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三年計画の定点観測(2021年4月度月報)

◆前書き
昨年はリーグ戦の試合の直後にアンケートを取って、自分の評価と比較しつつ三年計画のプレーコンセプトが表現できていたのかをまとめていました。ですが、協力してくれた方もアンケートの項目が多くて面倒だったんじゃないかとか色々自分なりに考えて、今年は試合ごとの記事はその試合の内容によってピックアップする事象を変えた雑感として出しつつ、月の終わりに月報のような形で三年計画のプレーコンセプトについての定点観測をしようと思います。


リーグ全体を見ると、4月は横浜FC、鹿島と監督交代があり、降格が4枠、さらに五輪期間に向けて連戦が続いて一つ躓くと立て直す間もない状況が続くというスケジュールなので、ゆっくり考える間もなく動かざるを得ないのは仕方ないのかなと思います。

そんな中で着実にチームとしての成長が内容だけでなく結果にも表れた浦和をまずは試合ごとに振り返っていこうと思います。


◆今月の戦績

4/3 (Sat) J1 第7節 (H) vs 鹿島 ○2-1
4/7 (Wed) J1 第8節 (A) vs 清水 ○2-0
4/11 (Sun) J1 第9節 (H) vs 徳島 ○1-0
4/18 (Sun) J1 第10節 (A) vs C大阪 ●0-1
4/21 (Wed) J杯 GS第3節 (A) vs 横浜FC ○2-1
4/25 (Sun) J1 第11節 (H) vs 大分 ○3-2
4/28 (Wed) J杯 GS第4節 (H) vs 湘南 △0-0 

※リーグ戦 4勝0分1敗 8得点4失点(+4)
※ルヴァン杯 1勝1分0敗 2得点1失点(+1)

先月の月報の最後に、「3月よりは相手が落ちるので結果も求める必要がある」という感じのことを書きましたが、今月は見事に白星が並びました。C大阪戦も敗れはしたものの、自分たちが意図する動きでチャンスを作ることは出来ており、内容では手ごたえを得られたものでした。


3月は4-2-3-1の配置をベースに、ビルドアップではボランチを1枚落として3-1の形を作り、この1の部分にトップ下の小泉が積極的に下りて関わることで、ビルドアップ隊に人数をかける分、前線の特にゴール前のエリアが手薄になってしまう現象が多くみられました。

そんな中で4月を迎えるにあたって、3月の最後に西がルヴァン杯柏戦で出場したり、その翌日のエリートリーグ札幌戦で武藤をCF、武田と涼太郎をIHに配置した4-1-4-1の試運転を行っています。ここで手ごたえがあったことを鹿島戦前日の定例会見でリカルドが口にしています。

(28日のJエリートリーグ グループA 第1節 北海道コンサドーレ札幌戦では流れの中から3得点を奪ったが、得点を含めてJエリートリーグでポジティブな何かを見つけることはできたか?)
リカルド「非常に多くのポジティブなものが見られました。戦術的なところも含め、前日のルヴァンカップ、そしてエリートリーグの札幌戦でいろいろ試すことができました。90分プレーできた選手もいますし、良いパフォーマンスを見せた選手もいました。また、若手の中でも興味深いプレーが見られた週末でしたし、非常に実りのある、多くの情報を得ることができた週末でした」


そして、鹿島戦では解説の戸田さんも「これまでで一番良い入りをした」といったコメントをしていましたが、開始早々からボール保持の質の向上が随所に見られました。

まずは4-1-4-1の変更によってビルドアップが2CB+1アンカーの3枚に西川が関与する形になりました。そのおかげで中盤から前に人数を確保することが出来、武藤+4人の中盤+両SBがポジションを入れ替えながら積極的に縦スライドしてプレッシングをかけたい鹿島のSH、SBの背後のスペースを狙ったり、かと思えば相手の選手の間で受けてターンをしたり、3月の試合とは見違えるほどにスムーズなボール前進が繰り返されました。

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また、アンカーに入った柴戸が今まで見せてきた機動力抜群のプレースタイルから一変して、ピッチの中央に鎮座して鹿島の2トップを引き付けることが出来ていたのも浦和の保持の質が向上した大きな要因として挙げられます。次の清水戦の後のリカルドや岩波のコメントからもそれが伺えます。

