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THE FIRST SLAM DUNK

公開してすぐに見て、あまりにも良くて息子ともう一度見て、1月23日に行われた再上映で1年ぶりの3度目を見た。何度見ても最高だった。

この1年の間にたくさんの人の素敵な感想を目にしてきて、自分の記憶の中で補完してきたもう一度見たかったシーンたちを目におさめようと必死だったけれど、結局いざ見ると何度見ても同じところに目がいって見落としてしまったりした。でもそれすらも噛み締めて楽しむことのできる最高の時間だった。

日付が変わったと同時に購入しなければ売り切れてしまうようなチケットだったこともあって、その劇場にいる全員が結果を知っているであろう試合を固唾を飲んで見守りこの映画で初めて明らかになった宮城リョータの過去に涙しているように感じた。暗闇で携帯を開いたり話し始めたり、そんな人に出会うことが増えて足の遠のきがちだった映画館で久しぶりに心ゆくままに映画を楽しむことができた。そうゆう意味でも特別な時間だった。

長々と語ってしまったけれど、まず私はスラムダンクリアタイ勢だ。子供の頃から家には漫画が全巻あったし、アニメも見ていたし映画も映画館に見に行ったことがある。当時のもっぱらの推しは三井寿と水戸洋平だったので、体育の授業があると大してやる気もないのにビブスだけは14番をつけていた。結婚して実家を出る際は単行本は実家の妹にゆずり、私は新装版(今出ているものより一回り大きいやつ)を新居に持ってきたほどだ。それくらいには元々スラムダンク愛が根付いている。

だからこそ、このタイミングで声優さんが全員変わり作られるというスラムダンクの新たな映画に当初はあまり期待をしていなかった。『ファンとして一応見に行くけどね?』くらいの気持ちだった。

ただどうしてもネタバレを踏みたくない一心で、公開2日目に見に行った。それくらいの軽い気持ちだったのに。
あんまりにも良すぎた。最初からいきなり知らない沖縄の風景。見たこともない少年。『確かに名字宮城だもんね!?沖縄出身だったんかお前!!』と思わず心の中で叫びたくなってしまう。喧嘩っぱやくて切込隊長で花道の良き兄貴分だとずっと思ってきた宮城リョータの、見たことのない弟としての日々。知らなかった中学生の頃の三井との出会い。自暴自棄になって起こした原付事故。山王戦前に書いたお母さんへの手紙。

30年スラムダンクを読んできて今の今までただのメンバーの1人だったはずなのに、この一瞬で宮城リョータのかっこよさに落ちてしまった。

アニメが途中で終わってしまって、いつか続きをやるなら絶対山王戦が見たいと思っていた。まずそれがこのクオリティの映像で見れるのが嬉しい。絶対的王者山王と挑戦者湘北の対照的な登場シーンから最高だ。手書きで続々と描かれるメンバーと曲が相まって、もう最高にドキドキする。山王戦のシーンはよく知っているものなのだけれど、間に挟まるリョータの過去を知ることでそれが全く違うものになる。

リョータの兄ソータはあまりにも良くできた兄だった。背が高くて優しくてバスケが上手い、リョータにとってかっこよくて憧れの大好きなお兄ちゃん。9歳だったリョータの記憶の中のソータはとても大人びている。亡くなった父の代わりに母を支え、ミニバスではキャプテンをして友達に囲まれているソータ。幼いリョータはそんな兄にずっとくっついている。
月バスを読むソータの肩に後ろからポスッと顎を埋め「何読んでるの?」と尋ねるリョータがたまらなく好きだ。その行動はあまりにも弟でソータに何の遠慮もなく甘えることのできるその関係性がよく伝わる。

そんな兄は友達と海に船釣りに行ったまま帰ってこなかった。自分ともっとバスケをする約束を破ったと怒って「もう帰ってくるな!」と喧嘩をしたまま。

ミニバスで同じ背番号7を背負えばどうしても兄と比べられる。兄を知らない土地に行こうと遠く離れた神奈川に来ても、態度が気に食わないと殴られる。団地でドリブル練習をすればうるさいと怒られる。何も上手くいかない。兄のようにはなれない。そんなリョータのジレンマが見ていてとても辛い。何も悪いことはしていないのに。そうして我慢することになれたリョータは平気なふりをするのがどんどん上手くなっていく。本当はどんなに怖くても震える手をポケットに隠してスカした顔をする。

