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ユキへ

1.ユキへ


お元気ですか?こちらはそこそこ、と言った感じです。
季節はすっかり冬ですね。吐いた息が白くなるたび、君の名前を思い出します。
真っ直ぐで、優しくて、綺麗な人にぴったりな名前だな、と思います。
僕の名前は…どうでしょう、自分ではそんなに似合ってる気はしません。

もし生まれてくる時に、僕が僕の顔を選べたら、僕が僕の才能を選べたら、僕が僕の名前を選べたら、ということを最近考えます。
叶うなら、完璧に美しい人間になりたかった。それか、完璧に醜い人間になりたかった。

その時が来るのは、そうですね、きっと。
いつか、もしかしたら、春になったら。

この頃は、そういった本当のことを書いています。
出来上がった時は一番に、ユキに、聴いて欲しいです。

それでは、また。
次の季節に。



2.春の嘘


季節外れの雪が降り出した
世界も終わりだ 視界がぼやけていく
見えない見えない愛がもう一度見たくて
目を閉じれば夏、秋、冬、
全部君がいる

春を追いかけた 夏を閉じ込めた
手遅れの未来に手を伸ばしたんだ
秋に包まれて 冬に嘘をついたんだ
次の季節の名前を呼んで、春

季節外れの桜が咲いていた
たったひとひら 白い息に浮かんだ
消えない消えない甘い匂いが残って
思い出すよ 春、春、ハル、
君の嘘を

春の雪のように 思い出みたいに
君の忘れ物がまだここにあるよ
きっと綺麗だから 冬の桜が見たかった
季節外れでも生きていてよ、春

春を追いかけた 夏を閉じ込めた
この声が、言葉が、途切れないように
秋に包まれて 冬がまたやってきたら
君の季節と名前を呼ぶよ、春



3.金木犀にさそわれて


甘い匂いがした
夢を分けあって笑いあったわたしたちがいた

結末みたいに風に舞った花を掴みたくて手を伸ばした
なにもかもいらなかった この季節が続くなら

わたしは金木犀にさそわれて ひとりずっとずっと揺れてる
光る一等星にあこがれた わたしのような花言葉
金木犀にさそわれて 今もずっとずっと待ってるから

雨の匂いがして君を思い出した
花のような睫毛が揺れる
未来さえも言わなかった 思い出に住めるなら

君は金木犀にさらわれて 雨にそっとそっと散ってく
光る一等星にあこがれた 君みたいな花言葉
金木犀にさらわれて 今もずっとずっと舞ってるかな

誰かのため生きたい 君のため生きたい
匂いがまだ消えない 君が消えない
本当はもう足りない 思い出じゃ足りない
その先に君がいないなら意味などないの

いつしか金木犀は過ぎ去って ふたりそっとそっと閉じてく
光る一等星に夢をみた わたしたちは花言葉
金木犀が終わっても わたしずっとずっと待ってるから

わたしは金木犀にさそわれて ひとりずっとずっと揺れてる
光る一等星にあこがれた わたしのような花言葉
金木犀にさそわれて 今もずっとずっと待ってるから



4.知りたい


さよならって意味の言葉が知りたい
叶うなら優しい言葉で知りたい
君がなんて私を書くのかが知りたかった
本当に、本当に、知りたかった

ペンが走ってく 君の綺麗な文字と目があう
言葉のせいにして君の口からただ愛を盗んだりもした

ずっと追いかけてたんだ
冬の先には春がいると信じてた
でもどうでもいいんだ もうどうでもいいんだよ
春がいないなら

さよならって意味の言葉が知りたい
叶うなら優しい言葉で知りたい
君がなんて私を書くのかが知りたかった
本当に、本当に、知りたかった

ページをめくってく 君の低い声が聞こえる
知らない言葉も残ってないからただ愛をなぞったりもした