(柴戸 海選手がここ2試合、1ボランチのような形でプレーしている。マイボールのときにボールに寄りすぎずいい位置を取って我慢できるようになってきたと感じるが、彼にはどのようなことを働き掛けて、どのような変化を感じているか?)
リカルド「ボールを持っているときの彼の立ち位置であったり、状況に応じて高さを変えるところであったり、そういったところはすごく成長してきている選手の一人だと思います。そういった部分だけではなく、彼のいいところは走れて戦える、広い範囲を守れる選手であることです。プラス今回で言うと、武田(英寿)、(小泉)佳穂、その3人でうまくボールを動かしながら試合を支配できたと思います」


(鹿島アントラーズ戦から続いて柴戸 海選手が中盤の底に1枚いるような形で、相手のFWの少し後ろをとってくれることで、岩波選手と槙野智章選手の前が空いてボールを運べていると思うが、そこの整理された感じについては?)
岩波「まずは1ボランチになって、相手の2トップの背中で(柴戸)海が駆け引きすることによって僕たちがフリーになる場面もありますし、逆に海がフリーになって、そこから運んでいける場面も練習からすごくいい形ができています。そこはチームとしての形として、最近手応えをつかみ始めたかなと思います」

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清水戦では先発もベンチも全く同じメンバーで臨みました。清水はこの前の試合で徳島にプレッシングを裏返された失点で敗れており、この試合では中盤にブロックを敷いて構えてきたため、中盤のスペースはかなりタイトになりました。

ただ、そんな中でも焦ってボールを動かすのではなく、上手く相手の間にポジションを取り、そこから人がどんどんローリングしながらポジションを入れ替えながら相手をずらすことを試みます。

そしてこの試合では、清水のビルドアップに対して3月はあまり行わなかった縦方向を規制するプレッシングを関根、武田が仕掛けてボールを回収した流れからCKを獲得して先制しています。

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中3日ということもあって、終盤は浦和のプレッシング強度が落ち、清水にチャンスを作られるシーンがあったものの、ゴール前の局面ではきちんと人数を揃えてシュートコースの限定も出来ており、最後の最後に健勇のきれいなボレーシュートからのゴールというご褒美が待っていました。途中交代の選手が攻守ともにスムーズに試合に馴染めており、この辺りはチームの雰囲気の良さだけでなく、チームとして何を目指しているのかというのが共有されてきているのかなと思います。

(2点目のシーンは途中出場の選手が5人絡んだが、途中出場の選手が結果を出したことについては?)
リカルド「こういう勝利は常に、チームの勝利だと思っています。途中から入ってきた選手であったり、選手たち全員のプレー、がんばりがあっての勝利なので、その意味ではすごくいい試合をしたと思っています。それから杉本健勇に関しても、なかなか今までチャンスがあってもゴールに入らないところではありましたが、今日はあまり長い時間ではなかったですが、その中の一つのチャンスをしっかりと決めてくれましたので、杉本健勇のゴールも本当にうれしく思います」


守備の部分ではマリノス戦、川崎戦こそ大量失点しましたが、それ以外は比較的安定した守備が出来ており、この週の定例会見ではそれについての言及がありました。

(ここ最近、守備が非常に良くなっていると思う。チーム全体もそうだが、各個人が追い込む守備、コースを制限したり誘導したりする守備が開幕当初と比べて良くなっていると思うが、守備のコース取りや意識はどのように指導や意識付けをしているのか?)
リカルド「最も重要なことは、チームをコンパクトに保つことです。ラインの間の距離感もしっかり保たなければいけません。たとえばFWが前からプレスを掛けるときはGKも含めてチーム全体で前に出なければいけません。また、中締めも重要であり、相手FWへのくさびのボールを簡単に入れさせないことも重要です。FWへのボールが多ければDFにとって問題が増えるということになります。また、相手のクロスなどの状況でのペナルティーエリア内のポジショニングも選手たちに指示しています。ここまでが私たちの基本的な守り方であって、あとは相手の特徴やパターンに合わせて守らないといけない部分も出てきます。」


3連戦の最後はリカルドの古巣である徳島。徳島も開幕直後はなかなか勝ち点を延ばせていませんでしたが、横浜FC、清水、仙台を下して3連勝と、上向きな状態での対戦となりました。

