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戦術の足し算はあり得るか?(2023年浦和の展望)

例年になく長いオフ期間だったこともあって浦和の話題が少なくて寂しい冬でした。それにかまけて年が明けてまだ一度の文章を書いていなかったので、なまった肩を慣らすべく三年計画が終わって次の展開へ移ろうとする2023年の浦和を展望していきたいと思います。

クラブから2022/11/9に出された「2022シーズンおよび3年計画の振り返りと2023シーズンに向けて」に以下の文章があります。

2020シーズン開幕前に策定したコンセプトに沿って、クラブ主導でチームと選手の育成を進め、リカルド ロドリゲス監督の在任期間も含めたこの3年間で、チームと選手は更なる成長を遂げてくれました。この取り組みは、選手、監督、チームスタッフ等が今後変わっていくことがあったとしても、クラブとして歩みを止めることは絶対にありません。これからもクラブ主導で、コンセプトに沿った育成、強化を継続してまいります。
過去3年間の取り組みをベースとし、来シーズンは新監督を迎え更なる上積みを目指すためにも、3年計画のコンセプト『チーム、個、姿勢』に沿って以下に振り返りをさせていただきます。


「過去3年間の取り組みをベースとし、来シーズンは新監督を迎え更なる上積みを目指す」というのが大きなポイントで、2019年末にフットボール本部による強化体制を構えてからクラブ主導の継続的なチーム強化を目指してきたわけですから、前任者のやり方を否定して、更地にして、再び一からチームを構築するという作業はあってはいけません。

ただ、過去に様々なクラブで「昨年良かったところは残しながら、課題だった部分を改善する」というスタンスを取りながら「課題点は改善したけど昨年の良かったところは無くなっちゃったね」という状況を目にしてきたことが何度もありました。

となると、理想としてそういう考え方をするのは理解できますが、そもそも「昨年良かったところは残しながら、課題だった部分を改善する」って可能なの?という疑問が湧いてきます。

そこで、最近読んだ「私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化」(鈴木宏昭/ちくまプリマー新書)という本の内容を参照しながら、①学ぶ、上達するとはどういう過程を経ているのか、②その過程を指導者を変えながらどうやったら実現できるのか、③これを2023年の浦和に当てはめるとどうなるのか、という3点を考えていきたいと思います。


◆学ぶ、上達するとは?

能力は安定性を持っており、基本的にはいつでも同じように働くというイメージが強いと思うが、ここで見てきたように人間に関して言えばそうしたことは期待できない。それは文脈に応じて働いたり、働かなかったりするものなのだ。

鈴木宏昭.私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化(ちくまプリマー新書)(p.22).筑摩書房.Kindle版.

知識は伝わらない。なぜならそれは主体が自らの持つ認知的リソース、環境の提供するリソースの中で創発するものだからだ。この過程では、これまでの経験から得られたさまざまな認知的リソース、環境(状況)の提供するリソースを利用したネットワーキングとシミュレーションが行われる。また知識は環境の提供する情報をうまく組み込むことで生み出される。だから知識はモノのように捉えてはならず、絶えずその場で作り出されるという意味で、コトとして捉えなければならない。そうした性質を持つ知識は、粗雑な伝達メディアであるコトバで伝えることはとても困難だ。

鈴木宏昭.私たちはどう学んでいるのか ――創発から見る認知の変化(ちくまプリマー新書)(p.33).筑摩書房.Kindle版.

人が学んだり習得したりする「能力」や「知識」ってどういうものなのかということを掘り下げてみると、どちらもその人自身が持っているモノではなく、特定の文脈や環境とのかけ合わせで創発されるコトであるとされています。

「ビルドアップが上手くいく3つの方法」とか「3分でわかるプレッシング」といった動画を見てもそのやり方を情報として持っているだけで、それが自分の「能力」や「知識」として身につくわけではなくて、普段のトレーニングや試合で実際にプレーすることで学んでいくことができます。

ただ、トレーニングと実際の試合であったり、実際の試合でも対戦相手などによっては「あの時は出来たのに、今回は上手く出来ない」ということが起こるので、出来るだけトレーニングの設定を試合の局面に近づけたり、実際の試合を数多くこなすことで、この場面ではAパターン、こっちの場面ではBパターンと、多様な実行方法によって「能力」や「知識」に一般性(様々な場面で使える)や場面応答性(必要な場面で発動される)を持たせていくことが必要です。


