見出し画像

パッションと地域とテクノロジー

 僕は今、認知症に特化したデイサービスや老人ホームの運営と認知症コミュニケーションロボットの開発・販売を事業としているソーシャルベンチャー企業で働いています。

 社会人になってから16年以上経ちますが、幕開けは精神病院からでした。

 約9年間精神病院でソーシャルワーカーとして働きましたが、そこでの仕事はとてもやりがいがあり、面白く、同僚たちにも恵まれ、僕はその仕事が大好きでした。
 ただその仕事スタイルは「自分のケースワーク(個別支援)が良いか否か」だけに興味があり、もちろん目の前の患者さんに対しては一生懸命関わるのですが、そこからの広がりはありませんでした。
 まだまだ若かったこともあり人並みに出世欲や「もっと稼ぎたい」という金銭欲、「自分がどこまで通用するか試してみたい」という青い野心もありました。

 その野心に従い、企業に転職し、配属された新規部門では初めて部下ができたので「自分のケースワーク」以外にも興味の幅は広がっていましたが、「この部門をどうやって大きくするか」「いかにのし上がるか」ということばかり考えていました。

 そんな折、取引先の紹介で大阪市中央区で活動されている「障がい児の子を持つ親の会」の会合でこじんまりとした講演を行うことがありました。(当時の僕は油ギッシュな野心家だったのでほとんど営業のつもりでこの講演を引き受けました。)
 当時僕が所属していた部門は未治療の精神障がい者の人や制度の狭間にいる人達にアウトリーチして医療福祉サービスに繋げるという仕事を無料で行っていましたので、その講演会ではその事業紹介も少し行いました。無論、そこからお客さんの紹介があるかもしれないという打算の上です。

 講演が終わり、引き上げようとしている僕のところに2~3人のママさん達が来られ講演のお礼を言って下さったり、軽い質問をして下さったりしていました。その中のお一人が「もっと早くあなた達のような人がいることを知りたかった」とおっしゃられました。
 その方のお話を今でも覚えています。

 「公園デビューを失敗してしまったんです。他の子と同じように遊べなくて。子どもというのはある意味とても残酷で、自分たちと違う子について容赦なく『何であの子は僕たちと違うの?』と疑問を投げかけてきます。ひどいときは石を投げられたこともあります。
 近所の公園はほとんど行き尽くしてしまったので、遠いところにも行ってみるんです。でもやっぱりダメで。
 そんなことが繰り返されると疲れてしまって。。。
 家に引きこもるようになって。社会と関わりたくないし、社会からも関わってきてほしくなかった。お腹を痛めて産んだ我が子がいつしか社会のゴミにしか思えなくなっていました。」

 そのママさんは幸いにも(ママさんの)ご両親が強力に介入してくれたため、その暗闇のような生活から強引に連れ出してもらえ、また社会に関われるようになったとのことでしたが、その当時の自分を振り返ると明らかに鬱でもしかしたら最悪の事態にもなっていたかもしれず、だから「もっと早く知りたかった」とのことでした。

 この貴重なお話を聞くことが出来て僕の中に変化が起きました。
 まず最初に起きた変化は「営業」についての考え方でした。それまでの営業は「新規利用者獲得」という認識で、営業に回っていると明らかな塩対応を受けることも度々あるので、「営業=相手にとっても迷惑」というイメージが自分の中にも出来上がっていました。
 しかし、このママさんは「あなた達のことを知りたかった」と言ってくれました。僕たちの仕事を知ることでもしかしたら助かる人がいるかもしれない、だから「僕たちはこんなことをしていますよ」「僕たちはここにいますよ」と、知らないことで困っている人たちが来るのを待っているのではなく、こちらから会いに行くのが営業でもあるんじゃないかと思うようになりました。そしてそれは紛れもなく「ソーシャルワーク(社会に対しての働きかけ)」だと。

 それから「自分のケースワークが良いか否か」➡「この部門をいかに大きくするか」に変化してきた僕の考えが、今度は「この仕事はどう社会の役に立っているのか」を考えるように変化しました。
 大ヒットになった佐藤航陽氏の著書『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(NewsPicks Book 2017年)で「価値主義」という概念が提唱されています。それはこれまでの資本主義社会では貨幣に変換されなかった共感・信用・愛情などの価値がこれからの世の中では変換されていくという考え方です。

