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【雑感】2023/6/4 J1-第16節 浦和vs鹿島

試合に優劣をつけるものではないと思いつつも、やはりこのカードはどうしても勝ちたい、勝たないといけない、という鼻息の荒さがあって、試合前からACL決勝以降の高まりがあったと思います。


試合全体を大雑把に見ると、前半は鹿島の保持、後半は浦和の保持がメインになる展開だったのかなと思います。お互いが非保持を4-4-2をベースにしていて、保持も「ポケット」「ハーフスペース」と呼ばれるエリアを狙うアクションを積極的に起こすという点でスタイル的に似ている部分もあったのかなと思います。

鹿島の保持は幅を取るのがSBで、SHはシャドーのようなイメージで中に絞ってくることが多かったです。ただ、左SHの樋口は絞ってくる時にIHのようなイメージでビルドアップにも関われるようなポジションを取るのに対して、右SHの名古は右IHともトップ下とも言えないようなポジションを取る違いがあったように見えました。

加えて、CHはピトゥカが6番、佐野が8番といった具合の棲み分けが明確で、それによって保持の形は右偏重になっていたと思います。9'40~の前進はこうして右サイドに選手が多くいたことでパスコースを多く用意できたことが大きかったと思います。ざっくり図にするとこういう感じでしょうか。

図にも書きましたが、鹿島が右偏重だったということはその裏返しとして左は手薄になりやすく、それによって鹿島にある程度前進されたとしても逆サイドへ展開されて、体の向きを変えさせられるという場面が少なかったです。展開されても安西の内側を抜けて行く選手がいないので少し時間に余裕が出来たのかなと思います。

鹿島がボールを保持して押し込みながらも決定機はなかなか作れなかった要因はそういった点にもあったのかもしれません。サイドを限定している状態であればきちんと中央でクロスを弾き返せるというのが今の浦和強みで耐えることが出来たとも言えそうです。


鹿島の右偏重の保持に対して、浦和はスタートではリンセンが左SHでしたが12分ごろにはトップ下の関根とポジションを入れ替えていました。これによって非保持では構造を崩されずに対応することが出来ていましたが、逆に保持では上手くいかなくなってしまったのかなと思います。

浦和はCHを安居と敦樹の組み合わせでスタートして、どちらも8番のようなイメージで鹿島の2トップから少しよりを取ったポジションを取ることが多かったです。鹿島はそこに対して佐野を前に押し出して4-◇-2のようなイメージで準備されていたので、鈴木と垣田は背中に安居と敦樹がいても佐野が出てくるから後ろよりも前(浦和のCB)へ意識を向けやすかったのではないかと思います。

安居がCHでスタメン起用されるのはG大阪戦以来で、あの試合では岩尾は8番的に振舞おうとしていたけど、安居が後ろ重心になってしまったという反省点がありました。それを踏まえれば安居はこの試合では出来るだけ8番2枚として振舞おうとしたのかもしれません。

それでも、結果的に鹿島の方が後列から人を出してくる、それによって2トップが前に出ていきやすくなるのであれば、安居か敦樹のどちらかが2トップに近づいてCBへの意識を引き受けるような振る舞いが出来ると良かったのかなと思います。


また、鹿島のSHは保持と同様に内側に絞ってくる意識が強く、前に出るというよりは2トップの脇からの縦パスを防ぎたい、それは佐野が前に出ることでピトゥカの脇が空きやすいのでそこを塞いでおきたいというイメージがあったのではないかと。

浦和はそのピトゥカの脇をトップ下に関根を置くことでビルドアップの出口としたかったのかもしれません。ただ、非保持の対応で関根とリンセンを入れ替えたことで、39'25~のように興梠が代わりにその役割をやろうとしていました。興梠にはそれが出来てしまうのですが、彼に本当にやってもらいたいのはよりゴールに近いエリアでの仕事のはずで、そこは前半が思い通りいかなかった点かなと思います。


ハーフタイムでリンセン→岩尾の交代を行い、安居をトップ下に据えることで浦和の保持はスムーズになりました。45'40~のビルドアップから岩尾は垣田と鈴木のゲート上かそれよりも手前に出ることで2人の意識が向くようなポジションにいます。

それによってショルツが右に開きやすくなって、そうなると酒井を樋口の脇まで押し出すことが出来るので、ショルツは外の酒井と鈴木ー樋口のゲート奥にいる敦樹という2つの選択肢を得ています。さらに49'40~も岩尾は先ほどと同様のポジションにいて、それによってショルツが開く、酒井を押し出す、という構図を再現しています。

過去の試合で岩尾に対して安易に列を落ちると・・・という指摘はありましたが、この試合のように相手の意識を引き取ることで味方を楽にしてあげることが出来るのであれば、こうしてゲートの手前まで出ていくことも問題ありません。

