三年計画の定点観測(2022年6月度月報)
◆前書き
昨年も書いてきた1か月程度の間隔で試合内容や会見のコメントなどを拾いながらクラブが提示した三年計画、コンセプトと照らし合わせて考えていく「定点観測」シリーズを2022シーズンも行います。
◆6月の戦績
天皇杯の福島戦で久しぶりの勝利をあげた後、名古屋戦まで16日間ありましたが、まずは4~5月のハードスケジュールで消耗した頭と体をリフレッシュすべく6日間(6/2~6/7)をオフに充てました。なかなか上手くいっていないときには練習を重ねて改善を図ろうとすることもあると思いますし、何かアクションを起こさないことに対して不安に思うこともあると思います。なので、1日、2日ではなく、ほぼ1週間休むという判断を日本人が指導者だとどのくらいの割合の人がするんだろうというのは気になりました。
ただ、プレーするのは体力、感情に起伏のある人間なので、負荷をかけ続けていてはいつかパンクしてしまいます。休む時はしっかり休むという判断をしたおかげで、リカルドも含めて頭の中をゆっくり整理することが出来たのかなというのがそれぞれのインタビューから感じました。
特に5月の試合でピックアップされたのはビルドアップの局面や相手の中盤ラインを越えるところまではボールを運べるけど、ラスト1/4の相手の最終ラインの突破やゴール前では良い形を作れないという点でした。5月最後の定例会見でもそこについての質問が飛んでいます。
このタイミングで96さんにお招きいただき、この時点までの浦和の状況について議論したのですが、個人的には上記の質問で出た「パターン化」(ミシャが監督の頃のやり方のイメージ)ではなく、チームとしての優先順位の設定、つまり、チームとしてはこのエリアを狙いたいので、そこに入るのはどのポジションの選手だ、それがダメなら次はこっち、と言ったことを設定して、その場に応じて選手が判断できるようになるようにする、というアプローチがこのチームで求められるのではないかということを話しました。(一応リンクを貼っておきますが、この回自体が長いので聴かれる場合はご注意を)
普段のトレーニングをなかなか見られない人たちがそう思うのだから、チームの中にいるリカルドやコーチ陣がそこを気にしないはずがないです。ということで、オフ明けからは攻撃を中心に、そして今まで積み上げてきたことの復習に主眼を置いてトレーニングを行ったようです。
また、有料記事なので引用はしませんが、6/14に出た平野のコメントのうち、4つ目のQAは個人的に思っていたことと実際にチームが取り組んでいることがリンクしていたので、ここまでクラブ全体が発信してきたものを理解しようとすればなんとか想像できるものなんだなという自信にもなりました。(手前味噌すみません)
クラブからは中断明けの名古屋戦の手前でメッセージが発信されました。
あくまでのシーズン途中なので、自分たちのコンセプトのうち、この部分がこんな感じで上手くいきませんでした、なんて自ら手の内を暴露してもマイナスな面の方が大きいので出てくるとしてもこの程度の内容になるのは仕方ないでしょう。
昨年の江坂、酒井の加入会見のように質疑応答が出来るのであればまた違った内容のものになったと思いますが、ここは一方的な発信だったのでリーグ優勝は難しいけど、今できる最大限のことをやる(目指せるタイトルを目指す)としか言えないだろうと思います。
中断明けの名古屋戦に向けての定例会見では、中断期間にトレーニングマッチをしていないのでゲーム勘やリズムの部分が心配としながらも、それはシャルクやモーベルグという新加入選手がいながらまとまったトレーニングの時間が取れなかったというのも影響していることを話しています。昨年の春頃もリカルドはチーム全体がシンクロしないといけない、誰か一人でもいるべきポジションから外れるとチーム全体の機能性が落ちてしまうということを話していたので、そこは彼の一貫した姿勢だと思います。
