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Anycubic i3 MEGA アップグレード計画⑪ ベッド電圧を上げて昇温時間大幅短縮

どもどもYanでっす。

本日のお題は「ベッドの昇温を劇的に速くする」でっす。

FDM方式の3Dプリンタはベッド自体に電気を流して発熱させて温度をあげています。でも夏場ならともかく冬場だと、アルミのベッドは冷えているし、室温が低いので放熱も多くなります。つまりプリントに適した温度にするには時間がかかる。断熱材を底面に貼って放熱を少なくするのも昇温時間の短縮に一役買ってはいるけれど、それほど効果があるわけじゃありません。断熱材の費用しかかからないし、お手軽なのでやっておいて損はしないけれど、そこまで劇的な効果も見込めません。

そこで今回はもっと劇的に短縮するカスタムをしていきます。

注意:今回の内容はハードの改造にあたるカスタムです。メーカーの保証は受けられなくなりますので、実際に行う場合はその点を考慮して自己責任で行ってください。また、それなりの電流が流れる部分の配線変更を行いますので、ショートには十分注意してください。事故が起きても当方は一切責任を負えません。

ホットベッドってどういう仕組み?

MEGAはホットベッドからノズルの昇温、ベッドの昇温全てが12Vで動いている3Dプリンタ。ドライバ交換とかでメインボードの横に見える銀色の箱を見ていると思います。あれがDC12Vの電源。こいつからメインボードに電力が供給されて、ベッドやノズルを加熱するヒーターなどに分配されてます。

ベッドには電気の流れるパターンがあり、電気が流れるときに発熱します。熱が均等にベッド全体に広がるようにパターンが配置されているので電気を流すとベッドの温度が上がるという訳。これがちょー簡単なベッド加熱の仕組み。

で、昇温スピードを上げるには流れる電流を増やしてあげればいい。

電流を増やすには2つ方法があります。1つは抵抗値を下げてあげること。もう一つは電圧を上げること。これらはオームの法則で理解できます。

電圧(E)= 電流(I)× 抵抗値(R)ですね。

I = E/R

左辺のEを右辺に持って行って、Iを左辺に持っていけば上のように表現することもできます。

Iを増やすということはEを増やすかRを減らすという訳ですね。

これをMEGAに当てはめます。ULTRABASEの仕様では抵抗値は0.9Ω。今回の場合ベッドの抵抗値は変更できないので、電圧を上げる方向でやります。(以下の計算ですが、厳密に言うと温度が上がっていくほどベッドの抵抗値は大きくなります。単純な計算では済まないので温度による抵抗値変動は省略しています。)

オームの法則に当てはめると

12(V) = I(A) × 0.9(Ω)

I = 12/0.9 = 13.333...(A)

およそ13.3A流れてるわけですね。

これを12Vより電圧が高い、かつ入手性が高い24V電源に変更すると仮定します。

I = 24/0.9 となるので流れる電流は26.666...(A)

およそ26.7A。

スイッチング電源の表記ではWが使われていることが多いのでWにするのにジュールの法則を使います。

ジュールの法則に当てはめると…

W = E × I

オームの法則(E = IR)をさらに当てはめて

W = IR × I = I^2 × R

つまり

W = 26.7(A)^2 × 0.9 = 641.6(W)

24V 640Wくらいの電源が必要になります。高いです。1万くらい。2万以下で買ったプリンタに1万の電源はちょっと、というかかなり嫌。

買おうかどうしようか悩んでいたところTwitterでためになる示唆を頂きました。

Marlinの設定で最大電流を制限できる。

つまりMarlinで最大値を下げてあげれば、電源に負荷がかかりすぎて保護回路が働くということもなく、電源の性能を使いきれるということに。

有名な電源メーカーにMean Wellという会社があります。台湾の会社。世界第四位という規模らしいです。医療機器などにも使われてるらしいので信頼性は高そう。600Wのモデルがありますがアリエクで調べても高い。特に大きくて重いからか送料が高い。もう1つ下のクラスになると送料安いんですけど、350Wが最大になっちゃいます。さすがに350Wだと少ないので600と同じシリーズの450W、24Vモデルにしました。アリエクで安売りしてれば電源本体5,000円くらい。送料2,000円しないくらいなので合わせて7,000円。高いっちゃぁ高いんですけど、実際に試してみればわかりますが、昇温速度は劇的に上がるので、これくらいの価値はあるかなと。

買ったのはコレ。Mean WellのSE-450-24。450W、24Vの電源ですね。出力可能電流は18.8A。

送料込みで7,000円はちょっと高い、という場合は日本のAmazonでコレなら行けます。しかも480Wなので20Aまで出せます。これはテストも兼ねてメインで使ってるカスタムしまくってる方のMEGAを24V化したときに購入したやつ。すぐに試したかったのでAmazonで適当な電源を見繕って買いました。ただ、メーカー名よくわからん会社なので信頼性はMean Wellよりは落ちます。普通に使えてます(Amazonでの評価も悪くない)。

