かのくに E

 対向車線で黄色いバスが停車している場合も、離れた位置で車を停止させる必要があります。

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 入国初日に事故を目撃した。交差点で、右折する車と直進する車が衝突したのだ。右側通行で、赤信号でも右折できるためにこんな事故が起きるのです、なんて解説がついてきそうな事故だった。
 車検がないらしい。半分くらい驚いて、半分くらい納得した。思い当たる節はあった。塗装が剥げてつや消し加工ですか、みたいな車はまだ良い方で、凹んでたり、割れてたり、明らかに中身がこんにちはしてたりする(雨の日はどうするんだろう)ポンコツが平然と走っている。バーストも当たり前のようで、高速道路には黒いゴムがあちこちに飛散している。かのくにのひとびとはみんな面倒くさがりなのか。恐ろしい国だ。
 さらには、スピード違反の罰金も安いらしい。点数もあまり引かれないので、免許停止にもなりにくい。車を取り上げられると生活ができなくなってしまうから、とのこと。そのわりに一旦停止は律儀に守ったりして、ゆるいんだか堅いんだか、正直よくわからない。
「車がないと生活できない」のはわたしたちの国の田舎でもたまに言われるけれど、かのくにではやや事情が異なる。例えばここに歩道がある。一区画をぐるり囲むような感じで。でもそこを歩くひとはいない。危ないからだ。そしてお巡りさんに職務質問されるから。夜歩くのは違法だし、昼間歩いているのは物乞いのひとか百歩譲ってランナーしか見たことがない。都市部に行けば少しは増えるみたいだけど。

 日曜日の朝は比較的道が空いている。ただ教会のまわりだけが渋滞する。だだっ広い駐車場の向こうに大きな建物が立ち、高い尖塔とてっぺんの十字架がなければそうとわからないほど、教会のイメージからかけ離れている。駐車場入口には看板が立ち、警備員(警官?)のおじさんによる交通整備が行われ、次から次へと車が集まってくる。
 キリスト教徒ではないわたしたちは、ひとの少ないショッピングモールでおみやげを物色する。近くにめぼしい観光地もないので、休みの日は買い物くらいしかすることがない。適度に店を冷やかし、混む前にフードコートでサンドイッチを買って、ポテトが多すぎると苦笑しながら食べ、早めに帰途につく。わたしは運転が得意ではないので、右側通行で高速に乗るなんてとてもできない。ハンドルを握る上司は余裕で、ふんふんと鼻唄をうたったりしている。ふだん疎ましく思うことも多いけれど、ここでは感謝しっぱなしだ。

#かのくに #拾った手帳

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