かのくに I
僕は僕の故郷を知らない。君はどこから来て、どこへ行き、何をして、どうやって消えるの?
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墓がある。当たり前なんだけど、かのくにでもひとは死ぬ。墓地はまるで死そのもののように、道端でひょっこりと姿を現す。国道沿い、森の端、ハンバーガーショップの隣。記念墓地のあまりに等間隔に整列する碑や、開けた一面の芝生の上に色とりどりの献花が点在する様子は、空間アートの作品に見えなくもない。ハンバーガーショップの隣の墓地は荒れ果てていて、いかにもミイラが出そうな、無縁仏ならぬ無縁棺、それでも整地することはできないんだろう。
門にかけられた「DEAD LAND」の文字はどこかポップで、いいのかしらと思う。漢字好きな外国人が看板に「霊園」て書かれているのを見たら、同じようなことを思うのかもしれない、でも黒字に黄色はないだろう、ハロウィンか、などと思っていたら、調べてみると「荒れ地」という意味らしい。しかしわざわざ「荒れ地ですよ」なんてプレートをかけるひとがいるだろうか。行きつけのスーパーの前ではオレンジ色のカボチャが大量発生している。
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かのくにの人びとはイベント好きだ。
ハロウィンには家々の玄関先にカボチャが鎮座する。ショッピングモールのハロウィン仮装コーナーのクオリティが高すぎて、通りがかった子どもが泣いていた。
サンクスギビングは車も少なくて、どこのお店も開いていない。ハンバーガーショップも閉まっていて、お昼を食べるところがなくて困った。ニュースでは消防士が、ターキーのフライを作るときには火事に気をつけてくださいと訴えている。ブラックフライデーには人びとが店に押し寄せ、レジに長蛇の列を作ってセール品を買い漁る。
12月はどこもかしこもクリスマスだ。スーパーでツリーが売られ、車はルーフにツリーをくくりつけて走る。家々のドアには大きなリース、そして電飾。ときどき電飾に覆われたクリスマスカーも走っている。もちろんセールもあちこちでやっていて、ショッピングモールは毎週末ひとでごった返している。
それから、かのくにではよくパレードが開催される。ハロウィンパレード、サンクスギビングパレード、クリスマスパレード。よりによってだんだんと気温が低くなっていく季節に、毎月パレードを催すのはなぜなのか。私が知らないだけで春も夏もやっているんだろうか? 寒空のもと、ガタガタ震え手を擦り合わせながら、過ぎていくキャラクターバルーンやミスどこどこや踊る学生さんたちを眺める。きっとみんな私とは根本的なからだの作りが違うのだろう。常に何かしら燃えているのだ。
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