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都市雑感 #3 ~多拠点サービスにまつわるあれこれ~

【2/26追記:HafHの利用拠点が追加されたので追記しました】
2/18に株式会社アドレスが定額制の多拠点コリビングサービス「ADDress」を発表し、メディアを賑わしている。いま、ADDressに限らず、多拠点生活をサポートするサービスが勃興し始めている。アドレスホッパーと言う言葉が生まれ、リクルートは二拠点生活者を(良いか悪いかは置いておくとして)デュアラーと呼び始め、文化と言う意味でも大きなうねりを見せているように思える。
Ciftという多拠点生活者が多数を占めるコミュニティで暮らした身として、また不動産業界に身を置く者として、備忘を兼ねてこの流れを自分なりにまとめてみようと思う。

■なぜ多拠点生活を志向するのか?

そもそも多拠点生活とは。それは読んで字のごとく、複数の拠点を持って生活することである。たとえば東京と新潟、それぞれに拠点(住まい)を持ち、状況(仕事や自身のモード)に応じて所在を移しながら暮らしていく、といった具合だ。

ではなぜそのような暮らしをするのか?ざっくり言うと「①価値観の変化」と「②それを可能にする技術革新」があるように思える。②はテレワークなど様々な機会で触れられているので言うに及ばないだろう。重要なのは①だ。

社会が不安定化し、終身雇用時代とは違い仕事も流動化しようとするなかで、「ひとつの仕事、ひとつの家」という当たり前に違和感をもつ人が増えた。これまでのように仕事が暮らしを定義するのではなく、暮らしから仕事を定義すべきだと。人の数だけ暮らし方があり、それに合う仕事との関わり方があるべきだと。

たとえばモードを切り替えるために身を置く環境を変えるスタイル(都市:議論・協議⇔地方:集中・内省)もあるだろう。また、昨今ではワーケーションと呼ばれるような観点で移動する人もいるだろう。あるいは自然に触れる暮らしを取り込むために月の半分だけ地域でネイチャーガイドに携わるということもあるかもしれない。

目的は人それぞれだが、そのような各々の「①価値観の変化」が「②それを可能にする技術革新」によって多拠点生活を志向するのである。

■多拠点生活向けサービス

そんな背景を受けて、いま世のなかに多拠点生活者向けサービスとはどんなものがあるのか。いくつか挙げてみる。

【ADDress】

・定額で全国の拠点に住み放題
・光熱費込・月額4万円
・リノベ済、wifi、アメニティ、家具完備
・11拠点から開始。拠点ごとに管理人

【HafH】

・定額でHafHや提携拠点が住み放題
・月額82,000円。少料金プランもあり
・働く場所つき。
・長崎をはじめ23拠点で連携

【Hostel Life】

・提携ホステルが月75,000円で泊り放題
・低額料金プランも。
・別途、提携シェアハウスあり
・提携ホステルは全国13カ所

【ハンモサーフィン】

・毎月定額で会員となり共遊別荘・共遊スペースを利活用

順を追うごとに[利用者向けに拠点を整備]→[既存施設(宿など)の連携]へと比重は異なるようだが、多拠点生活を志向する人にとってはいずれも足がかりとなるサービスだろう。

■多拠点生活の問題

さてサービスの勃興も相まって今後ますます多拠点生活だが、決してバラ色の生活が待っているわけではない。1年半前の記事だが徳谷柿次郎さんの寄稿がとてもリアルなので紹介したい。

ここで書かれている問題点を独断と偏見でまとめると以下のとおり。

①お金に関する問題
(家賃など)
②生活に関する問題
(宅配受取、ゴミ捨て、どっちの家に荷物)
③移動に関する問題
(経済的・時間的・肉体的コスト)
※記載はないが「名義上の住所をどこにする問題」もある

このうち①と②は、今回出てきたサービスによりある程度解消されるだろう。まず単独で借りるより賃料は抑えられる。また拠点がシェア形態であれば代わりに荷物を受け取り、いる人や管理人により部屋は維持管理されていくだろう。

問題は③の移動である。こればかりは本当にとうしようもない問題なのではないだろうか。
(紹介したサービスのうちADDressだけはANAと提携を行ってこの問題についてもアプローチ)