「宮城、リョータっす」
神奈川の中学に転校してきて初めての挨拶。
声変わりもしていない高い声に小学生と間違えられるほど小柄な彼が必死に何でもないふりをするその様が私の心にはズブズブ刺さるのだけれど、同級生たちからはよく思われない。パーマがかった髪(ただの天然パーマ)、片耳開いたピアス、打ち解ける気の感じられない小さな声。不良グループから目をつけられるのは言うまでもない。

そんな折に1人でバスケのコートで練習をしているときに現れる男三井寿。リョータが沖縄出身なのを知った時より驚いたこの出会い。『お前ら、高校より前に出会ってたんか!!』と私の知らない2人の過去に思わず叫びたくなる。
「小学生?」「(中1だよ!)」←心の声
コミュ力お化けで人を惹きつける素質はそのままに、現役中学生MVPのまだ挫折を知らぬ自信に溢れた少年はあまりにもキラキラしている。思わず目を奪うほど綺麗な3Pシュートのフォーム。友達に「みっちゃーん」と呼ばれ帰っていったその男は全然似ていないのにどこかソータを思い出させる。

まさかその4年後にその男にボコボコにされる日が来るなんて。膝を怪我してバスケを諦めテンプレのようにグレた三井の目の光のなさは中2の時と対照的だ。リョータの態度に腹を立てて仲間と共に屋上にリョータ1人を呼び出す卑怯さがいい。さっきも書いたけれど私は生粋の三井好きなのだ。きっと育ちが良くて真面目で明るくて運動神経が良くて恵まれた環境でスクスクと中学生まで育ってきたであろう三井の、頑張ってグレようとしている様がいい。喧嘩慣れしていないから全然強くない。仲間にはどこにいても恵まれる天性の人たらしなので仲間たちは喧嘩に加担してくれる。その情けなさが好き。でも喧嘩の仕方ならリョータの方が知っている。よってかかって殴られようと、徹底的に三井1人をボコボコにする。その頭突きはクリーンヒットして三井の歯は弾け飛ぶ。人数差で結果リョータはやられてしまうけれど、対三井では圧勝だったはずだ。

ボコボコにされたまま屋上に寝転んでいるリョータの上に雪が降って来る。
「ゴミみてぇだな…」

ソータがいなくなってから何もかも上手くいかない。好きだったはずのバスケも、対人関係も、何もかも。自暴自棄になったリョータは原付を走らせる。きっと中古で格安で買ったであろうボロボロの原付はまるでリョータの心そのもののようで危なっかしい。その結果、事故を起こし原付はボロボロ。リョータは奇跡的に怪我こそあれど無事に目を覚ます。

もう死ぬかもと思った時に見えた沖縄。怪我を治したリョータは久しぶりに沖縄に帰郷する。近所のおばあちゃんはリョータを覚えていてくれるし、懐かしい生まれ育った町はそのまま存在している。住んでいた家もそのままで、でもそこには別の、かつての自分たちのような子供達が楽しそうに暮らしている。そしてソータとの思い出の場所、2人だけの秘密基地へと足を向ける。海岸の高台の岩場にあるそこは誰にも気づかれぬまま、ソータがいなくなった8年前のままだった。

ホコリをかぶったバスケットボール。打倒山王とマジックで書かれた月バス。ソータがいつもつけていた赤いリストバンド。ソータがもういなくなってしまったことが身に沁みて、自分の不甲斐なさが悔しくてたまらなくて、リョータは声をあげて泣く。顔をぐしゃぐしゃにして。子供みたいに。私はこのシーンが何度見ても大好きだ。そして何度ももらい泣きしそうになる。17歳なんてまだ子供で本当なら人前で泣いても喚いても甘えてもまだまだいいはずなのに、そんなことの出来ないリョータが好きだ。そんなリョータがようやく泣くことのできる場所がここだったのだ。彼が唯一甘えることのできた兄との思い出の場所。彼がもういないことを否応なしに気づかせる場所。