この試合では連戦で消耗していた柴戸のところに敦樹を起用する以外はスタメンを継続し4-1-4-1で挑みますが、前半の早い時間で武田が負傷してしまい、健勇をCF、武藤を一列落としてIHとします。

しかし、敦樹は柴戸ほどはアンカーとしての振る舞いが上手くいきませんでした。少し動きすぎてしまうことと、ターンの習慣がまだつききれていないことが要因だったのではないかと思います。

また、武田はスタートポジションのままの位置にいてクルっとターンしたり自分からアクションを起こすことが上手いですが、武藤は誰かが動いて空けた場所にスッと入ってボールを受けたりするのが上手く、だからこそ偽9番としてIHやSHの選手が動いて空けた場所へ入っていくのがハマったというのはあったと思います。


そうした個々のキャラクターの違いもあってボール保持が今一つ機能せず、さらに徳島がボール保持の局面を増やすことで浦和を押し込む展開となり、浦和からすると、ボール保持の時間を作れないことで全体が手前に引いた状態でボールを拾うことになり、その状態で徳島のプレッシングを受けて大ピンチを迎えたりもしました。

ただ、前半の最後の方に最終ラインでボールが落ち着く時間が生まれると、その後は浦和が攻勢になり武藤と明本が決定的なシュートを放っており返します。

ハーフタイムで守備の修正(明本のポジショニング)に加えて、攻撃でも小泉をボランチの位置に落としてビルドアップでも手直しをしました。これがどちらも功を奏し、より高い位置でボールを奪えるようになったり、ボール保持が安定したりしました。試合前にも当然いろいろな準備をしているのでしょうが、実際に試合に入ってから状況を観察し、ハーフタイムで的確な修正を出来るのはリカルドの素晴らしいところですね。

(後半、前線からの守備が素晴らしかったが、前半からそれができなかったのは武田選手の負傷以外に原因があったのか?)
リカルド「しいて言うなら、明本(考浩)がやや低い位置にいすぎた部分がありました。武藤(雄樹)と杉本(健勇)、2人で守るにはあまりにもスペースが大きい状況でしたので、そこを修正したらうまくハマったと思います」
(武田選手を代えなければいけなくなったときに、柴戸 海選手を入れて伊藤敦樹選手を1列前に上げる、ダブルボランチにするなどいろいろな選択肢があったと思うが、その中で杉本健勇選手を入れる形を選んだ理由は?)
リカルド「まず柴戸に関して言うと、彼はこの試合に出られる状態かどうか、ギリギリのところでした。スタートから長い時間は出られない状態だったので、あの時間帯ではまだ早いと思い、投入しませんでした。杉本を入れましたけど、その中で武藤を武田の位置で一回使ってみて、実際にどれくらいできるかを試してきましたが、やはり特長が違うのでうまくいきませんでした。その後、小泉(佳穂)と伊藤敦樹の2ボランチにしました」


そして、事前に準備していたという動きのCKから小粒隊長こと関根がゴールを奪い、2年ぶりの3連勝。鹿島戦、清水戦は自分たちが試合を優位に進めながら勝利しましたが、この試合では劣勢の時間を何とか凌いで勝利をつかみました。苦しい時間にそのまま失点することが多かったことを考えると、チームとしての成長が見えましたし、何よりゴールシーンや試合後の雰囲気からしてチーム全体で前向きな感情になれているように見えます。


3連戦が終わったと思えば、続いては7連戦がスタート。リーグ戦とルヴァン杯を交互に消化していくということもありますが、チーム全体の成長を感じているリカルドは、スタイルを浸透させるためにメンバーを固定しながら戦っていくことを公言していた開幕直後の7連戦とは違って、ローテーションが可能な段階へ移行してきていると感じているようです。

(C大阪戦の後はYBCルヴァンカップもあってゲームが立て込む大変な時期になる。3月のゲームがたくさんある時期には「大きく選手を入れ替えるとまだ安定感を保てない」と言うような話をしていたと思う。それから1ヵ月ほど経ち、チームはローテーションに耐えうる状況になっているのか?)
リカルド「その可能性はあると思います。戦術も浸透していますので、ローテーションは可能だと思っています。フィジカルコンディションも上がっていますし、選手たちの理解度も上がっています。さらにケガから戻ってきている選手たちもいますので、それができると今のところは思います」