どれだけ技術が発展しようとも、どこでもドアが発明されない限りこの点だけはゼロにはできない。仕事に紐付けて移動費として得る・LCCを駆使するなど、工夫レベルでの対処はあれど、根本的な解決ではない。これは自分がCiftに住んでいたときも、多拠点生活をするメンバーはなかなかに大変そうだった。

この移動をどのようにデザインするか、多拠点生活においては一つポイントになるだろう。

■移動のデザインから見るモバイルハウス

多拠点生活にとってどうしても避けられない移動を、「問題」ではなく「価値そのもの」に転換しようとするアプローチも見られる。それがモバイルハウスだ。

車両と住まいが一体になったもので、キャンピングカーのようなものをイメージしてもらえれば分かりやすい。形態は軽トラの荷台に接合するものもあれば、トレーラー的に引くものもある。

国内では建築家で作家の坂口恭平さんが実践したあたりから事例が出てきているよう。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00IMSIVCG/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_71vBCb2EGH2B3

近年では自作する人もいれば、建築家に依頼する人もいれば、スノーピークなどから商品としてパッケージ化されているものもある。

さらにこのモバイルハウスを概念化・サービス化にチャレンジしようとしているのがSAMPOというベンチャー企業だ。

モバイルハウスを個室(MOC)と見立て、風呂トイレキッチンなどのインフラ機能を備えた拠点(HOC)を各地に持ち、「家」から人を開放するという世界観を提唱する。Living Anywhereを掲げる孫泰蔵氏のMisltoe社からの出資も受けている。

これらのモバイルハウスは、ある意味で多拠点生活を究極まで突き詰めたスタイルであるかもしれない。

■空間軸でのシェア→時間軸でのシェア

ここまで多拠点生活と言う切り口から様々なサービスを見てきたが、どれが良い悪いと言う話ではない。これはグラデーションの世界で、人の数だけスタイルがあり、各々の価値観にフィットするサービスやスタイルを選ぶまでだ。

ただ、ここで不動産という観点でこれまでの流れを見てみたい。その糸口となるのは先日ローンチされたインド発のホテルベンチャーOYOによる賃貸サービス「OYO LIFE」である。

敷金・礼金・仲介手数料不要、家具家電wifi完備、短期契約も可能と言うサービス。これだけ見るといま別で巷を賑わすレオパレスとほぼ同じだ。しかしポイントは違う。キーワードは「短期使用マーケット」。

住宅事業をシェアリングエコノミーという観点で見たとき、これまではシェアハウスなどにより空間軸での共有(個室は小さく、リビングなどを共有することで大きく等)は進んできた。一方で時間軸で見てみると【購入(売買契約)>賃貸(賃貸借契約)>宿泊・施設利用】といった具合で、契約形態も含めて完全に分断されていた。

しかしこのOYOや多拠点生活サービスなどが、これらの境界線を溶かし始めているように思う。

たとえば分譲で購入した家が転勤に伴い空いてしまうところを、Airbnbで180日(民泊新法規制内)運用し、残りの日数をOYOで超短期賃貸したり、多拠点生活サービスに提供したり、またスポットでスペースマーケットにも出すといったように、時間軸で見たときに一つの空間の区切り方がより柔軟になってきたのだ。

なお現行、恐らくほとんどの多拠点生活サービスは賃貸借契約ではない。Web上では明記されていないがいわゆる旅館業法などに基づく宿泊行為、あるいは利用契約という形態をとっていると思われる。借家権が発生せず、借り手保護という意味では脆い面もありそうだ。またOYO(そしてかつてのレオパレス)も厳密には賃貸借契約で運用でき切れない部分もあのではないか。

ただ、だからといってそれが悪いということではない。むしろ時代の変化のスピードに法整備が追いついていない、と表現する方が適切だ。そんななかでもADDressは「共同賃貸借」というウルトラCのスキームを駆使してサービスインを目指しているのは本当に素晴らしいと思う。

人の価値観が変化し、それを担保する技術革新が進む一方で、法律や業界、ひいては社会全体がどうやってグラデーションのある世界を受け止めていけるか、面白い時代になってきた。

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