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【Lost Liner Notes】 ハービー・ハンコック / ニューポートの追想 (1976年)

Herbie Hancock / V.S.O.P.

これは1992年にリリースされたCDのために執筆したライナーノーツを加筆・訂正したものです。

1976年6月29日、“ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル”で“ハービー・ハンコックの追想”というプログラムが組まれた。これはその名のとおり、ハービー・ハンコックのそれまでの活動の中から代表的な3つのグループによる演奏を展開するというものだったが、そのときの模様を収めたのがこの2枚組ライヴ・アルバムだ。つまりこれは“ハービー・ハンコックの歴史”ともいうべきスペシャル・コンサートだったわけである。アルバム・タイトルの『V.S.O.P.』は“Very Special Onetime Perfomance”の略。つまり1回こっきりのスペシャル・プロジェクトという意味合いだった(だがこれが1回だけでは終わらなかったというのはご存じのとおり)。そしてそのコンサートの模様を収めたこのアルバムは、ハービー・ハンコックというミュージシャンの当時の全体像を知るためには最適のアルバムとなった。だがこのアルバムについてはどうしてもくDISC 1>の、いわゆる“V.S.O.P.クインテット”のことが話題になりがちで、それ以外のふたつのセッションのことはあまり語られていないのが実情だ。実際あのクインテットの演奏はメチャクチャにカッコよかったし、例えばぼくのような1950年代後半生まれぐらいの世代のジャズ・ファンにとっては、あのクインテットは初めてリアル・タイムで接することのできた、カッコいいストレート・アヘッドなジャズ・グループだった。当時ブームとなっていたフュージョンを白い目で見ていたアコースティック・ジャズ・ファンにとって、彼らの演奏は“福音”に聴こえたことも事実だろう。当時は彼らの音楽を表現するのに“Jazz is back”という言葉がよく使われていた。だがそのV.S.O.P.クインテットの音楽を語るだけでは、このアルバムの魅力を語ることはできない、とぼくは考えている。なぜならアコースティックなジャズ・セッションというのはハービー・ハンコックというミュージシャンにとってはあくまでも“一部”でしかないのだから。このアルバムを聴けばわかるようにハービーの音楽は様々な方向性を持っており(ハービー自身はこういった音楽性を“オープン・マインド”と呼んでいた)、それらをすべて合わせて、はじめてハービー・ハンコックというミュージシャンの全貌がわかるのだ。つまりこのアルバムこそまさに“オール・アバウト・ハービー・ハンコック”ともいうべきアルバムであり、そのすべてが紛れもないハービーの音楽なのだ。

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