4月の中では唯一自分たちよりも上位につけているC大阪。この試合では柴戸をアンカーに戻し、敦樹をIHとして起用して4-1-4-1は継続しましたが、前半は右サイドは小泉、関根、西のローリングがスムーズに行われて高めの位置でボールを持てましたが、左サイドは明本、敦樹がハーフレーンの低めの位置に来てしまったため、こちらは少し停滞気味でした。

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セレッソがゴール付近はきっちり固めていたことでなかなかラストパス、シュートというところまでは行けず少しもどかしさがありました。試合後の会見でもそのような趣旨の質問が出ています。

(ファイナルサードまでの作りは監督が植え付けている部分がよく出ていたと思うが、そこについての手応えは? そしてそういう試合を勝てなかった、今の心境については?)
リカルド「しっかりとコントロールしながらうまく試合を支配する展開にはできましたが、決定的なところで決められるかどうかにつながってくると思います。つなぎのところは今まで培ってきたことを選手たちがやれていると思いますが、最終的にはゴールが入らないといけません。前半の小泉(佳穂)のシュートや、関根(貴大)、興梠(慎三)など、そういう決定的なところを最後に決められるかどうかです。逆に言うと、それを決められると、また違った展開になってくると思います。その質を今後さらに上げていければと思っています」
(以前、攻撃にもっと我慢が必要と話していたが、今日の試合では手数をかけすぎに見えたところがあった。バランスが難しいと思うが、どのあたりを求めていきたいか?)
リカルド「サッカーは面白いもので、いつシチュエーションが現れるかで違うと思います。何分もたってからでないと適切な瞬間が訪れなかったり、逆に2つ3つのパスで打開できるような状況があったりします。正しい瞬間、適切なタイミングに狙いを持ってボールを入れられるか、そういったところが大事だと思います」


押し込めているので最後はゴール前の質を上げるのと、左サイドの停滞感を解消させるためにハーフタイムで敦樹に代えて興梠を投入し、興梠をCF、明本と武藤をシャドー、山中と関根をWBのように配置した3-2-5、あるいは2-3-5と表記できるようなバランスにします。2と3がどちらになるかは西の立ち位置次第という感じでした。

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ただ、前線に5枚を張り付けるような配置にしたことでネガトラのフィルターが薄くなりオープンな展開になってしまうと、CKのこぼれ球を丸橋に右足で入れられてしまい、最後は槙野を前線に残してパワープレーのようなやり方をしたもののゴールを割れず連勝ストップ。

ロティーナ前監督の遺産である秩序だった守備組織にちょっと焦れてしまったところがあって後半はリスクを冒して前のめりになりましたが、逆にセレッソは前への勢いをつけるために清武と西川を下げて中島と山田を投入しています。クルピ監督はそもそも秩序だった展開をあまり望まないですし、これにリカルドが乗ってしまったような格好になったのかなと。この反省を活かしてなのかは分かりませんが、翌週の大分戦では後半に向けて健勇を下げて敦樹を投入という秩序を維持する手を打っています。


大分戦に行く前にルヴァン杯の横浜FC戦。3月のリーグ戦では下平さんが監督でしたが、この試合では早川監督が指揮を執ります。適切なバランスのポジショニングでボールを支配することを志向するチームコンセプトはあまり変わらず、横浜FCが優勢なうちに先制。この後も攻め込まれますがザイオンがビッグセーブを連発してなんとか凌ぎます。

浦和の方は初めてメンバー表を3-4-3で出しており、ボール保持ではそのような形でスタートしました。トップチームの試合で初出場となった工藤としては早速失点に絡んでしまいましたが、飲水タイムでビルドアップのポジショニングを変更(右SBの宇賀神のスタートポジションを少し前へ)すると浦和の保持の時間が増えます。そうするとプレシーズンマッチの相模原戦でも見せたような工藤の長所が発揮されます。