 僕はこれをシンプルに「ちゃんと価値のある仕事をすることが大事」と解釈しました。「何が売れ筋なのか」とか「今何が流行っているのか」ではなく、「誰にとってどんな価値があるのか」がしっかりしている仕事をすることが大事だと。
 例えば障がい児のママさんが育児ストレスで鬱にならないように、もしくはなったとしてもちゃんと回復できるように、こちらからアウトリーチしてしっかりサポートするような仕事はとても価値がある仕事だと思います。
 それは「誰」にとっての価値か?
 もちろんママさん御本人やそのお子さんにとってもすごく価値のある仕事でしょう。でも、それは行きつくところ「社会」にとっての価値になると思います。だってそんな温かい社会なら住みたくなるじゃないですか。
 この頃から、古くからどこでもよく言われてきた陳腐な言葉「世のため人のため」が僕の仕事における座右の銘的ポジションになってしまいました。

 次に、以前東京に住んでいたことがあったのですが、はじめそのポテンシャルに圧倒されました。人口・情報の多さ、最先端の物に溢れている街。商売を始めるなら東京がいいという理由がよく理解できました。
 しかし、それだけにこの東京一極集中がある限り「日本は元気にならない」とも感じました。
 地元の公園が寂れているのを見かけるととても寂しい気持ちになります。やはり公園には子ども達の楽しそうな声が溢れていてほしいものです。
 そんな元気のなくなった日本に自分の子ども達が住んでほしいとは思いません。僕は東京から奈良に帰る期日が近づいてくるにつれて、日本が元気になっていくには地域から元気になっていく必要があるんじゃないかと思うようになっていました。

 最後に、僕がずっと携わらせてもらっている業界は医療福祉業界です。医療福祉業界はいわゆる労働集約型のビジネスモデルです。つまり、敢えて嫌な言い方をすると、人に負担をかけるほど利益が出る仕組みになっています。例えば、訪問看護事業は1人の看護師さんの訪問件数が多ければ多いほど利益が出ますし、デイサービスでは人員基準ギリギリの配置にする、イコール1人のケアギバーが出来るだけたくさんのゲスト様を見ることが一番利益が出る方法です。
 今、日本は世界で初めての超少子高齢かつ人口減少社会になっています。この状況では労働集約型のビジネスモデルは限界が来るのは明らかです。僕はこの問題を解決するにはテクノロジーの力が必須だと思っています。

 ☐ 「世のため人のため」のパッション。
 ☐ 地域から日本を元気にする。
 ☐ リアル ✖ テクノロジー。

 この3つのこと全てに当てはまったのが今の職場The Harmony Inc.です。

 本気で「介護に関わるすべての人をハッピーに」する。そういう世界を創ろうと変人的なパッションを燃やす代表の高橋と、福岡のしかも都市部ではなく筑豊地区という田舎と、介護施設✖ロボットの掛け合わせ。
 この会社なら面白くて、かつ社会にとって良いことが出来そうだ。そう感じました。

 僕が人材紹介サイトを介して髙橋と出会った頃はコロナ禍真っただ中で、緊急事態宣言が全国各地で発令され、直接会いに行く予定もリスケになり、縁が切れかかったように感じたこともありましたが、僕は忘れられるのがイヤで何度もメッセージを送りました。
 後々聞くとこれが「この人、本気だ」と思わせたきっかけになったようです。

 それから数か月のペンディングを経て、直接福岡まで行くことが出来ました。そのとき、初めて会った髙橋が言っていた言葉を今でも覚えています。

 「だって、ぶっちゃけ『生産性』で見たら認知症高齢者って生産性ないじゃないですか。動物の世界なら狩りが出来ないヤツは見捨てられるのが自然ですよね。でも人間だけなんですよね、生産性のない存在に愛情を持ってしっかりサポートしようとするのって。だから介護ってめちゃくちゃ人間らしい仕事だなって思うんですよ。」

 そして晴れて2021年1月からJOINしています。

アシスタントマネジャーの辞令交付時にて


※ちなみにヘッダーの絵は勝屋久事務所代表でありアーティストである勝屋久さんの作品です。The Harmony Inc.用に描いて下さったとのことです。


 <著書『フォロバ100%』Amazonにて販売中✨>


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?