところとなります。
実はすでに様々なお客様と個別に取り組みをスタートしており、その取り組みも一つのプロダクトに閉じず、生産性に大きなインパクトをもたらすものであればソリューション的取り組み含めて広く連携させていただいております。
この取り組みの中で重要なことが「プロセスのリデザイン」だと捉えております。本日はAL事業部の公開に伴い、このプロセスのリデザインとは何か考えていこうと思います。
生成AI、特にLLMという革新
生成AI、特にLLMは直近様々なチャットアプリケーション的活用が取り上げられてきました。この対話能力の高さには目を見張るものがあります。私自身、毎日様々な物事をChatGPTと対話し整理し、学びに変えています。このブログの構成もChatGPTと共に練りました。
一方で、対話することだけがLLMの価値ではありません。むしろほんの一端でしか無いように感じています。現在法人ChatGPT的なサービスやチャットUIが盛り上がっていますが、AI・LLM事業部ではこれらの領域とは別なものに現在取り組んでいます。
といいますのも、チャットや対話は確かに真新しく面白いものなのですが、上手く業務を改善するにはPromptのリテラシーという非常に高い壁がそびえ立つためです。検索ですらリテラシーの高低で活用度合いが変わりますが、Promptはそれに輪をかけて難しいものです。あくまで周囲でのヒアリング結果に基づきますが多くのケースでChatGPTライクなツールの継続活用率が当初の10%程度にとどまっているとも聞きました。
では何に取り組んでいるのか、その前にLLMのもう一つの価値、汎用性について書かせていただきます。LLMの登場は我々の仕事の仕方一つひとつに深く食い込みうる、汎用的なタスク処理の力を得たというように感じています。
汎用性の生み出す業務フィット力
LLMはご存知の方も多いところですが、多様なタスクを一つのモデルで取り組むことができます。カテゴリ分類から要約、対話まで、そして最近は言語を超えて画像など視覚も組み合わせることができるようになりました。
これらのタスクの一部は専門のアルゴリズムでも解決が可能なものであったと言えます。例えばバクラクで取り組んでいるようなAI-OCRは専用アルゴリズムを活用しています。一方で処理速度や精度、コストを多少無視すればLLMでも解くことができます。その対応コストは0からモデルを構築することと比べて圧倒的なコストパフォーマンスを発揮しています。
LLMの汎用性が生み出すタスク対応のコストパフォーマンスは無視することの出来ない強力なメリットだと感じています。
これまでは専用のモデルを作るには技術力ある人を集める事が必要であり、また金銭的コストを要するものでした。ですのでAIの力を受け取れるのは資金力がある企業が専門のAI系ベンダーに発注して開発するか、はたまたSaaSに組み込まれ提供されているものを活用する必要がありました。前者は資金力があろうともやはりコスパを考えて取り組める領域は一部でしたし、後者でAIの力を組み込めるのは一部のニーズが大きい領域のみです。バクラクも、帳票処理というわかりやすいニーズに対してこれまでAI-OCRを提供してきました。
そのため、世の中を構成する多様な業務の多くではAIを上手く活用することがコスト的に難しい状況にあったように思います。LLMの登場はこの多様な業務に対してAIをフィットさせる重要なブレイクスルーとなりました。
例えニーズが1社の一部の部門にしかなかろうと、LLMを上手く活用すればもしかするとコストに見合う形でAIによる業務変化を生み出せる可能性があるのです。
まさに、LayerXで目指す「すべての経済活動を、デジタル化する」上での重要なピースであると言えます。
プロセスリデザインの重要性
このLLMの力を活かす上での私たちの取り組みの核心は、プロセスのリデザインにあると考えています。リデザインとは、あくまで人を中心に置き、人の業務をアシストするAIを組み合わせて新たな業務プロセスを生み出すことと考えています。LLMや生成AIによる業務の自動化は、置き換えることではなく、より良いユーザーエクスペリエンス(UX)を追求し、生産性の向上を目指すものです。
なぜリデザインとわざわざ謳うのでしょうか。LLMはあくまで機械であり責任を負うことが出来ませんし、人にとっての正解を完全に理解できるわけではありません。ハルシネーション等を0にすることはできません。それ故に、LLMで完結したプロセスは常に安全性リスクやコンプライアンス上のリスクを包含することとなります。
やはり人は重要であり、LLMはあくまで人の生産性を高めるための存在であるべきだと考えています。そのため、人を中心にLLMというアシスタントを活用したリデザインがあるべきだという結論に至りました。
そして、これまでのSaaSでは「システムに人が合わせる」という時代でしたが、LLMを組み合わせることで「人にシステムが合わせる」が実現できる時代が来ました。多様なタスクにフィットする事ができるゆえに、人の行動を大きく変えることなくデジタルな力を提供できる可能性があります。SaaSの次の時代が来るのかもしれません。
例えば、様々な契約書の絡む業務プロセスでは、その内容を人が読み、例えば会計ツールなどに入力し債務・債権管理などを行うといったプロセスがあります。一般的なツールは柔軟に契約書から値を読み取る事ができませんので、ツールを導入した場合人が契約書を読み込みツールに入力するという手間を必要とします。このプロセスにおいて契約書をLLMは上手く読むことが出来、人の作業をアシストできる可能性があります。LLMは、ソフトウェアを人の作業に溶け込ませる架け橋となるのです。