そして、ある程度のところまでくると一般的には成長の停滞期(プラトー期)を迎えます。最初は解決方法自体を持ち合わせていなかったり、それを上手く扱えないために成果が出ない、そして経験を重ねるとそれぞれの場面での具体的な解決方法のストックが蓄積されて冗長化し、どれを選択すべきなのかの判断に時間がかかったり、その判断自体や実行の精度が下がったりという状態(鈴木が言う所の「ゆらぎ」)になります。ここで引き続き試行錯誤を繰り返し、失敗によるフィードバックを反映しながら回数を重ねていくと、場面にあった判断とその実行のスピードや精度が上がりブレイクスルーに至ります。

この動きは意識下にある判断や実行が無意識になっていく過程でもあります。無意識ということは、言い換えれば自動化、マクロ化された状態であり、A→B→Cという手順をXというブロックにまとめ上げてしまうということになります。


ただ、このXというブロックがいつまでも正しい手段なのかと言うとそうでなくて、あくまでもその時点での最適な方法であっただけで、より高いレベルにするためには、例えば一度マクロ化されたブロックXを分解(チャンク化)して、Bをより高度なDに変える必要があることもあるはずです。

そうすると、単純にBをDに置き換えるだけでは上手くいかなくて、AをBではなくDに繋がるように、CをDの結果を受けて動作するように、置き換えたい行程だけでなくその周辺の工程も調整が必要になります。この調整が完了するまでは先述した手段の冗長化と同じように、成長曲線(成果×時間)が鈍化した停滞期になります。そして、調整が完了するとBをDに置き換える前よりもより判断、実行の速さ、精度が上がります。上達のプロセスはこういうイメージです。


まずここまでで押さえておきたいのは、能力は定性的、普遍的なものではなく、環境や文脈に依存しているということ、その能力を学び、上達させるためには手段の冗長化、手段の置き換えとそれに伴う調整というゆらぎが必要であるということです。


◆指導者を変えながらの積み上げとは?

では、これをフットボール的に考えるとどうなるでしょうか。「能力が環境や文脈に依存している」ということを少し掘り下げてみたいと思います。

例えば、最終ラインからダイレクトに相手陣内へボールを蹴りだして、そこでネガトラを発生させて前向きに相手に襲い掛かる局面に強みを見出していたチームがあるとします。

そのためには、ビルドアップ隊がボールを持っても周囲の選手は後ろや横でのサポートはせずに、ボールが蹴り出される前方でスタンバイします。相手はビルドアップ隊からボールを奪うためにプレッシングに行くけど、すぐにボールを蹴りだされてしまって後方の選手は劣勢を強いられます。

ただ、相手がそれに対策してプレッシングに出るのをやめてロングボールに人数をかけて備えるようになると、そこで優位を取れなくなって自分たちの強みが失われてしまう、となると、「ロングボールを蹴るだけじゃなくて自陣から繋がないといけない」という変化が考えられます。

そうすると、自陣から繋ぐためにビルドアップ隊に対してしっかりサポートをつける、そのためには前線の人数をいくらか後方へ移動させるので、しっかりチーム全体でボールを前進させることが出来るようにならないと元々の強みであった「相手陣内でのネガトラで前向きに相手に襲い掛かる」という局面が作りにくくなります。


「A:自陣でボールを持つ」→「B:ロングボールでダイレクトにボールを敵陣へ前進させる」→「C:ネガトラで相手に襲い掛かる」という3つの手順のうち、「B:ロングボールでダイレクトにボールを敵陣へ前進させる」を「D:パスやドリブルを使って繋ぎながらボールを敵陣へ前進させる」へ置き換えるとします。

「D:パスやドリブルを使って繋ぎならがボールを敵陣へ前進させる」の精度を高めることはもちろんですが、「A:自陣でボールを持つ」の工程もショートパスやドリブルでの前進を前提としたポジショニングに変わりますし、「C:ネガトラで相手に襲い掛かる」の工程もボールを失う一手が自陣からのロングボールからショートパスがカットされたり、ドリブルが引っかかったりというものに変わるので、そこに至るまでの時間や味方、相手両方のアクションの状態が変わります。上達のためにはB→Dを置き換えるだけでなく、その前後にあるAとCにも調整が必要というのはこういうイメージです。


