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「校則をやめた」からではなく「権利を守る」ようにしたからだと思う

■世田谷区立桜丘中の教育改革

西日本新聞 2019/5/27の記事
「校則をなくしてみた中学校 「常識」に挑んだ校長の改革」https://www.nishinippon.co.jp/item/n/513553/

【校則の?】と題したシリーズの7回目です。
東京都世田谷区立桜丘中学校の取り組みを紹介したものです。
西郷孝彦校長が就任した当時は、荒れた学校で力で押さえつける指導がまん延していたようです。西郷校長は、一つ一つの規則に対して「なぜ必要なのか」「本当に必要なのか」と教員に問い続けることで、結果的に校則がなくなったとのこと。
10年を経て、落ち着いて生徒が学べる学校になっているようです。
マスコミにも多数取り上げられています。

●朝日新聞の記事 2019/4/2

●日経DUALの小学校高学年のママ・パパ向け記事 2019/07/19

●娘さんが桜丘中学校に通っている方のブログ

■校則はないが「心得」がある

朝日新聞や日経DUALの記事を読むと、「校則を廃止し多様性に配慮して自由に楽しく教育を行っている」ということに重点が置かれています。

・校則撤廃
・授業に出なくてもよい
・チャイムは鳴らない
・何時に登校してもいい
・スマホ・タブレットの持ち込み許可
・3Dプリンタやペッパーを導入している
・定期テストを廃止し小テストの積み重ねに
・自由にしたから自分で考えるようになった

「やったこと」と「起きた結果」に着目するとそういうことになるでしょう。

しかし、西日本新聞の記事を読んで、「重要なのはそこではない」と思いました。

生徒手帳には三つの心得が記されている。「礼儀を大切にする」「出会いを大切にする」「自分を大切にする」。その裏には、自由に自分の意見を言うことができる、といった子どもの権利条約の主な内容が掲載されている。

まず、学校という場の意味を問い直したのだと思います。
そして出てきたことが「3つの心得」なのでしょう。
「礼儀を大切にする」
「出会いを大切にする」
「自分を大切にする」
同世代が多数集まる「学校」という「学びの仕組み」がうまく機能するために必要なことだと思います。

娘さんが桜丘中学校に通っている方のブログを読むと、親子ともにこの3つが「耳にタコ」の当たり前のことになっており、物事を考えていくうえでの基本になっていることが伺えます。

■破ったのは「子どもの権利を守らない常識」

生徒手帳の心得の裏には、子どもの権利条約の抜粋が書かれているとのこと。
3つの心得は、子どもの権利条約の理念と一致します。
校則のことごとくが、子どもの権利を侵害するものだったと想像されます。西郷校長にしてみれば、「子どもの権利を守らない常識」は受け入れがたいものだったのではないでしょうか。
「本当に必要なのか?」と繰り返し問うことで、教員や保護者の中にあった「大人の都合で作られ子どもの権利を守らない常識」が破られ、「子どもの権利を守る意識」に変わっていったのだと思います。
桜丘中学校の教育改革のプロセスでは、大人の意識を「子どもの権利を守る」に変えていくことが最も重要な部分だったと考えています。

ところで、子どもの権利を重視する人の中には「礼儀を大切にする」という心得に違和感を持つ人がいるかもしれません。
例えば「表現の自由」を定めた第13条には、2項に表現の自由の制限事項があります。同様の制限事項をもつ条項が複数あります。
「礼儀を大切にする」は、これらを一言で表したうまい表現だと思います。
そして、この心得は、学校に関わる子どもと大人の両方に対するものなのでしょう。前出のブログには、教員と生徒の間に、子どもと保護者の間に、保護者と教員の間に、互いをリスペクトする関係が見えます。

第13条
1.児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
2.1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
a)他の者の権利又は信用の尊重
b)国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

■教育改革は「必要なこと」を問うことから

学校の現場を傍目に見ていると、必須業務や規則であふれかえっています。
教育改革の第一ステップは、
生徒にとって、教員にとって、学校にとって
「本当に必要なことは何なんだ?」
と、問いかけてみることではないでしょうか?

これは、教員だけで行えばよいものではなく、生徒にも、保護者にも問いかけてみなければなりません。
三者とも当事者ですから。

そのとき、必要・不要を考えるための基軸が必要です。
基軸の土台は「子どもの権利が守られるか?」です。
桜丘中学校の3つ心得
「礼儀を大切にする」
「出会いを大切にする」
「自分を大切にする」

私としては、ここにもう一つ
「育つことを大切にする」
を加えていただければ、「子どもの権利を守る」ことの基軸になるでしょう。

そして、誰にとっても、どの軸から見ても、必要がないことを見定める。
それは、「大人の都合で作られ子どもの権利を守らない常識」に違いないでしょう。
それをやめることによって「子どもの権利を守る」意識への変化が、教員にも、生徒にも、保護者にも起きるでしょう。

日本の学校教育において、「子どもの権利を守る意識の欠如」は、国際的に見てずいぶん酷い状況と聞いています。
そこを改革していかない限り、アクティブラーニングを叫び、何千億もの税金を使ってICT機器を配置しても何も変わらないでしょう。
ましてや、それらが「大人の都合」で決められ、教員や生徒の負担として追加されていくものであれば、日本の教育事情は悪化の一途をたどるでしょう。

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