LayerXにおける金融デジタル化の現在地
こんにちは、CTOの松本です。Apple Vision Proの到着を心待ちにしている毎日です。
ところで今日は、バクラクの話ではなくFintech事業について書いてみようかなと思い筆を執りました。入社から3年ほど管掌取締役として関わっているFintech事業ですが、その中で見えてきたことをエンジニアの視点でお伝えさせてください。
ちなみにFintech事業とは、三井物産様始めとしたアセットマネジメント領域のプロフェッショナルとLayerXの合弁会社で取り組んでいる三井物産デジタル・アセットマネジメント(MDM)を指します。
金融という領域の変化の難しさとインパクト
MDMでは、「眠れる銭をActivateする」というミッションの元で、金融事業をデジタルで根っこから作り直してみるというチャレンジをしています。MDMの取り組みをわかりやすく書くと、不動産やその他魅力的な資産を探し、さらにその資産に投資したい投資家の方を探し、投資家と不動産などの資産をマッチングする事業といえます。
この金融という事業、長い歴史の中で様々な象徴的トラブルを経て、投資家の方々を守るために非常に複雑な仕組みが必要となっております。端的には、金融事業者として不正なく投資家の資産を守るために様々なポイントで、基準を作ってレビューし記録を取り、その全体のプロセスが公正に回っているか証明することが求められています。悪いことを出来ない仕組みや、様々なトラブルを想定して、それでも投資家の皆様の資産を守る仕組みがあるわけですね。
この仕組み、過去は大量の紙の帳簿で作られており、今も沢山のWordやExcelのファイルとそれらに対する手入力作業で構成されていたりします。基幹システムも多々存在していますが、このルールを正しく実現するためなかなかに高価なものが多い印象です。実際、広く様々な金融事業者に届けようとすれば、コストが高くなるのは仕方ないですし、それを作り上げられている先人の努力には尊敬の念を覚えます。
この大量の運用ルール = ドメインの複雑さということになりますが、複雑なドメインではシステムも複雑であり、必然的に新たな仕組みへの移行も難しい事が多いわけです。
MDMらしいデジタル化
MDMはその中で、今のデジタル化技術をフル活用して今できる最大限のデジタル化を目指しています。例えば様々なSaaS・PaaSがありますし、最近ではLLMはとても魅力的な技術です。最新の技術で最大限のデジタル化を0から目指すことで、金融業界全体に「新しい金融デジタル化ってこんな感じです」を見せていきたいという思いがあります。
MDMでは、すでに2000億を超える不動産を取得しており、これらをデジタルで0から作り直すことで比較的少人数で運用することを目指しています。その中では以下の図にあるようなアセットマネジメントやOperationの業務領域それぞれに、時には既存のSaaSで、時には0から自前でシステムを作り切るところまで進めています。
また使いやすいプロダクト、という意味では元々toC領域のメンバーが多いことや、バクラクといった社内知見もある中で上手く進められている自負もあります。特にALTERNAは、LayerXの中でも唯一のtoCプロダクトであり、登録から証券の購入までの体験で細部に至るまで使いやすくするという強いチームの意思を感じています。
複雑なSoR領域をソフトウェアにする難しさ
一方で、証券業等の規則や会計・税制、セキュリティなどを考慮した業務オペレーションやそのための業務支援システムの構築については正直まだまだスピード早く取り組めているとは言えない状況です。既存の証券業とも違う新しい金融商品を提供している関係から、ただでさえ複雑な領域に、更に新しい領域としての正しさを確認するための法律事務所や規制当局、会計事務所等の意見も総合した新たな業務の構築が必要です。
我々の組織でまだまだ弱いと感じているのが、この未知領域での複雑なオペレーション構築になります。このSystem of Record領域、つまり正しく業務プロセスに沿った記録を行う領域の開発は、LayerXらしいより「爆速・使われない物を作らない」想像を超える使いやすさを追求する物事とはまた違ったスペシャリティが求められるソフトウェア開発です。目的を整理し、要件を抽出し、必要な規制・規則を元にしてオペレーションを整備、それらをシステム化し新たなデジタル化を推進し、品質を担保するという正直難易度の高いチャレンジです。一般には金融事業者に加えSIerやコンサルティング企業等多くのスペシャリストが関わって作り上げている部分でもあり、スタートアップとしてはなかなか難しい取り組みだと思っています。
突破の先にある新しくて面白い金融
ですが、スタートアップならではの0から作る面白さもあります。例えば我々の社内ではファンドの運用に関わる情報が集約されたDAMというプロダクトがあり、ここから稟議システムやALTERNAといったプロダクトに一気通貫で情報を集約する仕組みが出来ています。ファンドを作り、証券化し、お客様に届けるというプロセスを一つのデジタルな情報流にまとめられているのは、最初からこうした設計を意識して作れるからというものあります。社内にはアセットマネジメントや証券業のベテランが多数在籍しており、彼らとのディスカッションと我々のソフトウェアの知識を結集して新たなデジタル化を作り上げようとしています。
さらに、LLMの登場以降では、大量に飛び交う契約書や決算資料の情報整理や共有に向けての活用なども検討が進んでいます。最近ではLayerXからAi Workforceという文書処理専門のプロダクトも登場し、これを活用した新たな取組も検討がされています。LLM時代の新しい金融事業者のオペレーション構築ができるのではないかとワクワクしています。
LayerXらしさを活かした新しいSoR領域の体験を作るというところまで作っていくことが我々の目指す先にあります。以下はLayerX羅針盤より引用ですが、アウトカムを最大化するSoR領域を作りたく考えています。
難易度の高いSoRな領域のシステム構築の先には、金融の世界に対して新たなデジタル化された姿を提示することができる、と信じて我々は取り組みをしています。LLMも含め最新のテクノロジーを正しく業務に組み込み、高い生産性とソフトウェアならではのガバナンス担保の姿を見せることができれば、きっと証券業だけでなく様々な領域でより滑らかで新しい金融が出てくるのだと信じています。
金融のSoRなシステム開発は難しく、かつ人によってはとても地味で面倒だと感じる領域でもありますが、私自身は知力を尽くして要件を達成する営み自体がとても楽しいものだと感じています。この取り組みを楽しみ、金融の世界を前に進める、またこの経験を元に世の中の複雑さをソフトウェアに落とし込む力を更に伸ばしていきたいという方をMDMではお待ちしています。
この文書を読んで、もしワクワクしている方がいれば、この難しい旅路を楽しめるのではないかと思っています。ぜひ一緒に新しい金融を作りませんか?そんな方、ぜひカジュアルにお話させてください。
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