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香港慕情 エピソード1

初香港に便乗

 今回の香港行は、夫の同僚(30代男性・独身・旅行好き)が、この夏初めて香港に行く、という話を聞いたことに端を発する。
 夫の同僚――以下初香港くんとする――とは、たまにご飯をいっしょに食べたり、夫の入院が決まったときに職場関連の手続きでお世話になったり、ひとりで海外に行くときにばったり成田で遭遇してサンドイッチを奢ったり、いわゆる「夫の職場の人」として以上の付き合いがあった。
 初香港くん、過去に乗り継ぎで訪問した上海でお茶屋詐欺に引っかかったこともあり、いいやつなんだけどちょっと抜けているところがあるので心配だなぁ、と余計な気をもんでいたが、夫も同じだったようで。
 前に旅行した時のHKDとオクトパスカード(香港版PASMO的なもの)を貸してあげよう、などと話すうちに「ちょっと一回ご飯食べながら香港の話したいんだが?」と強引にお誘いしたところ「いいっすよー」と快諾していただけたので、職場最寄り駅の行きつけ中華料理屋で会食をしたわけです。
 そこでいろいろ余計なおせっかいを焼いて話すうちに、むくむくと香港熱が高まり、気づいたらその日のうちにANAマイルで香港往復を予約していたのでした。酔った勢いって怖い。そして予約してからパスポートの有効期限を確認するという。まだ2年残ってました。
 取ったどーーー!と高笑いする飲んだくれ妻の横で、夫は淡々とLCCの香港エクスプレスを予約しておった。一緒に行こう、という事すらしない夫婦。初香港くんの旅程と少し重なる日程にして我々も行くからねーとメールすると「別々に行くんですか?」と呆れられました。

久しぶりの旅支度

 最後に海外に行ったのは、2019ー2020の年末年始に成都雅安都江堰を回ったパンダ三昧の旅。明日は帰国、という日の夜に宿のTVで「武漢の海鮮市場でなんとかいうウィルスが」というニュースを見て、帰国後いつもと違うひどい咳と熱の風邪をひいたという笑えないオチがついた。
 その時しまい込んだ旅行鞄から出てきた日記ともつかないメモを見ると、最後の香港行は8年前だった。8年前?一人で?と記憶を手繰ると、夫が小脳出血でリハビリ病院に入院中に退院のめども立ったことだし、と出かけたらしい。(夫に話すと「俺に内緒で!?」と言ったが、そんなはずはない。これだから注意欠陥障害で高次脳機能障害は)
 そうだそうだ、その時に「打小人(だーしうやん)」をしてもらったんだ。


 本来の趣旨とはちょっと違うけど「後遺症」を平穏な生活を邪魔する人、に見立てて「夫の身体から後遺症を追い出してください」と翻訳サイトで作った文章を持参して、お婆さんが一生懸命祓ってくれた。そのおかげで、多少の障害は残ったものの夫は今も仕事を続けているし、一人で海外に行けるくらい元気に過ごしている。
 出来たらお礼参りをしたいなぁ、と考えつつ荷造りをした。

ただいま香港


フルーツミール・この後ハーゲンダッツも来た

 前日に現地スマホ用のSIMのアクティベート申し込みもした。(そういうことは全て夫任せ)現地ではメールで連絡が取れるので大体の時間と待ち合わせ場所の確認をして、夫は前日に成田入りし、早朝に香港着。私は始発から二番目の空港バスに乗り初めて羽田空港第三ターミナルを利用して搭乗する。
 出国手続きは拍子抜けするほど人がいなかった。自動化ゲートをサクサク進み、わざわざパスポートに印を押してもらう(自動化の意味)
 ANAの香港行は日本人より旅行を楽しんだ香港の人々が圧倒的に多く、搭乗ロビーでも最後にこれだけは、とお土産の菓子箱を山積みに購入している人を見かけた。
 国際便ターミナルのロビーにはTVの設置がなく、朝ドラをここで見るはずだったのに…と残念がる(もちろん予約録画してある)。
 機内は満席ではないけどガラガラでもなく、でも隣には人が座っていないのでちょっと気楽、という混み具合。それでも念のためマスクはN95に付け替える。フルーツミールを特注したら何か食事の制限がある人と思われたのか、「普通のおつまみしかないんですが」と、CAさんに申し訳なさそうな顔をされてしまった。いえ、単に重いものを食べたくないだけなんです…アルコールのサービスも復活しているのか!とプレミアムモルツとおつまみをいただきつつ、モニターで「すずめの戸締り」を鑑賞する。
 台湾近くを通過するときに台風の影響で少し揺れたが、特に問題なく追い風のせいか予定よりも20分早く香港に着陸する。
 荷物は機内持ち込みだけなのでサクサクと降り、入国審査もさほど待たずに到着ロビーへ。