そして、置き換える工程の内容に差が大きいほど、その前後の工程も調整による変化が大きくなります。大きすぎると調整というより、AはEに、CはFに置き換わるくらいの大工事になります。僕らは簡単に「戦術を積み上げる」ことを求めますが、そのためには今出来ていること(能力)の発動条件や、それぞれの局面がどのように連結しているのかを理解し、手を加える程度を見極めることが必要になるのだろうと思います。

同じ指導者であったり、ずっとそのチームの中にいた人が指導する場合にはそれらへの理解があるので大胆な変更をすることは少ないのではないでしょうか。難しいのは指導者が外から新しくやってきた時です。

指導者の交代が起きる理由はいくつかありますが、基本的には前任者で上手くいかなかった部分の改善を求められることが多いと思います。そうすると、上手くいかなかった部分をピンポイントで手当てするつもりが、実はその周辺の工程、局面と強く結びついていて結局全体的に再構築することになったりします。

人は自分に見える部分しか見えないので、クラブとして継続して戦術的な積み上げをするためには、前任者と近い目線を持っていたり、それを理解するリテラシーが無いと手を付ける部分や程度を見誤る可能性が高そうです。そして、前任者までの戦術を理解し積み上げていくためには尖った戦術を持っている人よりは、フットボールの普遍的な要素を重視するオーソドックスな人の方が適していると言えます。


◆2023年の浦和はどうなる?

クラブとしての継続性を見るために、まずは2022年の浦和の良かった点と課題点を思い出してみます。

2022年のハイライトであった7月~8月のあたりは岩尾がアンカー、敦樹と小泉がIH化した4-1-2-3の配置でスタートし、ビルドアップ隊は互いに横あるいは斜め後ろのサポート、アンカー役はボール保持者からパスが直接出なくても縦パスの落とし先、斜め+斜めの出し先など、3人目、4人目として周囲と繋がっておく状態を上手く作れていました。

また、パスを受ける選手(特に横パスやバックパス)は事前に相手がボールの移動している間には届かない位置まで離れておいて、相手のプレッシングを観察することと、それに応じて周りがポジションを取りなおすことが出来る時間を確保できていることが多かったです。

安定して相手のプレッシングラインを越えて、ラスト1/3のエリアまではボールを運ぶことが出来ており、特にSBはボールと一緒に前進することでビルドアップ隊に関わりながら相手ゴール前の局面にも参加することが出来ていたように見えました。

2022年版ビルドアップの概略


また、非保持においては2021年の段階から2トップが左右どちらかに相手の進路を限定し、さらにそのサイドのSHも前に出るよりは内レーンを塞ぐように待ち構えることで、相手を外レーンから前進させるように誘導、相手がそのまま外レーンまで来ると、正面にはSB、斜め前にはCHが網を張ってスタンバイしているので、その中へ入ってきてもらってボールを奪う、というパターンが何度も再現されていました。

2021年5月の神戸戦(H)の時に作成した図

また、この横方向へのプレッシングがハマらずに逆サイドまで展開されてしまった時にはチーム全体で一旦中央へ集結することで、相手にいったん外まで出ていってもらって体勢を立て直す時間を作ることで決定機を作られる回数を減らすことが出来ていました。


いずれの局面も120%のスピードでガンガン前に行くのではなく、70~80%くらいの力感というか、真綿で首を締めるようにじっくり行くというイメージだったのかなと思います。それ故に、浦和が望むよりも高いテンションで突っ込んでこられる相手(特に横浜FM、札幌、鳥栖、広島)には苦戦することが多かったです。

また、論理的に崩しきれない時には個人の力量差で打開するしかなくなりますが、そこで相手に対して圧倒的な優位性を持っているような選手(ユンカー、江坂、モーベルグあたり)はコンディションが良い期間が短かったり、その選手を入れることで全体の論理性が下がってしまったりと、なかなか痒いところに手が届かなかった印象もあります。


単純な思惑としては、保持では静的なビルドアップ、非保持では相手の進路を限定しながら自分たちの仕掛けた網に引っかけるプレッシング、プレッシングがハマらずに突破された時は一旦中央に戻ってリセット、という良かった点は継続したいところです。


