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大人の自由研究~「対新型コロナ戦」の戦略~

注意:私は医療従事者でも学者でもありません。日々組織の問題点の特定とその解決策を考えることを生業とする「経営コンサルタント」として、自分ならばどうするかという視点で考えた【大人の自由研究】としてご理解ください。

2020年2月ごろから日本でもコロナウイルスの感染が広がり始めた。4月~5月にかけての緊急事態宣言によって、一旦感染拡大は収束に向かったものの宣言の解除によって、再び感染が蔓延し感染第二波が到来しているといえるだろう。

コロナウイルスの感染拡大を抑えながら、経済活動も回したいというのが日本政府の本音なのだろうが、その戦略はやれアベノマスクだの、やれGOTOキャンペーンだの支離滅裂としか言いようがない。

地方自治体は地方自治体で、ただただ「なんちゃら宣言」を乱発し、今どういう状態で何をしたらいいのかさっぱり理解していないのだろう。

日本は今、どのような戦略を立て、何をすべきか

一介の戦略コンサルタントの【頭の体操】として一度考えてみたい。

1.医療崩壊を防ぐことは対コロナ戦の絶対防衛ライン

しばしば、「経済を動かしつつ、感染拡大を防止する」というようなことを言う政治家や専門家がいるが、これは間違いである。
「医療崩壊をさせないという絶対条件のもと、経済を動かす」
これが正しい因果関係だ。経済と感染抑制はパラレル展開してはいけない、平行させてはいけない。医療崩壊させない前提、医療崩壊しない範囲内で経済を動かすことが必要がある。

 ①コロナウイルスの決定的治療法がないという現実

2020年5月現在、新型コロナウイルスを直接標的とする確立した治療薬はありません。基本的には熱を下げる、酸素を投与するなどの対症療法を行いながら、自分の免疫力によって体内のウイルスが駆逐されるのを待つことになります。
引用:東京大学 保健・健康推進本部 保健センター

ご存知の通り、コロナウイルスのウイルスそのものを叩く特効薬は未だ開発されていない。上の引用の通り対症療法で患者自身の免疫力をサポートする以外に治療する方法がないのが現状だ。

 ②必要な対症療法が受けられない患者が発生すれば「医療崩壊」

コロナウイルスにおける「医療崩壊」とは、患者が大量に発生し病状に合わせた対症療法が受けられなくなる人が発生することである。
つまり、「医療の需要量>医療の供給量」となりキャパオーバーが発生するということだ。

 ③「医療崩壊」してしまえば取れる戦略は1つだけになる

一旦「医療崩壊」、つまり「医療の需要量>医療の供給量」となってしまえば、「医療の需要量」を強制的に下げていく以外に方法がなく、一度パンクしてしまえば「医療の供給量」を一気に増やすことは困難である。「医療の需要量=感染者の数」を大幅に抑制するには、緊急事態宣言を再び発令し人の接触機会をゼロに近い状態にする必要がある。こうなってしまえば、人の動きは止まり、結局、ほぼすべての経済活動を停止させることになるのだ。

コロナ対策と経済活動の両立、ということが言われているが、それは両立させるものではなく、コロナの蔓延によって医療崩壊が起こさない前提でしか、経済は動かすことができないのだ。つまり「医療崩壊」を発生させないこと、それが対コロナ戦の最終防衛ラインであると言えるのだ。

2.「医療崩壊」対策はできているのか?

「医療崩壊」を起こさないことが経済対策としても必達の目標であることを説明してきたが、現状、「医療崩壊」を防ぐための取り組みは十分であると言えるのだろうか?「医療崩壊」の危険はどこにあるのか?

