ガリガリ骨ボーン

寛解中の日常パート

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さようならキューティクル

髪の毛が100本抜けた。白いシーツに散らばるそれは昨日まで体の一部だったとは思えない。と言っておセンチになるわけでもなくフハハハと言いながら淡々とコロコロで粛清を始める。 どのタイミングでバリカンを入れるべきだろうか。抗がん剤の副作用で脱毛が始まることは覚悟していたが、髪を刈る決心はまだできていない。このままほったらかしにしていたら日に日に抜ける毛の量は増えていくだろう。毎朝、起き抜けに死んだ細胞とご対面するのは寝覚めの良いものではないだろうし、シャワーで排水溝に溜まった彼

    • スニーカーで墓参り

      ばあちゃんの一周忌だった。 自分はばあちゃん子では無かった。従兄弟のほうが愛されていた気がする。これと言って深い話をした記憶はなく、ばあちゃんの下の名前は葬式の時に初めて認識した。このくらいは世間一般的なのか、それとも冷めていたのか結局わからず終いである。 そんな折、母親から今度の土曜日がちょうど一周忌に当たるので墓参りに行くけど一緒にどう?というお誘いのLINEが届いた。 そういえば去年、葬式に顔を出して以来、まだ一度も墓参りには行けていなかった。 「喪服いる?」と

      • 冬のマラソン大会

        さっきからずっと、靴ひもがほどけている。 いつ自身を踏んで足がもつれて転んでもおかしくない。足下を気にしすぎるあまり、走り方も変だ。 ただ、辺りを見渡すと、誰もそんなことを気に留める様子はなく、平然とすました顔で走っている。 ここで突然、立ち止まると周りの迷惑になる気がして、もう少しスペースの広い落ち着いたところで結び直そうと考えてからまた随分と時間が経ってしまった。 それにしても、みんなは苦しく無いのだろうか。もうやめてしまいたいと思っているのは自分だけなのだろうか

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          12月02日(金) 閉店間際のスーパーで半額シールが貼られた6個入りパックのたこ焼きを買ったらPayPayジャンボの3等が当たった。 人気のない店内に響き渡るイエーイ!という子供の声。思わずレジのおばちゃんと目が合う。 ノーリアクションもあれかなと思い、アメリカのコメディドラマみたいにやれやれと肩をすくめてみたら無視された。どうやらこっちはハズした。 12月11日(日) 最近、末端冷え性がひどくて近所の足つぼに行ったら、あまりの足裏の冷たさに驚いた女性の店員さんから

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        さようならキューティクル

          スロースターター

          ミニチュアダックスの散歩姿が少し辛そうだ。足をフル稼働で動かしている。単に足が短いから構造的にそうならざるを得ないのか、それともリードを握っている人間の歩くスピードに無理やり合わせているからそうなっているのかわからない。 そろそろ紅白の出場者も発表されることだし、一足先に2021年を振り返ってみると、間違いなく今年は急転直下の一年だった。人生に折れ線グラフがあるとすれば今は間違いなく谷だ。深い深いゴドリックの谷だ。 年明けから体調を崩し、3月に病気が発覚&はじめての手術。

          スロースターター

          シロノワールを食べに

          新たな土地への一歩は前座に過ぎない。 本日のメインイベントはコメダ珈琲でシロノワールを食べること。 それもただのシロノワールではない。 最近、SNSで見かけた「シロノワールぜいたくピスタチオ」という季節限定の新味である。 なんて惹かれるネーミングなんだ。 そう思った数分後には家を飛び出していた。 だが、家の近くにはコメダ珈琲がない。 幸いにも時間はある。どうせなら人生で一度も降りたことのない駅にある店舗へ行ってみよう。 そうして、コメダ珈琲をゴールとしたぶらり途中下車の

          シロノワールを食べに

          海街日記

          海の見える街に住んでいて、よく海を見にいく。 別に落ち込んではいない。やることは無いけど家でじっとしていたくない僕にとって田舎の中学生におけるイオンみたいな感覚だ。 今日は海岸に沿って舗装された道を一駅分歩いてみることにする。 不思議なもので、都会で次々と目の前に押し寄せる他人を掻き分けて歩いていたときには気にも留めなかった、そこにいる他人のことが目に付く。 大きく広がる海を前に、誰もが思い思いのひとときを過ごしている。 なんだかその光景がとても輝いて見えた。 相

          おとなしいループ

          トマト系のパスタを食べるときに限って白いTシャツを着ていることが多い。そんな時はすぐに脳内で論争が始まる。議題は赤いトマトソースが飛び跳ねる危険性と、まだ着用して半日も経っていないTシャツを着替える面倒臭さ、のどちらを優先すべきかについて。結局、さっきまでパスタをつくる際に使用したエプロンを防護服代わりに身に着けるウルトラC案で着地した。これで一安心、と勢いよくパスタを頬ばったのも束の間、ものの数秒で守備範囲外の左袖にべったりとソースが付いてそれはそれは見事なシミになった。

