【フィクション・エッセイ】青松輝の短歌を読んだ④連作「metaphor」(機関誌『Q短歌会 第二号』2019年11月22日)の頃

 この頃の〈青松輝〉は、坊主にした頃で、まだクイズノックへの関心度も高かった。ように観測している。まだYouTubeチャンネルはなかった(あったのかもしれないけれど、本腰は入っていなかった)

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 12月。
 東京駅付近のガストに集合して〈私〉はメニュー表から、山盛りポテトを注文する。当メニューはシェアしたっていいはずだけど、一人で食べ切りたい。
 一人で山盛りポテトするためだけど〈私〉が注文するのは、山盛りポテトとドリンクバーだけだから、なんというか、もう好きにさせてほしい。
 今は15時すぎとかだから、遅めの昼食としてだったり、おやつ的なミニパフェだったり、みんな好きにしてるんだけど。

 一つのテーブルで各々、しゃべったり食べたりしているなか〈私〉は、先月末に入手したばかりの機関誌を思い出す。

疾走感があるのに遅い なんだろうこれ 遅い疾走感がある

青松輝「metaphor」

 この一首、にあるテキストを創出している位置/位相、にいる〈私〉は移動しない……動かないな、っていう印象を抱く。
 テキストを創出している位置は、具体的には3分割された一首の「なんだろうこれ」だと思う。この3分割は、現象描写/心情陳述/現象描写であり「疾走感」に関しては〈私〉にとって関与できない外的要因とされている。
 にしても「なんだろうこれ」は棒立ちの〈私〉だ。棒立ちの〈私〉の周囲を流れていく「疾走感」があり、その「疾走感」に対する所感として「なんだろうこれ」という疑念がある。
 ところで外的の流れを「疾走感」としているのは誰なのか、それが「疾走感」だからこそ「遅い」と判定しているのは誰なのか……。

 ガストはファミリーレストランという公衆環境らしく〈私〉たち以外にも、たくさんの、グループや二人や一人がいて、めいめい何かしらをしている。
 めいめいに目的のようなものがあって、ここにいて、さわがしくなっている。
 自分のテーブルで今、どういう話題になっているのか……そろそろ〈私〉も参加しようかなと思って顔を上げる。

 青松の一首は、外的要因「疾走感」への興味と掴もうとする意志が感じられないわけではないが、どちらかというと〈私〉を固定し位置したいように見える。

   ○

逆流する時間のなかで花びらが吸い込まれるようにして桜へ

青松輝「metaphor」

 逆流する時間のなかで、という特殊環境の想定ではあるが、とはいえ動画の逆再生だろう。それにしても空間という認識ではなく時間という認識なんだ、と〈私〉は思う。
 あらかじめ桜が散って花びらになる、という過程や事実を知っている。
 しかし、そこにも動画編集があるだろう。自然に撮影する尺では、ほぼほぼの満開状態から花びらが散り切るまでを収めきれない。
 だから順流の場合でも、圧縮が掛けられているのではないか。
 それこそ何十倍ほどの倍速で、切り貼りを交えつつ。

 たとえば電車で移動している今のようなとき、暇さえあれば〈私〉はTikTokの再生をしていて、高度なアルゴリズムで狭まる……とはいえ〈私〉の思考停止や怠慢にもよるのだけれど、いわゆる「おすすめ」システムで流れてくる動画で見出せる流行は、あきらかに倍速ダンスだ。
 この傾向を〈私〉は、おもしろいと思っていて、興味ぶかく観測している。
 そもそも〈私〉はTikTokをアテレコのアプリだと思っていて、既にある音源(メロディ付きの歌詞や、台詞など)に合わせて自身の身体を当てはめる。流行りの、同一の音源を使用しているからこそ個体差や微差を見出したりもできるが、どこまでの何を各々の配信者が考えているかは不明。そんなことより撮影までの時間や撮影が、たのしければいいのたろうけれど。実際のところTikTokユーザー/非ユーザー各々の、たのしめる/たのしめない、便利/支障/不愉快などがあることだろうとは思う。
 それにしても音源のイントロ(?)で、なんなら最初のポーズで、ほぼほぼ全ての全容が理解できる。あらかじめ、この動画では何をするのか/したいのかを分かったうえで15秒とかを見る、すごい共通認識の要因だなと思う。そして〈私〉は15秒の「確認」をする。
 電車は身体を運び、電車な〈私〉は運ばれながら、ざっとスクロールする。車窓を街の風景が過ぎていく、車体に流されていく。

 改めて、青松輝の一首。
 それにしても、時間は逆流しない。
 時間の逆流を、たとえば同一の大御所作家の過去の著作を遡って読んでいくといった営みを、そう呼ぶ場合はあるかもしれない。しかし、点としては逆流であるが、一作毎に生じる「読む時間」の矢印としては順流になる。たとえばJターンのようなイメージだとして、実際にあるのは折り返し後からのになる。
 それでも、時間が逆流している……というイメージが、全く分からないわけではない。と思う。
 と、思いはするが、しかし逆流していく感覚を持ちつつ〈私〉に流れる時間は順流であり……というか〈私〉の位置は一切、移動せず、ただ逆流する時間の感覚を得ていつつ……同時に移動せず「花びらが吸い込まれるようにして桜へ」と到る動画を見ている。

 次の目的地、たとえば電車は〈私〉を、どこへ?


 それはそうとして〈青松輝〉がいるのは、どこ?

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つづく…………


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