 ①増え続ける新規感染者数

すでに多くの方がご存知の通り、新規感染者数は日毎にばらつきはあるものの7月に入ってから増加し続け8月に入ってからは1,000人を越えることも珍しくなくなった。PCR検査数が増加したことも要因の一つではあるが、新規感染者が増加することは医療の需要量を押し上げることになり、医療崩壊の危険が高まることは当然である。

引用:NHK特設サイト 新型コロナウイルス 2020年8月15日

 ②ECMO等重篤患者よりも中等症患者への対応が医療の負荷となっている

  (a) コロナウイルスの一般的な経過

コロナウイルスは一般的に次のような経過をたどると言われている。

引用:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第2版

風邪のような症状から始まり、重症化すれば呼吸困難による酸素吸入、人工呼吸器やECMOの装着という経過をたどると言われている。

  (b) ECMOを使わずに亡くなる人が95%を占める

ネットで集められるデータで最も詳細なものは第一波終了時点でのデータであったので6月末時点でのデータをもとに検証する。
ECMOによる治療実績は以下の通りである。

ざっくり計算すれば、感染者のおよそ1%が重篤な状態に陥りECMOによる治療を受けたと言える。注目すべき点としては、ECMOによる治療を受けたにも関わらず死亡した人数というのは、死者の約5%に過ぎないということである。つまり残りの95%はECMOを装着することなく、亡くなっているといことなのだ。

  (C)ECMOが足りない??

原因として、ECMOがすでにキャパオーバーしており、ECMOが不足し装着できなかったのではないかと当初考えたが、それは違うと考えられる。

先程説明したコロナの治療経過にに各種団体が公表している治療実績のデータを組み合わせるとおよそ下記のようになる。

筆者作成
参考
国立国際医療研究センター
COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」メディア勉強会資料
一般社団法人 日本集中治療医学会
日本COVID-19対策ECMOnet COVID-19 重症患者状況の集計

「日本集中医療医学会」によれば、『人工呼吸器を装着した患者のうち約5人に1人がECMOが必要な状態になる』とのことであり全体の5%が重症化しそのうちの5分の1がECMO装着を必要とすると言えるので、全感染者の1%がECMOを必要とするという数字と実際にECMOが使われた数字が約1%の患者であるのでほぼ一致する。ゆえに必要な患者には一応ECMOは行き届いていたと言えるだろう。

また、コロナ治療のためにECMOの稼働が最大となったのは4月27日であるが、その時でさえ稼働台数はわずか62台にとどまっており、国内のECMO保有台数約1,400台に対してわずか4%の稼働にとどまっている。

加えて、軽症・中等症・重症・ECMOを使う重篤者の死亡率の合計と全感染者の死亡率も5%でほぼ一致しているので矛盾や食い違いはないと思われる。

  (d)医療の最も大きな負荷となっているのは「中等症」~「(ECMOを除いた)重症」ではないか

中等症や重症患者がECMO治療に至らずに亡くなってしまう原因としては、ECMOのキャパが十分であり「重症」からECMOに移行する患者の割合を考慮しても、ECMOの不足とは言い難い。ゆえに考えられる理由としては、「中等症」及び「(ECMO装着を除いた)重症」患者の急激な病状悪化が原因の一つとして推測される。

当初、私は最も医療的負荷がかかるのはECMOによる重篤患者の治療であると考えていた。だが、それ以上に酸素吸入を行う「中等症」とECMOには至らない人工呼吸器等の「重症」患者の数にそれなりのボリュームがあり、また死者の80~90%近くが「中等症」と「(ECMO装着を除いた)重症」患者であることが医療のプレッシャーとなっているのではないだろうか。

この「中等症」「重症」患者のケアが医療の大きな負荷になっているのではないかと推測する。

 ③治療に専念できる体制が整っていない

これも推測になるのだが、コロナウイルス治療は様々な「非効率」を抱えたまま運用されてしまっているのではないだろうか?