この変更によって鹿島の2トップを中に寄せてCBがオープンにボールを持ちやすくなり、それによってSBが高い位置へ侵入しやすくなりました。CBからのボールもそうでしたし、岩尾から酒井まで飛ばすボールも数回ありました。これは岩尾が6番の振る舞いをしたことによる変化だったと思います。


安居も前半のどこかでこうした振る舞いが出来たら最高だったねという思いはありますが、スコルジャ体制では関根⇔リンセンのポジション入替のような明確な変更は指示があるものの、細かいポジション調整は選手がプレーしながら判断するように委ねているように見えるので、ピッチの中にいながら自らその盤面の機微を掴んで変化をつけるのは難しいことも理解できます。プレーが止まる時間が多ければピッチ内で会話して色々出来たのかもしれませんが。

安居敦樹ペアで8番2枚のビルドアップでの成功例は40'55~が挙げられると思います。バックパスで最後尾にボールが戻ってきて右サイドから左サイドへ移行していく場面ですが、安居は最初ヘソの位置で鈴木の背後を取りながらボールに合わせて左外の関根にボールが入った時に内側で受け手になれるアクションを起こしています。

そこに対して垣田がついてきた時に安居は自分でボールを受けられなくてもそのまま左前まで走り抜けることで垣田をどかして代わりにへその位置に入ってきた敦樹がフリーになりました。

こうしてCHが大きくアクションを起こせるのは前目に重心を取るスタンスだからこそだと思いますし、これがこの試合では安居敦樹ペアで試合を始めたことの目的だったと思います。岩尾敦樹ペアでもこういうプレーがあっても良いのですが、それは単純に岩尾と安居の走力が違うというのと、岩尾と敦樹の中で(あるいはチーム全体で)岩尾は6番、敦樹は8番というのがお馴染みだからこそそのアクションを発動させるキッカケが掴みにくいというのもあるような気がします。


後半の流れについて、鹿島の保持の構造が前半と変わったかというとそのようには感じませんでしたが、浦和が保持で押し込む局面を作ったことで鹿島のビルドアップのスタート位置が低くなり、余裕を持った状態でビルドアップ隊がボールを持てなくなったことで試合の展開が変わったのかもしれません。

さらに浦和はモーベルグを左SHに入れて大外担当にしました。後半は自分たちが保持から相手を押し込めるようになってきたので、右は酒井、左はモーベルグと大外担当を決めてクロスはいくらでも入れちゃうよ?という状態を作ってSBを引き出すことを狙ったのかもしれません。前半の鹿島と違って浦和は左右の人数バランスが偏ることは少なかったので、その部分で違いを出せたら良かったなとも思います。

ただ、結局ゴール前でターゲットになり得るのはカンテだけだったり、相手SBが出てきた後や、ボールを動かす間にパスがズレてしまったりで決定的なチャンスを作るところまではいきませんでした。これについてはここ数年ずっと抱えている課題なので一朝一夕での解決は難しいところです。


その中での一つの兆しは早川になるのかもしれません。トップ下で投入された後の79'33~に最後尾にいた岩尾からのパスがハーフバウンドで腰の高さまで上がってきたところをそのままボレーでホイブラーテンへのバックパスをやってのけてしまうのを見ると、彼のキックの上手さというのは勿論、状況が整っていなくてもそういうプレーが出来るという選手としての幅というか状況の許容量の可能性を感じます。

17歳に背負わせる過ぎるものでは無いですが、彼が単純に若いから起用されている訳では無いというのを感じます。ただ、早くトップチームで目立つ存在になればなるほど海外移籍という可能性も広がっていくので、彼がいれば安泰だねとは全く言えないのですが。


こういう試合で負けなくなったのはここ数年での大きな前進ですが、こういう際どい試合で、尚且つこれだけ多くの人が集まった試合で勝ち切れなかったのはちょっと残念でしたし、まだまだこれから頑張らないといけないねと思う試合でした。

ACL決勝に進んだからこそ、チームが強くなってきているからこその日程変更による連戦なので、これを受けて立って勝てるようになってこそ真に強いチームと言えます。欧州でも大陸のコンペティションに出たことでリーグ戦は調子が出なくてしんどい思いをするクラブは多々あります。でも、本当に強いチームは毎週のようにミッドウィークの試合をこなしても勝ち点は積み上げています。

欧州と比べてJリーグはリーグ内での予算規模の格差が小さいので、選手層の厚さに差をつけることは簡単では無いですが、僕らがこれからもアジアの舞台に立ち続ける限りは「連戦しんどい」なんて言ってる場合ではなくなります。

次の天皇杯はACLへの道にも続く大切な大会です。ルヴァン杯よりこちらの方が優先度は高いと思いますが、完全に一発勝負だからこその難しさを僕らはクラブは何回も経験してきました。昨年も群馬での試合後にバスが囲まれましたし。勝って当たり前の試合ほど精神的には難しくなりますが、しっかり勝ち上がってもらいたいですね。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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