見出し画像

It’s such a little thing to weep — 泣くのはこんなにも些細なこと

It’s such a little thing to weep —
So short a thing to sigh —
And yet  — by Trades — the size of these
We men and women die!

泣くのはこんなにも些細なこと
ため息はこんなにも短い
しかしその大きさを取り替えながら
私たち、男も女も死んでゆくのだ


一見これといって意味の取れない難解な箇所はありませんが、
リアルな人生のワンシーンを、
洗練された表現で短く切り出して見せたかのようです。

weepがlittleで、sighがshortというのは、なんだかしっくりくるような気がします。
この言葉にこの言葉、という組み合わせ。
ディキンソンの言葉選びのセンスを感じますね。

さて、この詩で問題になるのは三行目の、

— by Trades — the size of these

ここだと思います。

我々男女は涙とため息を交換しながら日々生きている、
と言われると、なるほどとも思いますが、
「その大きさ」を交換するとここでは書かれています。

涙やため息の内容は固有のものなので、
別のものと交換はできないということなのか。

その中身まで理解はできない、
できるのはせいぜい似たようなサイズのものと交換することだけだ。

そんな諦念も滲んでいるようです。

しかし、もしそうだとしても、
この詩はそれほど悲しい、
絶望的なものでもないと僕は思います。

交換は買い物のような、
単なる等価交換の手段になるだけではなく、
交換自体が意味をもって、
何か価値をもたらすことがあるからです。

たとえばそこには、
人と人とのコミュニケーションがあるかもしれない。

こんなものは欲しくない…

と思ったとしても、
もらってみたら意外と使えるかも。

だから私たちは結局、
何を交換しているのかも分からないまま、
やはり日々さまざまな、
交換をやめることなく、
生きていくのだと思います。


『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICKINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?