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「ぼくらの七日間戦争」★4.5~局地的TOKYO2021映画祭の5日目

この映画が公開された後、昭和から平成となり、冷戦が終結して、日本における少子化問題が”発見”された…という一連の流れをいま肝に銘じている、1978(昭和53)年生まれの氷河期どん底世代です。

こんにちは、ユキッ先生です。

小学校5年か6年のときに、3組の一部児童が教室籠城する騒ぎを起こした記憶があって、理由は担任に対する反抗だったようなんですが、間違いなくこの映画の影響だったんでしょう。まあそういう時代でした。私は1組だったんですけども。

オリンピックの期間中、「東京を舞台にした映画を観て感想を綴る」シリーズの5日目です。
今回私がサブスクでいただいたのは、こちら。

リアルタイムで原作小説のほうは読んでいて(文庫本を所有していた…記憶が曖昧)、映画は未見でした。
小学校高学年、本屋で本は買えても映画館には行けない年代だったんだよ。田舎だし。

あらすじと概要をコピペる

先のTBSのサイトよりコピペします(見出しのアレンジのみ筆者)。

■ストーリー
夏に向かうある日、青葉中学1年A組から菊地英治(菊池健一郎)ら男子生徒8人が姿を消した。学校側は体面を考え、騒ぎを大きくしないよう保護者らをなだめ、生徒たちの行方を必死に探す。町はずれの自衛隊の廃工場に集結して意気上がる生徒たち。学級委員の中山ひとみ(宮沢りえ)、橋本純子(五十嵐美穂)、堀場久美子(安孫子里香)らも菊地らの様子を見に行く。
やがて近所の人の通報で生徒たちの居場所が学校側にばれてしまった。翌日、教頭の丹羽(笹野高史)を筆頭に担任らが母親を率いてやってきた。対峙する両陣営。果たしてこの勝負、どちらが勝つか?史上最大のイタズラがいま爆発する…!
■出演
宮沢りえ、五十嵐美穂、安孫子里香、菊池健一郎、鍋島利匡、田中基、大沢健、中野慎、石川秀明、金浜政武、工藤正貴、金田龍之介、笹野高史、倉田保昭、大地康雄、佐野史郎、小柳みゆき、賀来千香子、室田日出男、出門英、浅茅陽子 ほか
制作年 : 1988年
プロデューサー : 青木勝彦
ディレクター・監督 : 菅原比呂志
原作 : 宗田理
脚本 : 前田順之介、菅原比呂志
主題歌 : SEVEN DAYS WAR
歌手 : TM NETWORK

あれ、コレ東京じゃなくなくなくなくない?

原作では東京が舞台であったかと記憶しています。書籍版のあらすじにも「東京下町」との記載があります。一方、映画のほうを観てみると「ミハマ市」という架空の都市が舞台になってました。また、生徒たちが廃工場に向かうシーンでの車のナンバープレートが「横浜」だったので、どうやらこちら側の世界では、東京ではないのかもしれないな、と気づいた次第です。

ま、いっか。
アニメ版にいたっては北海道になっていたし(未見です)。

でも、観ながら腑に落ちたのが、TM NETWORKの音楽が流れるだけで、当時の私のような人間には「(私の考える)東京っぽさ」が3割増しなんですよ。それまでに聴いたことのないシンセ音、脳にダイレクトにズンズコ来るビート…TM NETWORKの音楽こそが、あの時代の、まさに近未来都市の象徴だったんですよ。

「TM」の由来が「多摩」というのは有名な話ですが、小学生の頃の私たち世代のほぼみんなが、当時としては希少な自分の氏名宛て郵便で定期的に受け取っていたラブレター、そう、「進研ゼミ」DMでおなじみベネッセコーポレーション(元は岡山の福武書店)だって、1994年に東京拠点をまさかの多摩市に移したんですよ。東京になんて滅多に行ったことのなかった西日本の田舎の小学生にとっては、「多摩」という未踏の地は、完全に近未来都市のイメージでした。といっていまも未踏だから実情がどうだかわからないけど。

超余談ですが、氷河期どん底でおなじみの2000年度新卒採用のときに、ベネッセの面接で、「東京拠点が多摩って珍しいと思うんですけど、社員さん的にはどうなんすかね?」という話をしたら、面接官の顔が曇ったのをよく憶えていますよ。

脱線失礼しました。
小学校や中学校で人気のある先生は、おおむね脱線話が面白くて長い先生だからな。

時代のいちばんいいエキスが奇跡的バランスでMIXされてる

同世代としてはそういうテンションだったんだということをお伝えしたいあまりに脱線しましたが、そういう贔屓目を差し置いても、「ぼくらの七日間戦争」はとてもいい映画だと思いました。

もちろん原作がいい、というのもありますが、脚本も演出も無駄がないし、何より「あの時代」でしか再現できなかった「あの感じ」がきちんと網羅されている。「アレ」とか「アノ」とか多用し始めて、中年を通り越してすっかり初老。