逆に課題としてはラスト1/3までは前進できたものの、リカルドは相手ゴール前では明確なパターンや優先順位付けはせずに、SHに相手を剝がしてもらうとか、ビルドアップからの流れで生まれた相手の穴をそのまま突いていくというイメージだったと思います。2022年5月の広島戦の雑感でもそんなことを書きました。

リカルドはここまであまり最後の1/4、1/3のエリアでの崩し方(≒リスクのかけ方)についてパターンを作らず、その部分は選手たちに委ねているような印象を受けます。それは昨年に比べて器用な選手が増えたことで、試合に向けての枠組みをはっきり設定しなくても、ある程度の大枠さえ用意すれば選手たちが上手くポジションを取って前進できるようになっていることの延長線上かもしれません。昨年はそもそもどうやって相手のプレッシングを越えるかのところに時間をかけて取り組んできて、ゴール前の部分の構築が後回しだったのかもしれません。

ただ、リスクの冒し方を自分たちの中で共有しきれていないように見える現段階では、指導者が先にプランAを設定してしまうなど、選手の迷いを減らしてあげる必要があるのではないかと思います。連戦真っ只中なので、そうしたパターン構築のためにトレーニングをする時間が取れないのが難しいところですが。

【雑感】2022/5/13 浦和vs広島(J1-第13節)

ビルドアップで安定して前進できても、その後の局面で迷って詰まってしまう、選手同士の認識が合わない、という展開が多かったことが、クラブの2022年総括に以下の文章で表現されたのだろうと思います。

最後に、相手ゴール前でのプレーの質(決定力)です。この課題にはいくつかの原因がありますが、選手編成における課題、チームとしてのリスクのかけ方、個性の発揮の3つが課題としてあげられます。
まず、選手編成においては外国籍選手等、怪我によって今シーズンはほぼパフォーマンスできなかった選手もいるなど、質の優位性という点での編成上の課題を認識しております。また、チームとしても、プレーエリアが後方に偏ることは、リスクをかけてゴール前に人数をかけることと相反することから、【リスクを負って得点を取りにいくこと<自陣ゴール前に人数をかけてリスクを低減させること】という戦い方が多くなり、得点を量産することができませんでした。また、個性あふれる選手達が相手ゴール前で存分に、イキイキとパフォーマンスできるような、チャレンジしやすい、心身両面における環境設定にも課題がありました。

ファン・サポーターのみなさまへ「2022シーズンおよび3年計画の振り返りと2023シーズンに向けて」


また、プレッシングも相手が手前に人数をかけることで浦和の2トップやSHが外方向に限定しようとする以上にパスコースが用意されてしまうと、中央を経由して逆サイドへ展開され、そのまま一気にクロスを入れらるということもありました。特に3-4-2-1のような配置のチームに対してはそのきらいがあったと思います。

前向きに選手を押し出すプレッシングはあまりやらずに、ミドルゾーンでボールを奪うことが多かった(奪える回数自体は多かったので悪くはないですが)ので、ポジトラの位置が相手ゴールから遠い、そのため保持の体制を整えるために一旦時間をかける、という展開についてもクラブの2022年総括で言及されています。

失点数を低く抑えることはできましたが、その守備の手法は、自陣ゴール前での人数が整った状態での守備の固さによるものであり、「受け身の守備」であったと言えます。結果として、低いプレーエリアで引いて守ることが多くなり、選手個々の能力もあり失点を少なくすることができましたが、攻撃への接続(ポジティブトランジション)という点に課題が残りました。
アクティブな前線からの守備については、一つ目のプレーエリアの課題と密接に関係しますが、相手に攻めこまれてもゴールを決めさせない「ゴールマウスを守る守備」ではなく、相手が体制を整える前にこちらから仕掛けて「ボールをアグレッシブに奪い返す守備」を多くすることで、ゲームの主導権を握り、より相手陣内でプレーする時間を増やすことができる。チームとしてはそのような主導権をもったアクティブな守備を志向しましたが、この点についても達成度は低いと評価をせざるを得ないパフォーマンスでした。

ファン・サポーターのみなさまへ「2022シーズンおよび3年計画の振り返りと2023シーズンに向けて」


それでも、引き分け地獄をようやく抜けた、約3週間の中断明けだった6月の名古屋戦ではペナルティエリアの角で関根が敦樹とのワンツーでハーフレーンの奥を取りに行った場面など、自分たちが狙いたいエリアとそこへの侵入方法を具体的に設定してチャンスを作りました。

