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映像美と音楽に惹き込まれる「生きる LIVING」

黒澤明監督の名作「生きる」を、ノーベル文学賞作家でもあるカズオ・イシグロさん脚本の元リメイクしたイギリス映画「生きる LIVING」。

日本ならではの当時の社会環境や官僚主義の考え方が多分に含まれたこの映画を外国でどのようにリメイクしたのか気になり、公開初日に早速観にいってきました。

「生きる」と「生きる LIVING」

「生きる」

「生きる」は1952年に監督・黒澤明さん、主演・志村喬さんによって公開された日本映画。
官僚主義が蔓延る市役所のなかでその1人として淡々と仕事をこなしていた主人公が、胃がんによって余命が限られていることを知り、生きる意味に向き合い、自分のやるべきことを見つけ最後まで向き合う姿を描く世界的不朽の名作です。

余談ですが私は「生きる」について、大学時代に社会学の授業で官僚主義の話の中で松本白鸚さん主演のドラマ版「生きる」を観たことはあったのですが、原作版の「生きる」を観たことはありませんでした。

「生きる LIVING」

「生きる LIVING」は2022年、ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロさん脚本の元、イギリスにおいてリメイク、公開された映画です。
日本においても2023年3月31日に公開されました。

ストーリーそのものは原作に忠実でありながら、舞台をイギリスに変えたものとなっています。

また、第95回アカデミー賞でも「主演男優賞」「脚色賞」にノミネートされるなど世界的にも高い評価を得ています。

「生きる LIVING」の魅力

はじめにでも書いたとおり、最初、日本の戦後まもないころ、そして公務員社会を描いた「生きる」が、イギリス社会に置き換わった時に違和感ないものなのか、どのような内容になるのかとても気になるところでした。

そのうえでの感想としては、「原作をリスペクトし、大切なメッセージは残しながら、イギリスである意味を十分に見出している」と思います。

特に今回、「生きる LIVING」の魅力として3つの視点で整理してみます。

原作よりコンパクトだが、削りすぎてはいない

今回の「生きる LIVING」、上映時間は102分ほどで原作と比べると約40分ほどコンパクトになっています。
そこだけ聞くと「ただでさえ名作の原作から40分も削るところがあるのか、魅力が失われないのか」と思いますが、その心配はなかったです。

確かに原作に比べると少し削られていたりする箇所はあります。ただそれはイギリスに舞台を変えるとそのシーンがそこまで必要とされないであろうものだったと思います。
そして、余命が限られていることを知ったからこそ「生きること」に対して全力になるそのメッセージ性は原作からしっかり引き継がれています

個人的には原作よりコンパクトであり、より映画のメッセージ性にフォーカスしている分、原作以上に多くの人にとって観やすく、伝わりやすいものになっているのではないでしょうか。

2022年に制作するからこその”映像美”

原作は1952年に公開されたことから白黒映画であり、また、描かれる世界も戦後復興最中の日本をリアルに描いたものになっています。
「生きる LIVING」もほぼ同時期の1953年イギリスを舞台にはしているのですが、当時の日本とイギリスでは建築様式も社会の発展状況も全く異なります。そして、今回の映画、この点を映像で最大限表現していたように感じます。

例えば映画のはじめのシーン。時代感などが伝わるようにあえてちょっと古めかしい画質や表現の映像となっています。
そしてもう一点、建物や鉄道をはじめとしたイギリスの美しい街並みを映像を最大限活用して表現していました。

これは、もともと出来上がっている「生きる」のストーリーに加え、映像という観点の魅力が加わったように感じます。観るだけで気持ち良い。

ストーリーを際立てる”音楽”

もう一つ今回の映画で魅力的だったのは映画内で流れる”音楽”。

「生きる LIVING」ではほぼ全編にわたって何らかの音楽が流れています。
ただ、まったくストーリーを邪魔したり、うるさく感じるものではなく、ストーリーをしっかり引き立て映画の魅力を引き上げるものになっていたように感じます。

これは実際映画館に観にいってもらわないとわからないかもしれないですが、上質な音楽に触れるという観点でも魅力的ですし、高音質な音響に触れることのできる映画館で観ることで魅力が際立つと思います。

「生きる」

今回、映画館で「生きる LIVING」を観て、翌日にはAmazon Prime VIdeoで原作版「生きる」も鑑賞しました。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00VSFKI4O/ref=atv_dp_share_cu_r

こちらもはじめて観ることにはなりましたが、やはり名作と言われるだけの魅力があると思います。

特に原作版でより強く挙げられる魅力の一つは「ストーリーをより深く描いていること」かと思います。

これは前述の通り40分原作の方が長いというところにも繋がってくるのかと思いますが、例えば胃がんであることを知り苦んだり息子のことを回想する主人公の姿や、元部下である小田切とよとの関わり、通夜そして公園計画の回想場面などは「生きる LIVING」より、さらに深く描かれているように感じました。

個人的にはこの描かれ方をされている分、原作の方がさらに感情をガンガンに揺さぶられるような気もします。

さいごに

「生きる LIVING」、原作を知っていても知らなくても満足感を得ることのできる一作になっているかと思います。

そして、名作である原作のストーリーに加え、この映画の魅力でもある映像美・音楽、これらは映画館で観ることでより感じられるものかと思いますので、興味のある方はぜひ観にいってみてはいかがでしょうか。


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