『電話が鳴ると、お腹が鳴って、神様が』- 恋愛小説 第21回文学フリマ『きみの時を想う』寄稿作品
また3コール目で切ってしまった。
ツーツーツーツー。切れる音。同じ音の繰り返し。
自動再生。彼女の気配。
ぎゅるるるるる~。おなかの音。
あのあと、夢の中で彼女と再び出会って、昔の様に、楽しく談笑したあとに、わたしは笑顔で彼女に向かって「やっぱ、もう二度と、わたしの前に現れないでほしい」って言った。ちょっと前までにこやかにしていた彼女の顔が一瞬固まった。
たった今、関係の目標が達成された。わたしは彼女の、今にも泣きそうな顔をみて、完全に満足をしていた。優越感。ゴ――――――――――ル!絶叫。歓喜。人間関係において目標を達成することが出来たからだ。
「わかった。じゃあここで、さようならだね」
ホームに降りていった彼女の姿が、視界から消える。たぶん、電車に乗ったんだと思う。ちゃんと確認していないけれど、きっとそう。あの電車はどこへ向かっているのだろうか。天国?世界の果て?ウケる~まあどこでもいいや。
いやいや、ほんとは全然どうでもよくないんですけど!
やや、いまのくだり、まあ、夢の話なんで、あのまま終わったんですけどね!
*
彼女について、彼女に関するあらゆることの何かについて描写してみようと考えた時、パソコンの前に座るわたしの、文字をタイプする手は、かなりはやい速度で文字を刻んでいこうとする。
自分でもちょっと焦るほどだ。
なんたって、一分一秒、こうしている間にも、時間はどんどん過ぎていってしまうから。
一秒でも早く、わたしは彼女について書きださなければならない。
時間も思い出も有限だ。
期限はハッキリと記されていないが、有限であることは時間が証明している。
時間は中々に手強い。
わたしの味方をしてくれることもあれば、敵として立ちはだかることも幾度となく経験してきた。
時間はただ経過していく。
思い出は速やかに消化されていく。
わたしが何もしなくても何かしても、ただ一切は過ぎていくばかり。
でも、有難いことに、時間が過ぎていく事でなんとかなることのほうが世の中には多い。もちろん、良くも悪くも、だ。
わたしは、彼女が今、わたしについてどう考えているのか、という妄想のすべてを排除して彼女について思い出している。
彼女の気持ちを勝手に予測する権利はないし、勝手に舞い上がって勝手に落ち込むのにはもう疲れたからあまりしたくないという理由もある。
今、わたしの目の見えるところにいない人について考えを巡らせても、何一つとしてことは展開しないし、わたしはもう十分すぎるくらいに、脳みそがパンクしてしまう位にはいろいろな可能性について考えたつもりだった。
わたしたちの意思とは裏腹に、気持ちだけは、何があっても時間にだけは絶対に抗えない。
気持ちや感情といった物は、何にも、時間にも気持ちにも、言葉にも、人間にも縛ることは許されていない。
わたしたちは時間に干渉することはできない。
だけど、皮肉にも、気持ちや感情が負った傷は、時間だけが変化を与えることが出来る。
つまり、未来のある地点では、今負った傷を癒すことも、さらに悪化させることも可能なのだ。
過去だけは特別だ。
一度時を止めて、点となった過去の時間は、たとえ、動き出したとしても、かつてと同じように動作するとは限らないとわたしは思う。
だからわたしは、彼女のことを思い出すたびに、一刻も早く、彼女を、文字という時間を持たない空間に閉じ込めてしまいたくなる衝動に駆られる。
いつものように、わたしは部屋の中で一人、ヘッドホンで耳を塞いでから目を閉じて、真っ暗闇の空間の中で、彼女の名前を呼んだ。
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