          おとなしいループ

          老人と海

          まだ学生で実家暮らしだった頃、近所の古い平屋の家の外壁から無造作に金木犀が顔を出していて、この時期になると横を通る度に目一杯、深呼吸をしていた。今はもうその家は取り壊されていて、代わりにパステル色の壁をした新しい家が建っている。 大学を卒業して、社会人になって、一人暮らしをして、それなりに過ごしていたらある日突然、悪性リンパ腫が発覚して、また実家に舞い戻ってきた。 約4か月間、ベッドで横になってばかりの生活を送っていたので、社会復帰の前にせめて元の体力ぐらいは取り戻さねば

          トゥルースリーパーの野望

          目が覚めた。体が縮んでいた。 別にコナンのOPではない。掛けていた薄い毛布がいつのまにかベッドの下に落ち、弱々のお腹を守るようにトランスフォーム胎児型で寝ていた男が深夜に目を覚ましただけだ。 こういう時だいたい直感でわかってしまうのだがおそらく今日はこのまま朝まで眠れない日らしい。朝までガードだ。目の前に誰も敵がいないのにスター状態になって一人虚しく画面上で動き回る未来予想図しか見えない。 ブォーン 外から新聞配達のバイクの音が聞こえる。 このままこの突如として訪れ

          トゥルースリーパーの野望

          怖いもの

          「生きてて怖いものとかあったりする?」 「なんなん急に。おばけとか犯罪者とかそういうやつ?」 「私、自分の背後に広大なスペースがあることが怖いんよね。やから足のつかない深さの海で仰向けで浮かんだりできへんねん」 「あ、そっち系の怖さね。たしかに沖のほうの黒くなった海面を上からぼーっと眺めてると引き込まれそうになる気持ちやったらわかるけど」 「ふーん、わかるんや。たぶんな、私の前世はかたつむりやと思う」 「ん?待って。急になんでそうなるん」 「背後にスペースあるのが

          いたいけなSPEC

          昔からあまり自分のことが信用できない。物はしょっちゅう落とすし、ゴミ箱シュートの成功率は5割を切っている。これでも一応、学生時代はバスケ部だった。 例えば、よく切れる包丁は怖くて使わない。いつもプラスチックの安いやつを使っている。一度、手元が滑って足の上に落としても無傷だった時は、フローリングに横たわるソイツを見ながら3秒ほど立ち尽くした。何事もなかった安堵感とやっぱりなという案の定感が押し寄せてきて笑ってしまった。 他にも、階段を使うときは蹴つまづかない可能性のほうが低

          いたいけなSPEC

          光の彼方へ

          ラーメン屋で飲んだ帰りにカバンをテーブルの足下のフックにかけたまま置いてきてしまったことを帰り道の半分が過ぎた辺りで思い出す。 ただすでに酔っ払ってしまって、こちらの足下はおぼつかない。道端ですれ違った中学生達には「あんな風にはなりたくないよね」と鼻で笑われる始末。もっぺん言ってみい!と心の中でおいでやす小田が吠えるが、もちろん彼らには届かない。 また同じ時間をかけて、先ほどまで居た飲み屋街に舞い戻ると、店はすでにシャッターが閉まっていて、張り紙には店主の怒りのメッセージ

          もののけ家族

          習慣は怖い。実家に戻ってからも入院生活のなごりで毎朝5時半に目が覚める。今頃、カムチャッカの若者がきりんの夢を見ているときだろうか。 ベッドから身体を起こしてふと部屋の片隅に目を向けると、空気清浄機のニオイのランプが赤く点灯していた。 「そなたは私という人間が嫌いか?」 私の頭の中のアシタカがそう問うてみたが、こやつはうんともすんとも言わない。まったく高機能な奴だ。だが、共に生きることはできる。 1階のリビングに降りると、父親がやかんでお湯を沸かしていた。象印の給湯ポ

          KREVA的自己分析

          自己分析が嫌い。就活では強迫観念の様にするべきと教えられたが、こじらせた過去の場合はできれば振り返りたくはない。 ただ現在、訳あって休職中。時間だけはたっぷりとある。きっと今がいいタイミングな気がする。と言って、独りで悶々と己の過去と向き合うのはなんだか恥ずかしいので、ドクターKことKREVAと一緒に最も多感だった中学時代の脳のファイルをかき集めてみたいと思う。 中二の頃、休み時間になると一人よく机に突っ伏していた。ビコーズオブ単純。なんかコイツ周りとはちょっと違うなって

          KREVA的自己分析

          丑三つ時のエスケープ

          深夜二時、病室のカーテンに映る影がマーライオンに見えた。ちなみに生マーライオンは見たことはない。正直、見ることのないまま一生を終えたとしても後悔しない観光スポットの一つだ。 深夜二時といえばウシミツドキとも言う。幼い頃の自分はこの言葉の意味がよくわからず、午後三時のおやつの時間に並ぶ黒蜜かなにかの甘いものを食べる時間だと本気で思っていた。 僕はこの深夜二時の禁断のティータイムに物思いに耽ることが多い。そしてこの時間に一度起きてしまうとなかなか眠れない。 なんだか背中が痛

          丑三つ時のエスケープ