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日曜日よりのシ者 ①ゴールドシップ

ゴールドシップ~黄金の帆を掲げて~

人それぞれ、競馬を始めたきっかけがあると思う。

テレビで大きいレースを見て競馬場に足を運びたくなって

友達に誘われて、親や上司が競馬好きでその影響で

十人十色、様々なきっかけがあってこの世界に魅せられてしまったのではないだろうか。

新型コロナウイルスで様々な娯楽が失われた今日この頃では、在宅で楽しめるレジャーとして新たに興味を持つ人や、以前はコアなファンだった人がまた戻ってきたりといった現象もあるのかもしれない。

そんな競馬に私が完全に魅了され、毎週競馬場に足を運ぶほどのファンになってしまったきっかけになったレースで、“負けた馬”について語りたい。

今週日曜日、無観客とはいえ今年も淀の16ハロン決戦天皇賞春が開催される、3200の長丁場に天皇盾を賭けた伝統と執念が渦巻く二度の坂越え、長距離路線に対する冷遇とステイヤー血統の価値の低下も囁かれ近年ではフルゲートすら埋まらないレースとなっているが、歴代の勝ち馬をあげてもこのレースの権威は決して色褪せず最強馬を決める戦いであることに何ら変わりはないと筆者は考えている。

初めて馬券を買ったのは2015年の天皇賞春であった、友人に「この馬買ったら絶対儲かるから!」と言われ(今となってはとんでもない野郎だ)

半信半疑に思いつつも、余りに熱く語る口ぶりに興味を惹かれ、じゃあ買ってみるかと思いウインズに足を運んだ。

人でひしめき合うウインズで何とかマークシートをとって【馬券 マーク 仕方】 とネットで調べて見様見まねでマークし行列に並んで何とか馬券を購入することが出来た。

12時過ぎに馬券を買った事もあり、レースまで約3時間をこの人込みで過ごすと考えるとげんなりし(どうせ紙切れになるだろう)と思っていた事もあり家に帰って見ることにした。

初めて買った馬券は忘れもしない

【京都11レース 天皇賞春 ①ゴールドシップ 単勝5000円】であった。1000円札5枚が機械に飲み込まれマッチ箱より少し大きい位の紙に変わった瞬間の胸の高鳴り(動揺なのか高揚なのか)は今でも鮮明に覚えている。

レースが始まるとゴールドシップは1枠1番の利を生かすどころか最後方まで下がってしまう、過去二回天皇賞春を走っていずれも結果が出ず三度目の正直だと語っていた友人だったが二度ある事は三度の方やろ…と内心不安でしょうがなかった。

レースはゴールドシップが一番後ろを終始走る形で進み、半ば諦めに似た心境で画面を見つめていた(そんな旨い話があるわけねえか…勉強料やったな)

その刹那、真っ白な馬体が躍り大歓声があがった、騎手のムチに答えるように眠っていたゴールドシップの闘志に火が付いたのか外目を通って物凄い勢いで追い上げを始めた。また一つ、一つと順位を上げていく。

実況のボルテージが上がり私も思わず立ち上がって画面にかぶりついた、直線を向き三番手の位置で逃げるカレンミロティックを捉えようと懸命のスパートで追い上げるゴールドシップ、一番人気キズナも追うが差は詰まらない、あと100メートルでついに逃げたカレンミロティックを捉え切り先頭に変わった。やった!と叫ぼうとしたのも束の間、大外から画面にも映っていなかったオレンジの帽子が最後の最後に主役の座を奪い去ろうと猛然と突っ込んできた、ゴールドシップとフェイムゲームが並ぶようにゴール板を駆け抜ける、どっちだ!アナウンサーもどっちが勝ったとは言い切れず二頭の名前も連呼する、画面がゴールのリプレイに切り替わると先に抜けだしたゴールドシップが追撃を振り切り、三度目の正直にして天皇盾の悲
願を果たした瞬間が映し出されていた。

単勝5000円は460円の配当がつき23000円に化けた、当時の私にとっては(今も金銭感覚は当時と全く変わらないが)大金であり、現金な話だがゴールドシップが神様のように感じたようなものだ。この時3着に粘った馬の存在を来年も覚えていれば…と翌年激しく後悔することとなるのだが、それはまた別のお話しである。

さて、ここまででゴールドシップの天皇賞を見て競馬にハマったのかとなる流れだがそういうわけでは無かった。特にその後の大きいレースを見るわけでも馬券を買うわけでもなく(この年はドゥラメンテが二冠、秋にその後幾度となく私の前に立ちふさがる馬が祭囃子の第一章をあげていた)

