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冬の鱗粉

冬が世界を白く凝固させている。

灰色に分厚く塗り固められた空に、刺すように吹く風も、靴底から冷気を伝えてくるアスファルトまで、何もかもが、白く澄んだまま、凍結していた。

凍り付いたそれらは、紋白蝶の大群を従えて僕の視界を占領し、僕の脚に冬を纏った蝶がまとわりついた。

早く向かわねばならない場所があるのに、如何にも足がもつれ、痺れる。
右膝に蝶が触れる、左のふくらはぎに蝶が触れる。

はぜるように舞う鱗粉と青紫のまだらに変色する皮膚。
凝固した空気の中で、鱗粉は、少し舞っては、空気に飲まれ、その場で固まり動かない。

街路樹が葉を落とし、頼りなさげな枝を晒して、そのまま冬に溶けている、凍ったまま、景色は動かない。

暗色の雲と冷たい樹々、大きな亀裂の入ったコンクリートの外壁、冷え切ったアスファルト、冬の重たい色彩を纏ったショーウィンドウのマネキン。

それぞれに蝶がびっしりと纏わり付いている。

向かわねばらなかったはずの場所へ、確かに歩んでいたはずが、一歩、また一歩と踏み出すたびに、向かうべき場所が失われていくのが、ぼんやりとわかった。
今が、失われていくのがわかった。

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