ようやく踏ん切りがついたリョータは兄の赤いリストバンドを身につける。ソータがいつも見守っていてくれると信じて。

そんな過去を知ってしまってから見る安西先生曰く『宮城くん、ここは君の舞台ですよ』な山王戦は、格段に上がってしまった解像度も相待って元々最高な試合がさらに何倍も見ごたえのあるものになる。

リョータが入ったばかりの頃の湘北はお世辞にも強いチームではなかった。やる気のない3年生。真面目な赤木の叱咤は空回るばかり。リョータは自分ならもっと出来るのに、と試合を見ながらイライラを募らせる。それでも試合には出られないし、3年の先輩からは『お前はすぐやめるだろうな、問題児』なんて言われたりする。内心はムカつきながらも黙っているリョータをよそに赤木はその先輩に言い返してくれる。
「宮城はパスができます」

『お前のプレーはチャラい』と叱られてばかりだった赤木からちゃんと自分のパスが認められていたこと。それがどれだけ嬉しかっただろう。

このシーンがあるからこそ、背中を痛めても無理して最後にコートに戻った花道にリョータがかけた
「待ってたぞ、問題児!」
がめちゃくちゃ胸に響くのだ。かつて問題児だと言われた彼だからこそ何よりもそれが嬉しい言葉だと知っている。それが怪我をして本当は歩くのもつらい花道を奮い立たせる言葉なのをわかっているのだ。赤木や三井には無意識に弟ムーブなリョータが花道にはちゃんと良き兄貴分として接しているのを見るのが私は大好きだ。そしてそれに素直に応えようとする大型犬のような花道も大好き。天性の運動神経と恵まれた体型はもちろんだけれど、この素直さがあんなに短期間でバスケを習得する要因だったのだろうと思う。

同じく天性のバスケセンスの持ち主三井寿。しかし彼には無駄に過ごした2年間のブランクと、そのせいで失われた体力という弱点がある。山王の執拗なマンツーマンのディフェンスに体力はすぐに限界。吐き気を催し腕すらもまともに上がらない。それでも「そんなタマじゃねぇだろ」と流川には言われ「オッケー、パス出すっすよ」とリョータには言われる。三井寿の圧倒的なセンスを湘北メンバーが信頼しているのがたまらなく好きだ。みんなを集めて流川に任せようと声をかけ、そのあと裏を書いてノールックで出したパスを三井が決めるスリーポイントのシーンは何度見ても泣きそうになる。木暮くんの「よく走ったぞ三井!」がいいのだ。同じ気持ちだよ木暮くん!!と毎回心の中で思っている。山王のメンバーはみんな腕も上がらないほどヘロヘロの三井がスリーポイントを決めることに驚くし、三井のスリーがあるという可能性がディフェンスの選択肢を増やしその結果隙が生まれる。三井がいること自体が湘北に何点ものプラスを生む。かっこいい。あまりにも好きがすぎる。それなのに声援を上げるのは女性ファンではなく徳男達の野太い声なのがまたいい。リョータが主役のこの映画においてもやはり三井寿は最高にかっこよかった。

ゴール下には赤木というセンターがいる。ゴールを外しても花道がリバウンドを取ってくれる。リョータがいいパスを出してくれる。どんなに疲れていても三井はスリーポイントを決めてくれる。そして流川は必ず点を決めてくれる。全員がその可能性を信じられるメンバーだからこそ湘北は強いのだ。やっと強いチームになれたのだ。