予算に余裕があるならMean WellのSE-600-24Vがオススメです。25A出力できる電源なので今回の要求をかなり満たすことができます。要求値である26.7Aに対して25Aなので93%。一応この後に書くMarlinでの出力制限はした方がいいですけど、かなり理想に近いです。要求値を完全に満たせる電源であればSE-1000-24というのもありますが送料合わせて17,500円とMEGAとほとんど変わらない価格の電源になっちゃうのでオススメはできません。この1000Wタイプは41.7A流せるので要求値は完全に満たせますし、電源への負荷はかなり低くなります。とは言えベッドへの電力供給は常時最大ではなく、指定温度に到達したあとは30~40%程度しか流れていないので450W電源でも低負荷と言えるレベルになっています。

あと必要なのは、20Aを流せるリレースイッチの一種ソリッドステートリレー(SSR)というもの。片方に電気を流すと、スイッチがオンになって電流が流れるというもの。

制御用信号がDC、制御される電流もDCというタイプのSSRが日本ではなかなか入手できないです(というかAmazonではほぼ中国発送の品しか見かけない上にアリエクより高い)。

秋月とかで売ってるかと思ったけどDCDCのやつはないんですよ。そこでアリエクで買うことにします。Amazonで買っても同じ中国発送なのでアリエクの方がお得です。ヘタするとアリエクの発送が早い店で買えばAmazonより早く届くもある。

いつも使ってるTriangleLabでコレを買いました。今回は早かった。SSRだけ注文したというのもあるとは思うんですけど、注文翌日に発送。6日後には届きました。アリエクで1週間はかなり早いです。

ヒートシンク付きで制御入力3~32V、出力は220V、40Aまでいけるやつ。日本のAmazonで買うとヒートシンクついてないので、ヒートシンク付きのアリエクのやつはかなりお得。というのも14Aくらい流すとかなりSSRが熱を持つんです。なので冷却してあげないとSSRの効率が落ちてしまって流せる電流が落ちてベッドの昇温が遅くなっちゃう。付属のヒートシンクでもかなり効果あります。

必要なもの

・24V出力できる電源(今回はMean Well SE-450-24)
・24V20Aが流せるSSR(今回はTrangleLabのDC40A流せるやつ)
・電源をコンセントに接続する電源ケーブル
・内部で配線する電線

電源とSSRは上で書いてるので説明は省略。電源ケーブルは今回はPC用電源に付属してたケーブルの電源接続側の端子を切り飛ばして使ってます。

Mean Well SE-450-24のスペックシートを見ると入力電流は10A/115Vとあります。なのでベッド昇温中は10A流れると考えていいと思います。メガネ型端子の電源ケーブルを見ると、だいたい6~7A/125Vって感じなので、使わない方がよさそうです。

内部で配線する電線も同じ。電源出力の最大値が18.8Aなので1.25sq、AWGで言うと16で行けるはずですが、少し余裕をもってAWG14、2.0sqのものにしました。ロールで買うと高いので、そんなに使わないしAmazonで見かけた3m切り売りのものを買いました。さすがに電線までアリエクで買わなくてもいいかなと。

いざ配線

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今回は24V電源からはベッドにしか電力供給しないので、TriangleLabのSSR商品ページの説明にある配線パターン図の一番上に例になります。MEGAのメインボードのベッド出力からUltrabaseに電力供給する太いケーブルが伸びてるのでこれを外します。

メインボードのベッド出力のプラスをSSRのINPUT側のプラスに、マイナスをSSRのINPUT側のマイナスに接続します。つまりベッドへ流すはずの電流をトリガーとして24V電源からUltrabaseに24Vの電流を流してあげるという訳。

SSRのINPUT側はテスターで測ると14.2KΩとかなり高い抵抗値なので12Vを印加しても電流はほとんど流れませんが(実測で0.1Aくらい)、SSR付属の22AWGくらいの電線を使ったところSSRまで信号は届いているけど、上手くオンにならず、太い14AWGのものにしたところ問題なく機能したので、SSR付属の電線は使わない方がいいです。

Ultrabaseから伸びている電線はプラス側を電源の+Vに、マイナス側をSSRのOUTPUT側のプラスに。そして用意した電線でSSRのOUTPUT側のマイナスと電源の-Vを繋ぎます。

電源ケーブルはほとんどが被覆の内側は黒と白と(3ピンコネクタなら緑も)になってます。なので白をN、黒をLにつなぎます。壁コンセントが3Pでアースも来ているのであれば緑はGNDマークに繋ぎます。

SSRにヒートシンクを取り付けます。動作確認であればその辺に置いてもいいですけど、しっかりとした設置をするのであれば電源と一緒に金属板とかにネジ止めした方がいいです。本体内に電源、SSRを入れて固定するスペースはないのです。何かしら足の下に置いて高さを稼いで底面下に置くか、配線を伸ばして横に置くかはお好みで。プリンタの設置位置を高くする時は足の下に置くものは丈夫なものにしましょう。不安定な場所に置くとベッドやヘッドの移動に伴う振動がプリント物まで伝わってプリント精度が落ちます。ホームセンターでレンガ買ってきて四隅に置くとかが安上がりかも。

