ここは、どこだ、、、
コーヒーはすでに飲んできた。
ここでは別の飲み物で乾杯をする。
つまり、そう。酒だ。
席は絢爛な◯◯グッズに彩られた壁を見渡せる絶好のロケーション。何も分からないが、とにかくすばらしい。いや、でも人形たちと同じ段で左に傾いているあいつだけは、高校の音楽室で鳴らしたような気が……
そんな会話にも花が咲きはじめたところで、料理が運ばれてきた。
運ばれてはきたがこれはいったい……。
おそるおそるフォークを手に取り、切り崩してみる。
…!!
うまい!!
トウモロコシのほのかな甘さに包まれて、エスニックな香りが弾け飛ぶ。これぞ◯◯料理……
と、知らないくせについ思ってしまう。
これはイタリア風もつ煮込み、のアレに似ているな……
なんだったっけ…マゼッパ?
違う、トリッパだ。
会話は人間関係の込み入った話になってきた。
今日一見るからに旨そうな肉料理が来る。肉の玉座ともいうべきライスは逆に、見た目とは裏腹にカレーではなく、コクの深いバターライスのような味わいだ。つけあわせのジャガイモも……凄い。
それにしても、人間は厄介だ。価値観が違うとすぐに衝突するし、かといってはじめから価値観が合う人を選べばうまくいくかというと、そうでもないらしい。そもそも価値観が合うなんてことは、それほど重要なのだろうか。重要だ、と人は言う。しかし、どうだろう。たとえば両親や、自分の古くからの友達。そういった、ある程度長く続いている具体的な関係に思いを巡らせてみると、価値観の一致がその関係維持の秘訣……ではないことの方が、むしろ確かなように思われてくる。
にも関わらず、やはり人は価値観の一致は重要だと思ってしまうのだ。
そんな世界を、僕たちはどう生きるか……
最後に頼んだ謎のジュースは写真が残っていない。けれど印象が強かったので僕の記憶には残っている。暗い色調やその味からしてプルーンやブドウを想像したが、なんと、黒いトウモロコシを使ったジュースらしい。
友人はさっそく手を動かして、黒トウモロコシが手に入りそうな店を検索していた。どうやら自分で作るつもりのようだ。それを素晴らしいと思い眺めつつ、僕は別に、自分でそういうことはしない。
そんなことに興味はない。
……ないはずだ。
なのにもし、一緒にジュースを作ろうぜと言われたら(たぶん言われないと思うが)、僕は喜んで行くだろう。だから矛盾しているといえば矛盾しているし、価値観が合わないといえば合わない。やはり、よく分からない。
店を出ると、周りのビルが星のように光を灯していた。昼間の熱が過ぎ去った街を撫ぜる、夜の風が心地いい。駅で別れ、僕たちはそれぞれの家路についた。
ちなみにタイトルに掲げた問いの答えは川崎のペルー料理屋で、名前はたしか…リコリスリコイル……では絶対にないが、それによく似た名前だった気がする。ペルー語(スペイン語?)に不慣れなせいで、料理も含め、あらゆる名前を一切記憶できなかったが、その味わいと思い出だけは記憶している。
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