そして迎えた名古屋戦では、中断期間中に復習したこと、グループでのアクションの連動性が見事に表現されていました。雑感の中で1点目、2点目それぞれのCKに繋がる保持、非保持のアクションについては書きましたが、特筆すべきは3点目の関根と敦樹のワンツーの場面に象徴されるように、前方向へのパスが出た次の横サポートをきちんと行い、そこへボールを入れたら次はまた前方向へという流れが色々な場所で見えたことでしょう。
この試合に向けて準備してきたことが流れの中でもセットプレーでもしっかり表現できて、それが結果に繋がったというのは非常にポジティブなものでした。
ところが、ここで事件です。水曜の天皇杯3回戦群馬戦で敗戦。ある程度引いて構える、SHの選手が最後尾まで追いかけて守備に下がることも厭わない大槻さんのチームらしい戦いを前に、相手ゴールに近いエリアまでボールは運べるものの、最後のところでアクションが起きない、アクションに対してボールが出ない、というチグハグが再び発生してしまいました。
ビルドアップの部分では試合序盤は縦スライドで前を覗くSHの背中に岩波からボールが入るのが何度かありましたが、中を閉めて外へ追い出す、外ではSHのプレスバックも伴ってきちんと蓋をするという群馬側の対応をなかなか突破できませんでした。
前半は左に関根、右に大久保を配置していましたが、左は大畑が引き気味で関根の近くや前のサポートが薄かったのも外から突破できなかったことの一因だったと思います。なので、後半はSHの左右変更も行ったうえで、前半は右CHだった敦樹を左に持ってくることで、左SHに対して横、前のサポートを作ることで後半の頭の方はチャンスを作りました。
ただ、結局はそのチャンスを決められず、終盤になるにつれてよりゴール前を固められてしまいました。この試合は現地で観ましたが、試合終了後のスタンドの雰囲気は本当に最悪で、最終的にはバスが囲まれる始末。(その頃には私は前橋駅前のホテルにいましたが)
この試合については、名古屋戦から全く同じスタメン(ベンチもシャルク→松尾の変更のみ)でした。これは恐らく、リーグでのACL出場権獲得が難しいからこそ天皇杯は是が非でも獲りたいというクラブのリクエストもあったのではないかと思います。だからこそ、この大会を落としてしまったことのショックは大きくて、せっかくリーグで久しぶりの勝利を挙げた安堵感が一気にしぼんでしまいました。
続く神戸戦は、終わってみればこの試合でロティーナ監督は最後になってしまいましたが、クローズドに試合を進めたい指揮官同士らしく、オープンになる時間帯は発生せず、DAZNでハイライト映像を作る担当の人にとっては悩ましい試合だったのではないでしょうか。
前半は神戸側のプレッシングによってなかなか思うようにボールを前進できないことが多かったと思います。特にショルツと岩波のところを分断され、ショルツの前方も選択肢がなかなか作れない展開でした。
それでも後半からは2CBの距離を狭めて、SBをビルドアップ隊に出入りさせることで大迫・イニエスタによる中央での分断や、汰木・武藤による縦スライドのプレッシングをけん制することが出来、浦和が押し込む時間を増やすことに成功しました。
決定機を数多く作れたわけではありませんが、ボールをペナルティエリア付近まで運び続けたことによってモーベルグのFKからのゴールが生まれました。勿論、流れの中で綺麗にゴールを奪えたら最高でしたが、良い位置までボールを進める回数を増やせたことはこれまでの積み上げの成果です。
本当はもっと前の時期からこのくらいのエリアで個人の質によって理不尽にでもゴールを奪って勝ち点を稼げることが理想だった、というか優勝するチームにはそれくらいの力が必要だと思います。そのための補強を今季に向けてしてきたと思いますし。ここから、どれくらい上手くいかない中でも個人の力で勝ち点を拾っていけるかという点もきちんと評価していく必要があると思います。
さて、月末にようやくリンセンの加入が発表されました。噂が出てからどれくらい経ったか分かりませんが、ゴールを奪う部分での個人の力という点で今季ずっとチームが求めている「ラストピース」です。合流はもう少し先ですが、彼の加入でチームにどのような厚みが出るのかは楽しみにしたいですね。