ゴールドシップが盛大にやらかした宝塚でゴールドシップの馬券を買いに行くも余りに配当が安すぎてやめ、名前の響きが気に入ったデニムアンドルビーの複勝を1000円買って当てるというビギナーズラックをかました程度で季節は夏を超え秋を迎えようとしていた頃、ゴールドシップ年内引退の報せが紙面を飾っていた。

ラストラン、私は宝塚記念のデニム複勝を換金した以来のウインズにいた。

人気投票一位、単勝人気も一位

宝塚記念15着、ジャパンカップ10着

二桁着順が二回続いていてなお、一番人気の支持を集めたゴールドシップ

みんなが葦毛の暴れん坊ゴールドシップの復活を有終のVを信じていた。

隣には春の天皇賞でゴールドシップを買えば儲かると語っていた友人もいた。

人で埋め尽くされたウインズにファンファーレが響き手拍子が重なる、皆それぞれがグランプリの夢を託した愛馬の名前を叫ぶ、異様な興奮に包まれていた。

スタートが切られる、ゴールドシップはまたも二の足がつかずいつもの定位置、最後方に。

おいおい最後までケツから行くんかい!思わず叫ぶと前にいたオッサンが振り向き、笑いながら「アンちゃん心配せんでええ、いつもあそこからや」

レースは菊花賞馬キタサンブラックがハナを切るとペースを落とし、ゆったりと進んでいった。天皇賞でゴールドシップのロングスパートを炸裂させた名手横山典弘が作り出した先行馬有利の流れ、あちこちから「遅い!」と声があがる。

それでもなおゴールドシップは一番後ろでじっと構える、ドスローで最後方に位置し上がり勝負では分が悪い彼にとって最悪の状況となった。しかしー

「そこや!」オッサンが叫ぶ、ゴールドシップが展開も全てを飲み込むべく天皇賞を制した時と同じくロングスパートで一気に上がっていった。

最初のパートナーで共にクラシックを、グランプリを制し彼の全てを知り尽くした内田博幸が渾身のムチを入れ最後の大勝負に打って出た、一気に逃げるキタサンブラックの影を踏めるポジションまで進出したゴールドシップ、誰もが天皇賞のロングスパートの再現を、有終の美を信じて疑わなかった。私の手元にはゴールドシップの単複頑張れ馬券に紙面で印が多かったラブリーデイ、キタサンブラック、名前でいれたマリアライトを絡めたワイド馬券、モニターに向かってシップ頑張れと思わず大声が出る。

しかし三番手に取りついてから前の二頭に迫っていけない、内田のムチがとび手綱を押しまくる、首をふり懸命に走るゴールドシップ、真っ白な馬体が師走の夕暮れに照らされ4コーナーを回って直線コースに入った。

前でオッサンが声にならない声で叫ぶ、ラブリーデイは伸びがない、内で粘るキタサンブラックに並びかけて交わしたゴールドアクター、外からサウンズオブアースが飛んできた、完全にノーマークだった二頭が突き抜けるようにゴールするのを後目にゴールドシップは7.8番手で最後の航海を終えた。

本命サイドのラブリーデイ、ゴールドシップ、リアファルが上位に入選しなかった事もありあちこちで罵声や高配当を手にしたであろう人の歓喜の叫びが響く中、私は無言で握りしめた馬券とモニターを見比べる、ラブリーデイは道中伸びずに失速しゴールドシップも捲りで見せ場を作るも圏外、キタサンブラックとマリアライトのワイドは3-4着で惜しくも不適中、私は初めてのハズレ馬券を手に前でゴールドシップを応援していたオッサンが泣いているのを眺めていた。

ゴールドシップのラストランから半年、彼が種牡馬として繋養されているビックレッドファームを訪れた。到着すると彼の住処は不在でスタッフに尋ねると“仕事中”との事だった。

彼が一仕事終えるまで他の馬を眺めながら彼の退社を待つ、コスモバルクが愛想を振りまいてくれてとても可愛かった。

待つこと一時間ほど、モニターでしか見たことがなかった彼と初対面を果たす。

白馬のように真っ白な馬体につぶらな瞳、紛れもなくあの日天皇賞を勝ち有馬記念で燃え尽きたゴールドシップだった。

圧倒されるほどの存在感とオーラ、畏敬ともいえる感情、美しさと愛くるしさ

あの日、ウインズで泣いていたオッサンを思い出し、その気持ちがやっとわかった

カメラ越しに彼を見る私の目も少し潤んでいたのかもしれないー




私が出会った最初の名馬ゴールドシップ

彼の大航海は、彼の意思を引き継ぐ次世代の黄金の帆たちによって続いていく。

その航路を見守っていきたい。



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