風が冷たいせいだ 思い出が目をこぼれてくのは
ねえなんでもないよ もうなんでもないからさ
早く春が見たい

幸せなんてもの知りたくないよ
悲しみの抱え方が知りたいの
君がどんな風に生きるのかが知りたかった
本当に、本当に、知りたかった

みんな嘘つきだ 嘘つきばっかだ
約束も夢も永遠も言葉も君も全部嘘つきだ

本当はもう何も知りたくないよ
君のことも何も知りたくないよ
夢なんて捨ててただ笑う君が見たかった
本当に、本当は、

愛するって言葉の意味が知りたい
心に誰かが住む意味が知りたい
君がなんて愛を描くのかが知りたかった
本当に、本当に、
言葉が、君が、知りたかった



5.脱出ポッド


そして最後に君の声の一滴が鼓膜に残った
「ごめんね」って言葉の意味 私はまだわからないよ
優しい人が優しくなきゃいけない世界はどうかしてる
綺麗な人は綺麗じゃなきゃなんて狂ってる

見えないものが見たかったんだ それだけでいい
神様、雪が春を夢見ちゃいけませんか

ならこんな星もう逃げ出して 脱出ポッドに乗って
隣席は空っぽのまま 私は一人待っている

幸せの後ろ髪がまだ今も部屋の其処此処に積もる
最後に飲んだコーヒーと時間を忘れたカレンダー
祈りでは届かない距離に君は一人引っ越したんだ
思い出とか愛も全部持っていったんだ

消えないものが消したかった わがままなのかな
先生、みにくいアヒルは美しくちゃダメなの

ならこんな星もう逃げ出して 脱出ポッドに乗って
月の一つくらい盗もうよ だから私は待っている

涙みたいな星が降った 君のことを思い出してた

砂漠から一粒のビーズ見つけるように君を探す
海から一粒の涙見つけるように君を探す
君以外の全てだけ残るこの星で君だけを探す
どうしておいていくの

言えないことが言いたかった 本当はずっと
ねえ春、生きてちゃいけない人なんていたのかな

見えないものが見たかったんだ それだけでいい
神様、雪が春を夢見ちゃいけませんか

ならこんな星もう逃げ出して 脱出ポッドに乗って
隣席は空っぽのまま 君だけを待っている

そして最後に君の声の一滴が鼓膜に残った



6.さなぎ


君の髪が伸びて冬が近いと知る
心があふれないようにぎゅっとマフラーで結んだの
白い息が浮かぶ 言葉だけが残る
思い出の中心に

何より君が憎んでいた そして愛した世界を
何度も愛そうとするよ 君を想うように

なんでさ
大切なものばっかり持って出かけちゃうの
ふわり、ふわり、ふわり、私、
なんか空っぽで さなぎみたいだよ
こうして眠ってたら君に会えるかな
いつか、もしかしたら、雪が降ったら

指が触れる瞬間目が覚めて気づく
その人がくれたカーテンの柄が滲んで見えなくなる
火曜のゴミの日に一緒に捨てられたい
燃えるかな 私も

どうして
面倒なものばっかり君は残してくの
ゆらり、ゆらり、ゆらり、私、
ひとりぼっちで さなぎみたいにさ
見つけてくれるのをずっと待っている
いつか、もしかしたら、雪が解けたら

「綺麗じゃなきゃ意味がない」と言う
「生きたって無駄だ」と君は言う
でも仮に醜くたってさ、生きちゃ悪いの?
君の思い出なんかいらない ふたりの未来に比べたら
価値もないし、つまらないし、消えないし

雪が街に降るたび 春が空に咲くたび
何度も、何度も、何度も、君を思い描くよ
君は怒るかな それとも少しだけ喜んでくれるかな

大切なものばっかり沢山ここにあるから
ひらり、ひらり、ひらり、私、
まだ今は さなぎでいいよね
最後には綺麗になってみせるから
いつか、もしかしたら、春になったら

春に会えたら



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