浦和の左サイドは工藤の的確なポジショニングと左利きという利点に加え、外レーンにはこちらも左利きの福島が張り、ハーフレーンを汰木が裏に抜ける動きで右SBの岩武を引き付けて福島を空けたことによって前半のうちに福島のクロスから健勇のゴールで同点に追いつくと、後半に工藤がオープンにボールを持ったところから内側の汰木→外に開いた福島とパスを繋ぐと、福島からゴール前を横断するボールを送り、逆サイドから田中達也が折り返して健勇が2ゴール目。

いずれも左サイドが起点になった得点で、しかもそれがリーグ戦では出場機会のなかった選手というのはチームの活性化として最高の展開でしたね。

リカルド「全体的にすごくいい試合ができたと思います。今回、このアウェイの地でしっかりと逆転勝利できたことはすごく大きなことだと思います。攻撃のところで何本かチャンスを作ることもできましたし、ゴール前までたどり着けているシーンもありました。ディフェンスをするときもしっかりとチーム全体で守れたと思います。チーム全体としてやるべきこともしっかりできていますし、今まで出場機会が少なかった選手、またはなかった選手も含めて全員がしっかりとやりながら、今構築しているスタイルをしっかり表現できた試合だったと思います」


3月のルヴァン杯の湘南戦ではCBに藤原+岩波or槙野、この試合では工藤+岩波or槙野ということで、若い選手とレギュラー核の選手を組ませるのは藤原と工藤のメンタル面の安全弁とも言えますし、相手からしても若手2人だとなめてかかってくる可能性もあるので、この辺りの配慮は今後も続きそうですね。

(21日の横浜FC戦は浦和レッズユース所属で2種登録の工藤孝太選手がフル出場し、岩波拓也選手、槙野智章選手が45分ずつプレーした。湘南ベルマーレ戦では藤原優大選手が同じことをしたが、藤原選手と工藤選手を組ませるのではないところに狙いを感じるが、実際にどう考えているのか?)
リカルド「Jエリートリーグの水戸ホーリーホック戦で2人を組ませましたが、(YBCルヴァンカップでは)より経験のある選手と組ませた方がいいと思いました。湘南戦では優大、おとといの試合は孝太というふうに、マキ(槙野)、タク(岩波)と組ませるのがよりいい形だと思いました。その2人を一緒にプレーさせるのはまだ先のことだと思います」


大分はJ1に復帰してからも安定して中位につけて行きましたが今季は主力選手が何人も流出した影響もあってなかなか結果が出ずに6連敗中で埼スタにやってきました。浦和は大分対策ということもあってか、4-2-3-1でボランチは柴戸が6番、小泉を8番のような形で配置し、西が柴戸の脇に入ったり時折柴戸と場所を入れ替えたりしていきました。

そして、浦和が幸先よく保持→高い位置でのネガトラで即時奪回という流れで中央に入ってきた西のゴールで先制したものの、徐々に大分のミドルゾーンでコンパクトに構えた守備に対して槙野、岩波が少し急いでボールを離してしまうシーンが頻出し、プレッシングでも特に左サイドで明本の縦スライドの背後を使われて前半のうちに逆転を許します。

リカルドも小泉も先制点のあとに緩んだというコメントがありましたが、例えばビルドアップでなかなか運ばないところであったり、同点に追いつかれたところはプレッシングを裏返されたとしてもその後のゴール前で跳ね返せなかったところであったり、やるべきことをやりきれていなかったという部分に対して「緩んだ」という意識があったのかもしれません。

リカルド「今日の試合の入りは良かったと思います。ゴールも取れていい崩しも見られたと思ったのですが、先制点が入ったことによってリラックスが出てしまった、少し緩んでしまったところがあるのかなと思いました。」
(試合のテンポについて、今日は前半15分くらいまでとてもいいテンポだったがそこから落ち、最後の15分くらいはまた良くなったと思う。監督が求めるテンポが出ない理由については?)
リカルド「そこはなかなか分からない部分でもあるのですが、1点取った後、簡単に失う場面や決して難しくない状況でボールをロストするところがありました。そういうところで、うまくいいテンポが出なくなったのかなと思います」


(試合を振り返ってどうだったか?)
小泉「前半の入りはすごく良くて先制点も奪えましたので、そこは良かったところですが、その後はチーム全体としても個人としても緩さが出てしまい、そこを引き締めて修正できないまま失点してしまいました。J1リーグを戦っていく中では一試合一試合が大事ですので、ああいう緩さみたいなものがあると順位は積み上げられないと思いますし、そこは個人としてもチームとしても重く受け止めて修正したいところです。」