その一つが「転院」である。

引用:「COVID-19 レジストリ研究に関する中間報告について」メディア勉強会資料

この資料からはどういった理由で「転院」が起こっているのかよくわからないのだが、工場などの生産管理では「運搬」というものはムダの一つと考えられている。

生産管理上、「運搬」はそれそのものがなにか価値を生む行為ではないので、できるだけ削減することが望ましいとされる。工程と工程をできるだけ近づけて、「運搬」という行為が発生しないように生産工程を設計するのだ。

コロナウイルスの治療についても同じことが言えるのではないだろうか。「転院」という行為そのものが患者を治療するわけではないのに、16.6%もの患者が「転院」しているのである。転院するにあたって医療スタッフが準備を行う必要があるし、移送するということはそれだけ感染リスクを広げることにもつながる。

なぜこれほど高頻度で「転院」する必要があるのかは詳細を調べないとわからないが、高度な医療管理が必要とされる「中等症」以上でワンストップで治療が継続できる体制がないために、限られた医療スタッフ・医療設備・医療資金などの「医療資源」をムダにしている場面が多々あるのではないか。

ここまでを一度まとめてみる。

現状、「医療崩壊」への対策は十分とは言えない。
・新規の感染者は増え続けており、医療の総需要量が増え続けている。
・ECMOが必要になる「最重篤」患者よりも、ボリュームの多い「中等症」~「重症」患者への対応が負荷として大きい
・医療の「供給」に非効率な面があり、限られた資源を浪費している
ことが原因であると推測される。

このまま今の状況を続ければ、いずれ医療崩壊が発生し、経済対策どころではなくなるのではないかと私は考える。

3.「医療崩壊を防ぐこと」だけに集中する

現状の延長線では、「医療崩壊」は避けられないのではないかというのが私の考えである。
では具体的に何をするべきであるのかについても考えてみる。

 ①感染者数自体を抑え込む

皆さんご存知の通り、日々感染者数は増加し続けている。感染者が増え続ける限り医療に対する需要は高まり続けるのだから、新規感染者を抑制することが最も重要な対策である。

  a PCR検査の徹底

PCR検査については現状2万件前後実施されており、第一波ピーク時の8,000件前後からは大幅に増加している。しかしながら日本の検査体制については諸外国と比較し脆弱である。

日本が最大3万2000件であるのに対し、中国は380万件、アメリカは50万件、ドイツは18万件、フランスは10万件にも上る。
引用:ヤフーニュース 圧倒的に少ない日本のPCR検査件数「世界159位」を招いた厚労省と分科会の罪

なぜ日本の検査能力がここまで低いのか、これについては明確にわかる情報を見つけられなかった。どこかにボトルネック工程があるのは間違いなさそうだが、PCR検査の工程がブラックボックス状態に近く全体像がよくわからない。
また、PCR検査については正しい検査結果が出ない「偽陽性」「偽陰性」の問題を指摘する専門家もいるが、検査精度については何度も複数回検査を行うことである程度高められるのではないかと推測される。

また、春頃一部専門家が「PCR検査を大量に行えば医療崩壊する」というようなことを発言していた記憶があるが、これは誤りであろう。医療崩壊を回避するための基本は感染者、つまり医療の需要そのものを下げる必要があり、感染者を減らすためには感染者から次の感染者を発生させない隔離が必要である。誰を隔離しなければならないかを発見するためにPCR検査を行うのだ。しばしば「軽症者で病床が埋まってしまう」などという意見も見られたが、その問題の本質は「医療資源の無駄遣い」の話であって、「隔離する」という目的を達成するために必要な資源は何であるのかを特定すれば住む話だった。

  b 感染者隔離の徹底

軽症者については、入院ではなく自宅かホテルなどの隔離施設で療養するケースが多い。現状では感染者の約33%が自宅療養を行っているが、自宅療養は即座にやめる必要があると考える。

参照:療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査について


単身者については、食事や身の周りのことを行うには外出や他者との接触が避けられない。
また、単身者以外が自宅療養行うということは、同居家族に感染させてしまうリスクは避けられない。1人の感染者から2人3人と感染を広げてしまえば、医療需要を更に増加させてしまう。