2022年6月の名古屋戦(H)の時に作成した図(1)

同じ試合で、3バックの相手に対してSHをステイさせるのではなく真っすぐ前に出して相手の左右CBへプレッシングを仕掛けていったりするなど、こちらも解決できた試合がなかったわけではないのですが、その回数は少なかったですね。

2022年6月の名古屋戦(H)の時に作成した図(2)


既にスコルジャさん自身が「リカルド(ロドリゲス)監督の非常に良い仕事を感じることができます。良いところは残していきたいと思っています」「レフポズナンでやっていたことと同じルールを持ち込んできますが、Jリーグに合わせていくところが出てくると思います」というコメントをしている通り、レフ・ポズナンでの試合内容を参考にしつつも、必ずしもそのまま受け取る必要はないと思います。

ただ、僕らはリカルドとの2年間で、人は結果が出ない時には自分が得意としていない方法、結果を出した経験が少ない方法に解決方法を求めることは少なく、自分が得意とする方法や結果を出したことがある方法にこだわってしまう傾向があることを見てきました。

これが他の人にも広くあてはまるなら、スコルジャさんは実際に結果を出した21/22シーズンのやり方には自信を持っているはずだし、シーズン序盤にもし思うような結果が出なかった時にはこの時の方向性により引っ張られていく可能性があります。


2023年はここ2年に比べて選手の入れ替えが少なくリカルドと積み上げてきたものを持っている選手が多い中で、仮にスコルジャさんがリカルドと積み上げてきた長所を発揮するための前提条件に全く接続できないような志向であってはクラブとして掲げた継続性は絵に描いた餅になってしまいます。

そうした時に、どういう感じになるのかを想像すべく、スコルジャさんが率いていた21/22シーズンのレフ・ポズナンの試合をシーズンの序盤、中盤、終盤からそれぞれランダムに1~2試合ずつ観て、ざっくりの傾向というか印象を図にまとめてみました。

まずは保持から。

保持(ビルドアップ→ゴール前の崩し)

リカルドよりもリスクを冒して縦にボールを出すというのが最初の印象でしたが、そもそもどのエリアを狙うのか、そこに入っていくのはどのポジションの選手なのか、というのが明確に設定されているので判断が自動化されていったのかもしれません。ラスト1/3で明確にハーフレーンの奥、いわゆるポケットを狙いに行く、そのためにSHが開いて相手のSBを引っ張り出してランニングコースを空けるというのは横浜FMでも良く見られるやつですね。

ビルドアップでは選手の個性によるアドリブはあるものの、基本的には列を落ちてサポートに入るという感覚は少なそうです。前列の選手が下がってくるのは例えばSHの選手が相手のSBを引っ張り出してトップの選手が流れるためのスペースを作るといったイメージで、ビルドアップ隊からのパスの出し先になるためかというとちょっと違うような気もします。

この辺りは各メディアのキャンプレポートにもあるようにトップ下に入る小泉がビルドアップのサポートよりも相手ゴールに近いエリアにいることを優先させているような変化から、今季の浦和にも持ち込まれるのでしょう。


SBのアクションはあまり2022年のそれとは遠くないと思います。外レーンの低めでCBをサポートしつつボールの前進に合わせてゴール前に絡もうとするのはシーズン中盤以降、明確な3枚を作るのではなく、状況に応じて3~4枚を調整するようになって以降やってきたことだと思います。

CHは岩尾×敦樹ほど明確に6番と8番でタスクを分けている訳では無さそうでした。どちらかと言うとフランクフルト戦の後半で平野と安居が組んだ時の方が近いように見えました。ちなみに、レフ・ポズナンは30番の選手が岩尾みたいに3人目としてボールを受けるために相手のゲートに顔を出すのが上手かったです。


続いて非保持はこんな印象を持ちました。

非保持(プレッシング/撤退)

プレッシングで一番違うのはSHのアクション方向だと思います。リカルド体制では内レーンでステイが多かったですが、レフ・ポズナンでは2トップが方向を限定した先にボールが入ったら縦に出ていきます。先ほど思い出しておいた2022年6月の名古屋戦と似たようなイメージですね。