◆コンセプトは表現できていたか
試合数が多くなかったという点もありますが、試合の内容についてはトータルで言うと物足りなかったとも思います。姿勢の面では群馬戦はちょっと。。という感じですが、そこからの神戸戦、特に酒井の熱さというのは今のチームにおいてとても大事だったと思います。誰から見てもわかるくらいに勝負にこだわっている、思うようにいかないときにはそのまま感情を表現する、という点は間違いなく周りに伝わるし、「やらなきゃ」という気持ちのスイッチを押せるものだと思います。有料記事なので引用はしませんが、読めない方も記事のタイトルから察してもらえるのではないでしょうか。
昨年オフにも書きましたが、今のチームにはこうした選手個々の「主体性」とか「責任感」を持っている選手は多いと思いますし、そうではない選手が浮きやすい雰囲気ではないかと思います。
ただ、それを表に出せる選手はあまり多くないというか、表に出すと浮いてしまいそうだな、というのが正直な感想です。良くも悪くもとても真面目に見えます。クラブが性格も含めてきちんと指標をもって編成をした結果、もしかすると近しい性質の人間性を持った選手が集まっていることで、何か起爆剤になるような人がいないのかもしれない、そんなことを感じています。
新加入の岩尾も徐々に試合での存在感も含めてチームの中での立ち位置を確立してきたように思いますので、副キャプテン2人がここからさらにチームをけん引する存在になってくれることを期待したいです。以下は無料部分の引用です。
◆7月の試合予定
中位が団子状態のおかげで6月の2勝で順位はジャンプアップしましたが、それは再び勝ちから遠ざかれば簡単に順位を落としかねないというでもあります。
天皇杯を敗退してしまったことで、7/13は試合がなくなったので、月初の3連戦の後は週1試合のペースで進むことが出来ます。今年はここまでこのペースで試合をすることが出来ず、そのせいもあってなかなかチームで共通理解を深める時間が取れなかったり、出場機会が少ない選手も含めたトレーニングやチェックが難しかったはずです。
例えば昨年は9月が週1試合ペースで試合をしながら新加入選手を含めたチーム構築を進める機会になって、相手が上位勢でなかったとはいえリーグ戦を3戦3勝することが出来ました。
きちんと準備期間があれば結果も内容も積み上げられたのが昨年のリカルドでした。「相手を見る」が信条のリカルドにとって準備期間が大切なことは言うまでもないです。ここでどういう内容、結果を示せるかでリカルドの真価が問われることになるだろうと思います。
ピッチ上のプレー自体についてはもちろんですが、先の項で書いた【姿勢】の面でどれだけ自分たちに強い矢印を向けて、それを表現できるのかは注目したいところです。リーグ優勝やリーグ戦でのACL出場権獲得は現実的ではありませんが、だから今シーズン残念だったねで終わるわけではありません。終わってもらっては困ります。
今何が出来るの?今何をすべきなの?ということをきちんと意識する、それを"ピッチ上で"表現するということが見ている我々のお尻を浮かせてくれるはずです。むしろ、それくらいのプレーを示してくれない限り、埼スタで声出しが解禁されてもそれに見合う声は出てこないかもしれません。サポーターが闘っているのに選手が闘っていないなんて変ですからね。
それが大槻さんの至言である「勝っていても負けていても同点でも、どんなに苦しい状態でも戦いなさい。走りなさい。そうすれば、この埼玉スタジアムは絶対に我々の味方になってくれる」ということなのだろうと思います。
例年よりも既に暑いですが、それよりも熱い試合をしてくれるってことですよね!頼みます。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。
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