TriangleLabのSSRは付属のヒートシンクにネジ穴作られてるのでMEGAの内側に穴開けてMEGA本体の金属部にSSRからの熱を逃がして放熱効率を上げるという手もあります。かなり熱を持つことになるのでホットボンドでの固定はオススメしません。下手すると熱で柔らかくなって取れます。

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上の図が配線が終わった図。薄くなっている部分はもともとの配線。濃いラインに変更します。くれぐれも薄い部分は残さないように

これで配線は完了。

配線の後はMarlinの設定変更

配線が終わったらMarlinの設定を書き換え。ベッドへの電流を制限してあげないと、電源の定格出力を大きく超えた電流を流すことになるので、電源の保護回路が働いてしまう可能性が高いです。

設定変更は

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configuration.hの433行目付近(行番号は異なる可能性あり)

MAX_BED_POWERの数値を書き換えます。

0~255の256段階の出力割合で設定します。(正確にはPWM出力のDuty比を変更してるけど分かりやすくするためにこう書いてます。)

100%の255にしてしまうと26.7A必要になります。今回取り付ける電源の最大出力は18.8A。

ということは18.8 / 26.7 = 0.704…

70%の出力にすれば電源の最大値を超えなくて済むと。

255 × 0.7 =178.5

255の部分を178に書き換えてしまいます。

これでMarlinでの電流制限は完了。コンパイルしてMEGAに書き込みます。

最後の仕上げ!

実際に使用する前にAUTOTUNEを走らせます。今回はベッドへの変更しか行っていないのでベッドだけでOK。PID制御は環境温度からも影響を受けるので、前にAUTOTUNEを走らせたときと室温が大きく変わっているなんてときはノズルもやった方がいいです。

実際に12V供給と24V供給でどれだけ昇温時間に変化があるのかをREPETIER-HOSTを使って確認。

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上はノーマル状態での90℃までの昇温時間、およそ11分ってとこでしょうか。100℃はエラーが出てあかんかった…。

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こちらは24V化した後の100℃までの昇温時間。ベッド冷え切らなかったので20℃からのスタートになってしまってますが、最初の5℃はどちらの電源でもすぐに上がってしまうので大差はないと思います。

明らかにグラフの幅が違います。こちらは目標温度が10℃高いにも関わらず3分40秒で100℃まで到達。

ちなみにこの計測はどちらもエンクロージャーはなしでやってます。

PLAやTPUを使う分には関係ない温度だけれどもABSを使うなら100℃は欲しいベッド温度。12V電源では1分かかってます。長い…。一方で24V電源にした場合は3分40秒。ベッドの昇温時間は約1/3になってます。開始指示を出してから実際にプリント開始されるまでは、ベッドの昇温が一番時間がかかります。この時間が大きく短縮できるのは僕的に大きなメリットがあります。

大きなメリットがある一方で、12Vで使うべきベッドの配線パターンに倍の24Vを印加するので、ベッドを破損する可能性があります。温度的にはベッドは耐えられるはずですが、20A近い電流を流すように設計されていない可能性が高いです。もしこのカスタムを行うのであれば、ベッド破損の可能性も考慮した上で自己責任で行ってください。(変更後しばらく使って特に変化は見受けられませんが、断熱材で底面を覆ってるのでベッドの配線パターンに変化が起きていないかは不明です。)

更新履歴

09/10/20: 寝ぼけて書いたせいか電源の出力の数字が間違っていた場所を18.8Aに訂正。
11/10/20: SSR付属の細い電線でメインボードのベッド端子とSSRを繋いだところSSRが上手く動作しなかったので太い電線を推奨するように訂正しました。

まとめ

超久しぶりのアップグレード計画記事となってしまいましたが、これからの寒い季節では活躍するアップグレードとなります。アップグレード計画の目標としていたプリント開始まで3分という目標はほぼ達成できました。

ベッドの昇温時間をもっと速くしたいという場合は、24V電源をもっと出力の大きなものに変更するか、ベッドのヒーターを100V化する必要があります。24V電源強化はコスト的に、100V化は安全面で数分を削るだけに対してリスクが大きいと思って、僕の記事では取り上げません。

興味がある片は「3Dプリンタ ベッド シリコンヒーター」あたりで検索すると情報出てくるんじゃないかな?

今後は冬場に活躍するエンクロージャーをお手軽に作るとか、追加した電源やSSRを上手く収める的な記事を書いてアップグレード計画は完了予定です。

ここから下は記事を購入してくれた方へのお礼だけです。カスタムの内容はここまでで全部書いてあります。でも、もし、この記事が面白かった、役に立ったと思ったら購入して頂けるとうれしいです。

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