小さな子どもを抱える親は、子どもの世話があるので自宅療養を選択せざるを得ないケースが多いだろう。感染者は基本的に自宅療養ではなくホテル等に隔離されるという前提で、子どもの保護・保育をどうするか(児童養護施設の活用など)について早急に対策を取る必要がある。

 ②医療体制の増強

  a 軽症者用ホテルの活用

今後、PCR検査数が増加すれば無症状者および軽症者のボリュームが一層多くなる。もうすでに実施されているが①のb感染者隔離の徹底 でも説明した通り自宅療養では完全隔離が難しい。ゆえに、感染者は基本的にホテルでの隔離療養が望ましいと考えるが、これは逼迫する医療需要に対しても有効である。酸素マスクや人工呼吸器など常時医療を受け続ける必要のある人に対し医療資源(つまり病院の入院ベッド)が確保されていなければならない。軽症者療養用ホテルの十分に確保しておかなければならない。東京では一時宿泊療養ホテルの使用率が80%近くに急増した。これは6月末ごろの感染が一時落ち着いていた時期に借り上げていたホテルとの契約を更新しなかったことが原因と言われているが、ありえない判断ミスであると言わざるを得ない。

参照:ヤフーニュース【新型コロナ】東京都、軽症者用ホテル受入室数の発表も不正確 大幅縮小で一時逼迫するも改善

  b コロナ対応専用病院の設置

先述したが、現状では多くの病院がコロナ以外の治療と並行して、コロナの治療にあたっているが、これは非効率である。汚染区域を厳格にゾーニングする必要があるし、コロナに対する医療資源が分散して存在するために転院のための移送など資源の無駄遣いをしている状態である。東京都はコロナ専用病院を10月に設置予定とのことであるが、人口と感染者が特に多い愛知・大阪・福岡も同様のコロナ専用病院の早急な設置が必要である。また、沖縄においては感染者が急増しており、離島を多く抱え医療資源に乏しい地域特性を鑑みれば今すぐにでもコロナ専用病院の設置が急務であると考える。

☆             ☆            ☆

国や地方自治体のコロナウイルス対策を見てきて、日本という国はここまで無能な国だったのかと正直失望してしまった。

どこで作って、どんな流通経路をたどって配られているのか、全く身元不明のマスクが2枚配られ、感染を抑制することが急務であるのに旅行を促すキャンペーンをする。

療養用ホテルや病床確保数などのデータが錯綜し、誰も現状をモニタリングできない。

挙句の果てには「うがい薬がきくらしい」という因果関係のよくわからない情報が公式発表されてしまう。

国や地方自治体はこんなトンチンカンなことしかできていないくせに、やれ夜の街があぶないだの、若者が騒いで感染を広げているだの命令や指示や非難ばかりしている。

私は今一度あなた方に言いたい。
「私たちはやるべきことを十分にやっています。あなた方こそ自分のやるべきことをさっさとやってください。」

こんなグダグダな国の対応でも、感染がこの程度で済んでいるのは感染を広げまいと手洗いを励行し、マスクを積極的に着用し、外出を自粛している多くの国民の努力の結果なのだ。あなた方に文句を言われる筋合いはない。

軽症者用ホテルを十分確保し医療資源の集約を準備した上で、ガンガンPCRをやる。そして感染者を発見⇒ウイルスの排出がなくなるまで隔離 を繰り返すことが基本戦略のはずだ。

そして感染者の絶対数を抑え込んでいくことで「戦略を立て直して」いけば、感染経路が追跡できるクラスター対策を主軸とした第二防衛ライン、国内の感染をほぼ抑え込み海外からの水際対策に集中する第一防衛ラインと戦線を押し戻していくことも不可能ではないだろう。

今回、夏休みの期間を利用して「大人の自由研究」として対コロナ戦の最適戦略を考えてみたことは「思考の体操」として面白かった。あくまで私個人の思考の記録として、noteに残しておこうと思う。

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