セレッソ戦のところでも書きましたが、ハーフタイムで健勇に代えて敦樹を投入。健勇はこの試合はCFではなくシャドーとして起用されており、その意図はおそらく健勇は武田と同じようにスタートポジションでポストプレーをしたりしつつ、そこから1stアクションを起こしていくタイプで、健勇の動きに呼応して武藤などの選手が連動することを目論んだのではないかと思います。

ただ、この試合のメンバーで最もそのポジションで上手く振舞えるのは小泉なので彼をより前線に関われる場所へ移し、ピッチ上の秩序を維持してさらにリードを広げられることは避けるということも踏まえて敦樹を8番の位置に置きます。

それでも形勢は前半と大して変わらず、ここまでの試合で攻撃の一撃必殺として機能してきた山中を諦め汰木を起用。明本をSBに下げて左サイドは2人ともドリブルで運べる体制にします。さらに、飲水タイムの後に興梠と田中達也を投入。ルヴァン杯の横浜FC戦できっちりプレーできた選手をそのまま起用するという、選手にとっても観ている側にとっても分かりやすい基準で選手起用でした。

そして、FKのこぼれ球を槙野が押し込んで同点とすると、逆転ゴールとなる3点目は汰木のポストプレーからSBにポジションを移した明本がボールを運び、後半からシャドーになった小泉がクロスに反応して、小泉が残したボールを興梠と田中達也で詰めるという、試合の途中で変更された箇所の選手が結果を残しました。

リカルド「途中からはそのポジションに小泉佳穂を入れたわけですけれども、彼の方がより、もともとそこの立ち位置の選手なので、見つけていきたいところを使えたのかなと思います。結果的にそれがうまくいったと思います。ただ、そういった交代だけではなくて、途中から入った伊藤敦樹や田中達也など、交代の選手たちも含めた全員で、チームが一つになって戦ったことで、それが全て絡み合っていい結果が出たのかなと思います」


しかし、4月最後の試合となった湘南戦では、リーグ戦で主力としてプレーする選手とそうでない選手との違いが見える内容になってしまいました。4月にアンカーとして開花し始めている柴戸とは対照的に、この試合でアンカーに入った金子は味方に寄りすぎるきらいがあり、CBに入った藤原も味方と距離を取ったり相手から離れるためのポジショニングというのはまだまだ発展途上。また右SHの田中達也も基本的には外レーンでのプレーに終始したため、右サイドは外の田中、内側手前の宇賀神、IHのあたりの涼太郎がそれぞれポジションが固定された状態になります。

2-3-5のような形でビルドアップを試みたため、湘南の5-3-2にそのまま捕まってしまい前半は相手のパスミスを拾った汰木がそのまま持ち込んでシュートした以外は湘南ゴールに迫る場面を作れず。そして、またしてもハーフタイムでリカルドが動きます。敦樹に代えて柴戸を投入して金子と2CH体制に変更し、宇賀神を下がり目にする3-2の形にして噛み合わせをずらし、右サイドでの停滞感解消のために田中に代えて関根を投入しました。

これによってビルドアップで引っ掛かるシーンは減らせたものの、チーム全体としての停滞感であったり、WBを使って幅を取る湘南の攻撃によって左右に振られたりと、内容としては4月で最も低調な試合になってしまいました。


最後の試合こそ内容が芳しくありませんでしたが、4月全体で見ればチームとしての成長が成績にも表れましたし、選手個々でも出来ることが増えており、次の試合が楽しみになった一ヶ月でした。


◆プレーコンセプトは表現出来ていたか

※各項目5点満点
1) 個の能力を最大限に発揮する
 →4点(3月=3点)
2) 前向き、積極的、情熱的なプレーをする
 →4点(3月=2点)
3) 攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする
 →3点(3月=2点)

1) 個の能力を最大限に発揮する
→ 4点

3月と比べてボール保持ではポジションチェンジの流動性が格段に向上しました。これは西というボール扱いにもポジショニングにも長けた選手がピッチに入ってきた入ってきたことに加えて、武藤、小泉、関根といった狭いスペースでも器用に振舞える選手のコンディションが安定したことが大きいと思います。