難しいのはボールとは逆側のSHで、ここは松田浩的に言うなら「ボールの雲行き」を読む力が結構求められると思います。図に書いた通り、基本的にはCHに遅れを取らないようにスライドして中央を埋めに行くのですが、相手が一気に逆側のビルドアップ隊までボールを飛ばしてプレッシングを回避しようとしたときには、この逆側のSHが縦に出ていって前進を阻み、なるべく元のサイドへ押し戻すようなアクションが求められていそうでした。

ここで逆側のSHがアクションを間違えて、スライドしているはずの中央のスペースが空いて隣のCHの脇が空いてしまったり、逆側に逃げられた時にそのまま前進されてしまったりという場面がありました。


2トップが中央を埋めながら横方向に追って方向を限定するのはリカルドとやってきたことと同じでしょう。レフ・ポズナンではレギュラーとして出ていた9番と24番がこれが上手でした。代わりに他の選手が入るとここの精度がイマイチだったので、レフ・ポズナンでの2トップは非保持のアクションの質も試合に出るための重要なポイントだったのかもしれません。

加えて、プレッシングから撤退に切り替えるときのアクションは一旦中央を埋めて相手に外へ出ていってもらう、その間に全体が集結して陣形を整えるというのは2022年までも同様だと思います。撤退時にSBが外に出た時にCHが斜めに下りる、その選手が抜けたスペースはCHがスライドしたりトップ下が下りてきたりするのはロティーナのそれを思い起こしましたね。


ここまで見た感じでは、2022年の浦和と21/22シーズンにスコルジャさんが率いたレフ・ポズナンの志向が決して遠くはないように見えます。そうした部分ではクラブとして積み上げてきたもの、それを継続させていきたいという思惑ときちんと合致させることが出来ていると思います。

ただ、例えばビルドアップでは前列の選手が下りてきたり相手中盤のゲートに立ったりしてサポートすることで相手のプレッシングを越える安定性を高める選択をするかどうかの違いがあって、ここは2022年は出来たのに、その能力を発動する前提条件が変わることで上手くいかなくなる可能性は考えられます。

また、ボールの前進に合わせて両SBやCHがより前のめりに出ていく回数が増えたり、ラスト1/3の局面で前向きにアクションを起こす回数が増えるので、そこでパスがカットされたりしてボールを失ってプレーの進行方向が変わった時にボールよりも後ろにいる状態になる選手が発生する可能性は高くなります。

この時にボール周辺の選手がより速くネガトラを行ってピンチの目を摘むことであったり、一気に裏のスペースに蹴りだされても後ろに残っていたCBが個人で奪いきったり、それが出来なくても味方が戻ってくるまでの時間稼ぎをする必要があります。裏に蹴りだされる時の対応についてはプレッシングでも同様で、SH、SBにより前向きなアクションが増えるとすれば、CBの走力や強さが試される場面は増えるはずです。そのためにも全体的な能力が高いとされるホイブラーテンを獲得したのは合点がいく話ですね。


「2022年からの継続」という観点では、例えば裏に一気に蹴りだされてボールを取った時に、すぐにロングボールで蹴り返すことが多くなってしまうとNGだと思います。

安定して相手陣内にボールを前進させるという強みを残すのであれば、その発動条件として、一旦全体が所定の位置に戻ってビルドアップからやり直す、その所定の位置というのはビルドアップ隊は相手から距離を取ってプレッシングを観察し周りがポジションを取りなおすだけの時間が作れるポジショニング、前線の選手であればゲート上、あるいはゲート奥でボールを引き出そうとしつつ、相手がアクションを起こしたらその背後(矢印の根元)を取りに行く、といった一連は必要になると思います。

これが表現されると、2022年の課題の克服(ラスト1/3で前向きなアクションを起こして意図的に崩していくこと、縦方向にもプレッシングを行ってポジトラの位置を高くする)が、2022年の良かった点に積み上げされているね、と言えそうです。


テレ玉放送圏外に住んでいるのでキャンプはyoutubeで公開されている断片的な映像と各媒体の記事などでしか把握していないので、今は今季がどうなるのかは想像の域を出ないのでシーズンが始まってみれば書いてたことと全然違うじゃんなんてことも多分にあるでしょう。

まだ開幕前ですし、想像や夢だけで話が出来る時期なのでそれでも良いんじゃないでしょうか。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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