山王戦に向かう前日、リョータは母カオルに手紙を書く。私が何度見てもこの映画で一番泣くシーンだ。
『生きているのが僕ですみません』と書いてからそれをやめて書き直すその手紙を見るたびに、二児の母でもある私はカオルさんの気持ちを思って辛くなってしまう。夜な夜な子供の頃のソータのビデオを見る母を見かけるたびきっとリョータは兄ではなく自分がいなくなっていた方が…と思って生きてきたのだろう。でも兄を映したそのビデオには幼いリョータもちゃんと映っていて、カオルさんはそんな幼い2人の拙いやり取り全部を懐かしく思っているんだよ!とリョータに伝えたい。リョータのことをきちんと大事に思っているんだよ!って。幼い 子供3人を残して夫が亡くなり、その何年後かに今度は12歳で長男が亡くなって、まだ幼い2人の子供を抱え1人で沖縄から湘南に越してきたカオルさんの気持ちを思うと苦しくてたまらなくなる。誰にも頼れず、でも子供のために頑張るしかない。それなのにリョータはケンカをしてはボロボロで帰ってくるし、バイク事故で死にかけたりする。リョータまで死ぬかもと思ったあの病室で、きっとカオルさんは『何で私ばっかり…』と自分の人生を呪ったと思うのだ。自分の選択がいけなかったのかと人生を悲観したはずなのだ。だからそんなリョータが自分を母上なんてかしこまった呼び名で綴った手紙で『バスケを続けさせてくれてありがとう。ソーちゃんが立つはずだった舞台に僕が立つことになりました。』なんて書いてくれたら、もうそれだけで今までの辛かった日々なんて吹き飛ぶくらい嬉しいはずだ。自分が無理をしてでも続けさせてあげたかったバスケが、兄と比べられることで嫌な思いをさせてしまうと思ったバスケが、彼の人生の全てだったと言えるほど大切なものになったことがどれだけ嬉しかっただろう。カオルさんほどの大変な思いはしていないけれど、同じ母としてその気持ちを思うと涙せずにはいられない。
私が子供の頃から数えきれないほど読んできたあの有名な試合の前日にこんなことがあったなんて!こんな気持ちを抱えてリョータが試合に臨んでいたなんて!当時は知る由もなかったそんな事実を知ってしまった今は、もうリョータの気持ちを思うだけで感動してしまう脳になってしまった。

そんなリョータに容赦なく襲いかかる王者山王の猛者達。自分より遥かに大きい彼らのディフェンスに
「ドリブルはチビの生きる道なんだよ!」
と立ち向かうリョータのセリフが大好きだ。ソータのように大きくはなれず、対戦する周りの奴らももれなく自分よりも大きい。そんなリョータが神奈川代表のガードとして王者山王のディフェンスを出し抜くあの瞬間が最高にかっこいいのだ。

そして最後の最後、あの流川が出したパスに花道が練習しまくったあのシュートが決まって勝負は決する。かの有名な2人のハイタッチ。かつてあのシーンのカラーページが読みたいがために新装版をわざわざ買ったくらいだ。そんな2人にピョーンっとジャンプして一番に飛びついてくるリョータがたまらない。きっと会場の片隅でこっそり試合を見ていたカオルさんも、リョータがこんなにチームに恵まれて仲間に恵まれているのを見れて幸せだったと思う。私ならそれだけで泣いてしまうかもしれない。

好きなシーンがありすぎてめちゃめちゃ長くなってしまった。本当はまだまだ書きたいことがあるのだけれど、リョータについて以外は一旦やめておく。三井についても書ききれないくらいの感情があるのだけれど、今回の主役はあくまでリョータなので。あえて言うなら、シュートを決めたあと怪我をした方の膝にキスする三井をぜひ見てほしい。リョータから手を引かれ起こしてもらった拍子に胸同士でポンっとぶつかり合うまでの一連のシーンは小さくしか映らないけれど、映画を見るたびに必ず見ようと意気込む大好きなシーンである。

沢北はもちろんのこと、流川とかもしかしたら花道なんかももしかしたらアメリカに行くのかな?とは思っていたけど、まさかのリョータがアメリカに行くのには驚いた。一回り大きくなった体にすこし灼けた肌。相変わらず試合前は吐き気を催すぐらい本当は緊張しいな彼が、日本よりもさらに大きな奴らに囲まれてガードとして活躍している姿はきっと最高にかっこいいはず。そんな彼のお守りがかつての兄のリストバンドから、苦しくなったら手のひらを見ることに変わっていたらいいなとこっそり思うのだ。

そして長々とこれを書いている間にブルーレイが届いてしまった。どうしよう。自宅でもあのドキドキと感動を味わえてしまう。しかも今日は花道の誕生日。おめでとう花道。やっと16歳になるなんて信じられないな、と毎年思っている気がする。

無駄なシーンなんて一つもないくらいすべてが良すぎるのでぜひみなさんに見てほしい。
スラムダンクを知らない人にはもちろん、スラムダンクが大好きすぎて新しい作品に躊躇している人にも声を大にしてオススメしたい。それでも昔の方がいい!と思うのだってもちろん全然いい。去年1年見た映画で私的ダントツの1位のこの作品の良さが少しでも伝わるといいなと思う。


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