ポジションを固定してプレーさせる時には、そのポジションに応じたプレーというのを選手に与えることになります。一方でポジションチェンジを頻繁に行う場合、それぞれの選手がどの場所に入っても上手くプレーできる必要があり、それは各ポジションに役割を与えるのではなく、誰か一人のアクションをきっかけにして、一人が動く、次の人が最初の人が空けた場所へ動く、その次の人が、、といった具合で全選手が同じ原則でプレーをするだけで全体が上手く機能するという自己組織化がされている状態と言えます。

この時にアクションの性質が被る選手が近くにいると、ノッキングが起きてボールの展開が詰まってしまうことがあったり、最初のアクションを起こせる人をどの位置に配置するかによって相手の守備組織を崩せたりします。

タイプ的には明本、健勇あたりが最初にアクションを起こせる人、小泉、西、敦樹がアクションに連動出来る人、武藤、興梠、関根、武田、汰木、山中はどちらでも行けそうな人というイメージなのかなと思います。

大分戦で相手の守備を引っ張り出したいという意図のもとでシャドー的に振舞ったのが明本と健勇で、武藤、小泉、西がそれに連動していった先制点というのは狙い通りだったのかなと。一発でロングボールを裏に出していくよりも、裏を匂わせて相手を押し下げて中盤のスペースを広げた方がオープンな展開にはなりにくいので、最初にアクションを起こすのは一番前の選手ではなくその一つ後ろの列にして、そこに最初のアクションを起こせる選手を配置するようにしているのかなと。

現段階ではこの運用を始めたばかりなので習熟されるまではもう少し続くのかなと思いますが、そのうち相手に応じてアクションのスイッチ役を置く場所を変えられるようになると良いなと思います。


2) 前向き、積極的、情熱的なプレーをする
→4点

3月の相手に比べると強いアクションが売りのチームとの対戦はなかったので簡単に比較することは出来ないかなと思いますが、失点したりピンチになったりしてもアクションが緩むことはグッと減りました。相手の特徴だけでなく、保持の質が上がって点を取られても取り返せるという自信が出てきたのかもしれません。

結果がかえって問題点を曇らせて過剰な自信となってしまうこともありますが、それくらいに結果がもたらす精神面への影響は大きい訳で、代表ウィーク明けの鹿島戦で快勝出来たのは非常に大きな出来事だったと思います。

例えばビルドアップでもう少し最終ラインのポジショニングが早く的確に行われるようになると、もっと前方向へボールを出しやすくなりますし、そうなるとボールの失い方の予測が立ちやすくネガトラのアクションもよりスムーズになると思います。昨年からずっと取り組んでいることなので一朝一夕で解決できる課題ではないですが、どこかで選手の入れ替えがあるのか、今出ている選手が成長するのかが起きた時に、またチームの大きな成長の波が来るのではないかと思います。


3) 攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする
→3点

自分たち主導で4局面の循環をスタートできなかった徳島戦の前半、自らトランジションの強度を落としてしまったセレッソ戦の後半、保持からスタート出来たもののその質が伴わずに4局面の主導権を失っていった大分戦と、試合の流れを自分たちで制御できない時間もまだまだあったかなという印象です。それでもしっかり勝ちを積み重ねていくことが出来たのはチームとしての成長ですが、目指しているところまでのギャップはまだまだありそうですね。

徳島戦の40分過ぎのように自分たちのペースに試合の流れを引き戻せた場面もあったので、これを意図的に出来るようになれば劣勢の状況での精神的な余裕も出来るでしょうし、そうなればより試合を楽に進めて勝ち点を積み重ねやすいのだろうと思います。他チームを例に出したくはないですが、川崎の上手くいかない時間帯をやり過ごしつつ自分たちの得意な状況になった時に一気に自分たちのペースへ引き戻すようなことが出来るようになると良いなと思います。

今の浦和は保持の時間を増やしてバランスを整えることが自分たちのペースへ引き戻す手段ですが、これが非保持でのプレッシングなのか、リトリートなのか、ボールを持っていない時のアクションでも自分たちのペースを作ることが出来るようになれば良いですね。昨年観た徳島vs磐田では非保持から流れを作っていたように見えたので、リカルドにはそういう引き出しもあると思います。


