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短編集

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短編集まとめ
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#小説

不正解の討論

午前3時の月明かり。 満月の光は、昼間の太陽よりはるかに明るかった。視界の端に、極楽鳥の…

m.
3年前
10

冬虫夏草

もう長いこと結晶化したままの心臓から、ある日小さな新緑が芽吹いた。 別段気になる程の変化…

m.
3年前
6

幽霊

何度か、浅い呼吸を繰り返し、その後に深呼吸に近い、深い呼吸を何度か繰り返した。 空気は僕…

m.
3年前
8

路上、猫は肉塊になる

とても良い夜。 濃霧で空気もアスファルトもじっとりと湿っていて、お陰で車の周りは外の何も…

m.
3年前
6

最良のさようなら

さようならを完璧に作り上げるためだけに、関係性を継続していた。 今の今までが、最良の、最…

m.
3年前
5

幾千幾万の嘘が、時間という骨組みの中で膨張して「世の中」とかいうものが出来上がっているわ…

m.
5年前
12

逃避

確かに所有していた四肢が いつしか鉛にすり替わって 重く軋んで動かない。 脳から垂れた憂鬱の尾びれ、 目の覚めるようなどろどろの群青。 瞼の裏から呼気に逃げ込み きっと二度と出会えない。 昨夜芽吹いた眼球と、 一昨日羽化した心臓と、 ほんの少しの肉片を連れて、 コンクリートのヒビに隠れる。 ルージュと煙の乾いた匂いで 愛しい肺は干からびた。 時計の秒針歪んでいるから、 今以上を構築しても もうあの赤には会えないな。 #小説 #詩

夾竹桃

先生、もうずっと視界が藍色なんです、先生。 あ、いや、灰色じゃないんです、あの清々しいよ…

m.
5年前
20

彼が彼女を見ていた。 彼女は彼を見ていた。 彼は、彼の目から見た彼女が、確かにそこに在る…

m.
5年前
10

白昼夢の詳細

近頃、遂に気がおかしくなったのか 白昼夢を見るようになった。 つい先刻は、自室の戸を開け…

m.
5年前
7

ケロイド

子うさぎがその小さな爪の中で歯車を飼うように、僕はケロイドの中で黄金虫を飼っている。 …

m.
5年前
10

白昼夢の詳細と日記

今日こそくたばるぞと思いながら起床する。 床に溶け込みそうな身体を引き摺って 青い錠剤と数…

m.
5年前
15

結露

もう初夏の陽気だというのに、頭の先からつま先まで氷の如く冷えている。先刻、彼女の体温に触…

m.
5年前
7

妙に白く澄んだ色、作り込まれたように完璧な形で、浮かび上がる筋。 初めて彼女を視界に捉えた瞬間に、その首を締めたいと思った。 別に彼女の生き死にをどうこうしたい訳ではなかった。 ただ、その白い肌に僕の爪を食い込ませて、そうしてできる薄紅の模様が見たかった。細く危ういバランスで頭部をささえるそれを、一瞬僕の手の内に入れたかった。 その欲はあまりにも強く僕の中で蠢いて、何度か、彼女のそれを締め上げる夢を見るほどだった。 僕が初めてその欲望に取り憑かれた日から、何