1) ティーンエイジャーのモヤりもビジネスになる時代背景

尾崎豊がバイク盗難を歌ったのは1983年、校舎ガラス破壊を歌ったのが1985年でした。洋画だと「フットルース」の公開が1984年、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が1985年、「スタンド・バイ・ミー」は1986年。
邦画なら「ビー・バップ・ハイスクール」の第一弾は1985年公開。
1980年代、ティーンエイジャーのモヤりとパッションは、クリエイティブとビジネスの貴重なリソースだったんですね。
後述しますが、日本における第二次ベビーブームの子の出生数ピークが1973年で、彼ら、彼女らが中高生を過ごした時代です。
そして、少子化問題が”発見”されたのは1990年。1990年代以降、特にWindows95以降のインターネット的世界との関係も外せませんが、若者たちのモヤりの描かれかたは、もう少し内向きになっていく印象があります。

2) 大人を含めたキャラとモチーフの適材適所

健康で聡明なヒロイン、白ノースリ&ケミカルジーンズの宮沢りえはいうに及ばず、大人も子もキャラクターが非常に明快です。おそらく現代では、あそこまでティピカルにキャラ付けした演出するのはNGなんじゃないか。
学校に押し掛ける保護者もほぼ全員母親です。

先生たちも、佐野史郎は神経質だし、賀来千香子は美人で優しいし、倉田保昭のアクションはすごい(語彙力)し。
ただ1点、笹野高史がまだおじいちゃんじゃないのには驚きましたけど。菅井きんは1957年の時点ですでにばあさん役だったのに。

「ふとっちょ」とか「ガリ勉」って、古くから存在する絵本シリーズ以外で出していいのかな、という世の中になっておりますね。

廃工場内での生活も、ウェーイな部分以外にも、アクション、スポーツやアートの要素がとても効果的に配置されているのもとても良いです。子どもたちの得意を伸ばす物理的な場所があり、のびのびと発揮される描写も心地よい。

3)ラストシーンのバブルっぽさ

で、令和感覚で冷静に考える超ツッコミどころなんですが、この映画のラストシーンって、いかにもバブル期だなあと。

戦車がズドーン! で、パパーン!! で、フワアアアアァァァァ~、ですよ?

同じ事態がもし現代に生じていたら、大ラスのあの河原のシーンのような和やかさ、すなわち彼らの将来はないも同然ですよ。いいなあバブル期。
特に本年の東京オリンピックの開会式について一部界隈で語られたような、「完成までは紆余曲折あったけど、結果的にいいショウが観られたら、みんな感動してそんなこと忘れちゃうよね」っていう考えかたこそが、いかにもバブル期発想であることを、このシーンで再確認できました、ありがとう。

バブル崩壊前夜、元号は変わり冷戦が終わって、少子化問題も発見される

ここで改めて、「ぼくらの七日間戦争」が公開された1988年というのがどういう時代であったかを前後の出来事からマッピングしてみると、映画の世界観が持つ価値のようなものがまた際立ってきます。
無駄にクイズ形式で。

Q1. 昭和が終わり、平成が始まったのはいつ?
A1. 1989年1月。
Q2. 東西冷戦が終結したのはいつ?
A2. 1989年12月、マルタ会談。
Q3. 日本の少子化問題が始まったのはいつ?
A3. 1990年。少子化という現象自体は1975年から「始まって」いたが、合計特殊出生率が直前の丙午(1966年)を下回ったことが統計報告から判明し、社会問題として言及されるようになった。
Q4. 日本のバブル経済崩壊っていつ?
A4. 1991~93年。

いっきにめちゃくちゃ時代が変化しとるやないか。

1980年代後半以降、第二次ベビーブームの世代が青春時代を過ごしましたが、我々が支えていたCDのミリオンヒットやトレンディドラマ隆盛って、実質的なバブル崩壊よりすこし後の年代まで入るんですよね。
当時まだ社会人になっていたわけではなく、消費者としては主役だったから、あまりリアルタイムな「バブル崩壊」とか「少子化」に伴う危機感とかはもちろんなかった。
で、学生時代の自由を満喫しつつ、いざ就職するぞというあたりから、「あれ? もしかして、他の(これまでの)世代より損してる…?」と気づいて、それ以降は、世の中の未来方面への光度が自分が思春期の頃のそれを超えることがないことを、日々の生活実感としてただ味わうのであります。

この映画の、我々と同世代である主人公たちが持ってるエネルギーこそが、我々世代にとっての「戦車から打ち上げた花火」であったのかもしれない…と考えた次第です。

ただ、「SEVEN DAYS WAR」に限らず、TM NETWORKのイントロを聴くと、いまでも「俺たち・私たちは、まだこの社会と、戦えるんじゃないか…?」という有意義な錯覚に陥ることができるのは確かです。
もうそれに気づけただけでも、40歳を超えたいま観た価値はあったよ。

あと、「こんな時代が日本にもあったんだよ」と我が子世代に観せてみて、感想を聞いてみたくはなりますね。


というわけで、星4.5つ[★★★★☆](例によって半分の星は出ない)で。

カバー写真 / 廃工場っぽい写真がないので、前回に続き船からの風景でお茶を濁す





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