これまでの業務プロセスを観察し、人の取り組むべき付加価値領域や責務領域とそうでないLLMが取り組める領域を見極め、人との共同をリデザインすることでLLM時代ならではの生産性を生み出せるのではと考えています。
我々の取り組む、文書処理という広くて多様な業務領域
リデザインという考え方の元、AI・LLM事業部では特に文書処理にフォーカスして取り組みを進めてきました。前身となるLLM Labsの設立からこの仮説を追いかけ続けています。対話ではなく、あくまで汎用性高い自然言語処理エンジンとしてのLLMにフォーカスし、また自然に業務プロセスに溶け込むアシスタントのあり方を追求してきました。
我々の業務は多くの文書が登場します。一般的な帳票から契約書、有価証券報告書やインターネット上の様々な情報など、多様な文書を収集し、整理し、組み合わせ一つの業務を形作っています。その過程はバクラクのように既存のAIを活用して効率化された領域もありますが、未だ多くの領域は人間が読み、人間が整理し、人間が組み合わせるというプロセスとなっています。
こうした文書データの取り回しを様々な領域でLLMはアシストすることができます。様々なソースからデータを収集し、そのデータから予め決められたインサイトを抽出し、それらを活用して新たなアウトプットを作る、このプロセスの様々な部分でLLMは活躍します。
プロセスの多くはある程度定型的でもあります。ここにLLMが介在することで、人が手を動かすことを減らしつつ、一方でポイントごとに人と協同することで誤りを上手く減らす、そんなプロセスをバクラクなどで培ってきたAIのUX設計を組み合わせることで実現できると感じています。直近の開発を通じて、プロンプトを人が気にする必要はなく、リデザインされた業務プロセスに従ってLLMが渡された文書を取り扱うような体験が実現できてきました。
アセマネ・証券領域における具体例
より具体的な話をしましょう。現在金融領域、特にアセットマネジメントや証券領域にフォーカスして取り組みを進めています。LayerXの関連会社には三井物産デジタル・アセットマネジメントというアセットマネジメント会社があります。デジタルの力で、非効率な業務プロセスを0から作り替えた新しいアセマネ会社を作っているのですが、この取り組みの中でAI・LLM事業部の技術が活用できる部分が多々見つかっています。
例えば、不動産ファンドの設立に絡む様々な契約書や登記簿などの公的文書が大量に業務に絡んできます。この文書に含まれる重要な情報、例えば取り扱っている建物や土地に関する情報や、投資家の皆様との約束事などといったものは整理して日々の業務に連携していく必要があります。この連携をスムーズに行う上でLLMが介在し、重要情報を抽出、他のツールに適切に連携することで上手く業務効率を高めていく、というPoCが進んでおり実際に成果に繋がりつつあります。
金融領域では、非常に大量な文書を扱う一方で、その情報の取り扱い方にミスは許されません。ですので、あくまでLLMが文書からの情報抽出を行いつつも、これをあくまでアシストとして、最終的には人がアウトプットを確認し利用する形となります。このプロセスのリデザインによって、情報整理にかかる人のコストは数分の1まで圧縮することができました。ちなみに、こうした文書処理と人との協同プロセスを効率化するプロダクトを現在開発しています。
アセットマネジメントに限らず金融領域の様々な部分で大量の文書からインサイトを取り出し後段の業務に繋げたり、それらを元に更に新たな情報を生成するシーンが存在します。今後プロダクトを通じてこうした業務効率化を目指していきたいと考えています。
未来、目指すもの
現在の取り組みの先に、生成AIが人間の意思決定を支援し、業務プロセスに沿って遂行するアシスタントとして機能するのではないかと感じています。機械によるサポートは、細部にわたり、人間の仕事をより効果的にします。そしてその実現の仕方は、対話やチャットに限られるものではなく、様々なシステムと連携したLLMがファイル処理や何らかのイベントをきっかけとして処理するといったよりシンプルなインタラクションに寄るものが増えるだろうと考えています。
また、LLMは今後より大きなコンテキストやより多様なデータとタスクを扱い、そして何より低価格化して行くだろうと考えています。明確な根拠があるわけではありませんが、直近もOpenAI社の発表をみればそのトレンドが明らかに続いています。そして世界中多くの研究者のエネルギーがこの領域に注がれていることから、様々なブレイクスルーが今後も生まれるものと考えています。
そうして進化したLLMに、AIとの親和性を意識した業務のリデザインとUXの発明がより多くの領域で生産性を高め、そして「すべての経済活動を、デジタル化する」ことに繋がるものと感じています。
LLMで自社を変えたいと思う大企業の皆様へ
現在、我々AI・LLM事業部は様々な大企業パートナーの皆様とLLMを活用した業務変革に取り組んでいます。金融領域に限らず、文書を扱う様々な領域でご一緒できればと考えています。
お気軽にこちらまでご連絡ください。
LLMで世界を変えたいと思う皆様へ
最後に、LLMを中心に据えた新たなプロダクト開発は、これまでにない常識での開発の連続であり非常に刺激あるものとなっています。今後AI・LLM事業部や、バクラクでのLLM活用は更に拡大してきます。一緒にLLMで新たな開発に取り組みたい、世界を変えたい、世界にチャレンジしたいという方を我々は積極的に募集しております。
少しでもご興味のある方、こちらからご連絡ください。
またカジュアル面談フォームもあります。ぜひお話しましょう。