◆来月の試合予定

5/1 (Sat) J1 第12節 (A) vs 福岡 (16pt / 4 / 4 / 4 / -2)
5/5 (Wed) J杯 GS第5節 (A) vs 柏 (13pt / 4 / 1 / 6 / -1)
5/9 (Sun) J1 第13節 (H) vs 仙台 (3pt / 0 / 3 / 7 / -16)
5/16 (Sun) J1 第14節 (A) vs G大阪 (6pt / 1 / 3 / 3 / -3)
5/19 (Wed) J杯 GS第6節 (H) vs 横浜FC (2pt / 0 / 2 / 9 / -25)
5/22 (Sat) J1 第15節 (H) vs 神戸 (20pt / 5 / 5 / 1 / +5)
5/26 (Wed) J1 第16節 (A) vs 広島 (17pt / 4 / 5 / 3 / +4)
5/30 (Sun) J1 第17節 (H) vs 名古屋 (29pt / 9 / 2 / 1 / +13)
※()内は4月終了時点でのリーグ戦の 勝点/勝/分/負/得失点差
※浦和 (17pt / 5 / 2 / 4 / -4)

4月は唯一自分たちよりも上位につけるC大阪に敗戦。5月は前半が自分たちよりも下位、後半が自分たちよりも上位の相手になります。チームとして上を目指すのであれば、後半の3試合でいかに勝ち点を取っていけるのかというのがポイントです。

神戸はC大阪と似たようなイメージで、秩序が少し曖昧になったものの、だからこそ個々のスピードが活きる状況が生まれて勝ち点を重ねていますし、名古屋は言わずもがなゴール前の堅牢な守備と圧倒的なサイドアタッカーの質で普通であれば余裕で首位という成績。ここまでリーグ戦で勝てなかった鳥栖、横浜FM、川崎はいずれもスピード感や強いアクションのあるチーム。相手こそ違えど、3月、4月と積み上げてきたものがどの程度なのかを測る試合になるでしょう。

試合のスピードをコントロールして秩序を持たせたい浦和としては、それを打ち破るようなスピード感やカオスな展開というのは避けたいところです。そのため、G大阪や神戸戦ではそういった彼らの土俵ではなく、相手のスピードをいなすようなゲームコントロールが出来るかどうかというのが浦和に突き付けられる課題になるかなと思います。C大阪戦を受けての大分戦の後半のように、オープンな展開を自ら仕向けるような策を取ることは当分ないと思うので、今後も試合のテンポ感に気を付けて試合を観てみるとチームの成長度を測れるかもしれません。


ケガで出遅れていたデンも練習に入っているような情報は見かけますし、レオナルドの移籍によって空いた外国人FWの枠にユンカーが加入しており、彼らも5月のどこかで出番があるかもしれませんね。また、ルヴァン杯のGSは5月で終わりますが、リーグ戦で出場機会を得られない選手の起用の場であったりチーム戦術の手直しの場になっているので、しっかりここを突破して実戦の機会を増やして欲しいなと思います。


5月が終わったらもうリーグ戦もほぼ半分が消化した状態になるんですね。リカルド招聘に際して、「2020年に掲げた『即時奪回』『最短距離でゴールを目指す』サッカーに、常に『主導権』を持ち、より『攻撃的』で、ハイブリッドなサッカースタイル(カウンタースタイルとポゼッションスタイル)を実現することを目的に、リカルド ロドリゲス監督を招聘することにしました。」というのが戸苅本部長の言葉でした。

また、昨年の総括として出した自分の文章で以下のようなことを書きました。

試合ごとの評価はその都度していくことになると思いますが、2020年を踏まえて2021年のシーズン後に監督を評価するときには
・「決める」と「委ねる」割合は適切だったのか
(選手の能力に合わせた割合に調節することが出来たのか)
・「決める」割合を増やしてチームの「型」が見えるようになったのか
の2点がポイントになるかなと思います。


ここまではクラブが目論んだ方向へ進んでいるように見えますし、リカルドが試合に向けてであったり、試合中であったりに選手のスタートポジションを「決める」ことで試合が好転することが何度もありました。頼むからこのまま上手く進んでくれと願いながら5月の試合を観て行きたいと思います。


今回も駄文にお付き合いいただきありがとうございました。

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