オクトパスカードは香港旅行の必須アイテム

 クレジットカードの使える自動販売機でオクトパスを買い(私の分は初香港くんに貸してあるので)、A21のバスで尖沙咀・中間道を目指す。8年ぶりなのにここまでの行動にまったく躊躇がないのは、やはり香港が第二の故郷だからなのかねぇ、と感慨にふけりつつバスを待つ。バスターミナルの入り口で同じ飛行機だった日本人の若い男性グループが「マカオ!えーっと、船で行きたいんだけどシー!シー!」とバス乗り場の案内係の人を困らせていた。マカオに船で行きたいならイミグレ通る前に空港内で分岐があったでしょうよ……君のその手に持っているスマホで調べればわかることだよ……
 台風が近づいてはいるけれど香港は晴れ。東京と体感温度は変わらない。バスに乗車しエアコンの吹き出し口を他所に向ける。香港は屋内や車内のエアコンが大変に低い温度なので、この対策を怠るともれなく体調不良になる。なので手荷物に長袖の羽織ものを必ず入れている。バス内は無料のwifiが使えるので夫に到着の連絡をし、宿泊予定のホステルが入っている「美麗都大厦」(ミラドーマンション)前についたらまた連絡する、と伝える。
 窓から見える風景に、車内モニターに流れる広告に、ああ、香港だなぁ……と感じ入る。雨傘革命の騒乱の跡などどこにもない。変わらない人々の日々の営みがそこにはあった。

合流の前に腹ごしらえ

 バスが彌敦道(ネイザンロード)に入ると途端に街並みが賑やかになる。終点の2つ手前で降り「美麗都大厦」を確認するが待ち合わせの時間にはまだ早い。
 夫は初香港くんと合流して銅鑼湾(コーズウェイベイ)の午砲(ヌーンディガン)を見物し、中環(セントラル)に麺を食べに行くとのこと。

 じゃあこちらも腹ごしらえをしておこうか、と周辺を探すも、香港に数多くの支店がある翠華レストランは看板を残して無くなっている。少し先に銀龍粉麵茶餐廳という聞いたことのない店がある。表に出ているメニューで金額が妥当なことを確認し、階段を下りた。

 お昼時のピークは過ぎていたけれどそこそこ混んでいる店内に安心する。カップルや親子連れや、一人飯の人々が隣り合わせに座るどうということはないローカルな店、だがそれがいい。喫茶店とファミレスと町中華を足してごっちゃにしたような独特の店、それが茶餐廳(ちゃちゃんてぃん)。
 メニューを開きチャーハンを指さして注文する。飲み物は?と聞かれているのはなんとなくわかるので「凍奶茶(どんないちゃー:香港式アイスミルクティー)」と。簡単な食べ物と飲み物の名前くらいだけは発音できるんですよ……食い意地のなせる業ですね。

注文したのは一番上
量は多いけど平らげました

 ほどなくしてプラスチックの食器に盛り付けられたチャーハンとミルクティーが到着する。テーブルの上の引き出しからスプーンを取り出し、一応念のためアルコールウェットティッシュで拭きとってから香港一食目、いっただきまーす。
 パラパラのご飯、骨つきのちょっと食べづらい肉、濃いめの甘辛い醤油味…美味しい…ミルクティーは言うまでもない。この濃さ、最初から問答無用に甘いこれぞ奶茶。どうして日本の飲料会社はこれを商品化しないのか。
 長居をしても咎められそうなほど混んではいないので、店内wifiを利用させてもらいつつ少し時間をつぶす。そろそろ夫もチェックインの為に戻っているようなので腰を上げ、手持ちのHKD(出国前に夫と半分こした)で支払いを済ませた。
 今日のレートだと、多分1200円くらいのランチ……決して安くはないですね……
(まだ合流しないんだ? つづく) 
 
 

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