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三熊野の浦の浜木綿百重なす心は思えど直に逢わぬかも 柿本人麻呂

せめて 会いたいよなんて言わないから
ねえ 今日だけは思い出していいかな

milet「Anytime Anywhere」

葬送のフリーレン。最近みたアニメのことを、僕は思い出していた。
浜木綿は幾重にも重なる葉のうえに、白い花を咲かせる。その姿に同じ髪の色をしたエルフのイメージを、ほとんど無意識のうちに重ね合わせていた。

三熊野の みくまのの
浦の浜木綿 うらのはまゆう
百重なす ももえなす
心は思へど こころはもえど
直に逢わぬかも ただにあわぬかも

三熊野の浦の浜木綿のように
心では幾重にも君を思うけれど
実際に会うことはできないでいるよ

人麻呂のこの歌をただ純粋に聞いただけだったなら、もっと切ない気持ちになったかもしれない。でも、勇者たちの死後も生き続け、新しい旅の途上で何度も思い出が蘇り、そのたびごとに新しく彼らと出会い直すフリーレンの物語をみたあとでは、

直に逢わぬかも

ここに、今は直接会えない人とも、別の形でまた会うことはできるのだという、爽やかで肯定的なニュアンスを感じとることができた。

千年前の人麻呂の歌は、人は大切な人と別れ、それでもなお思うものだという、人間のひとつのあり方を伝えていて、

千年を生きるフリーレンの物語は、そうして会えなくなった人とも、生きていれば、まったく別の形でつながることができるという、人生への深い考察を含んでいて、

どちらも、とても魅力的だ。


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