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呪文やめろ

「一時期、うちの家に幽霊がいたのよ」

学生の頃、桐谷さんの借りていたアパートの部屋の隅に“いた”のだという。
特にきっかけは思い出せないが、家に帰ったら“いた”そうである。

「女の子がぽつーんと立ってたのよ。え?不審者?って後退りしたら目の前で“ぽん”と消えたの。見間違いかと思ったけど、たまにそれから“いる”のが見えたのね」

その女の子は10代後半くらいに見える、ギャルギャルしい女の子だった。
ジーンズ生地の短パンにゆるいTシャツ、くるくるの茶髪という容姿だそうである。

「その子、顔を合わせたら毎回のように呪文を喋るの。ほにゃららっらら……ららららーん、ほにゃらりららーらりららー……みたいな。全然聞き取れないし何言ってるかわかんないのね」

“ほにゃにゃにゃーほにゃらりらーんにゃにゃにゃほにゃー”

全く何を言ってるのかわからない。

「って言う話を、お母さんにしたら来てくれたのよね」

1度目の訪問では彼女は現れなかった。
2度目、3度目もいなかった。

「で、何回目かでやっと“いた”のよ。お母さんも見たの。そんで、やっぱ呪文を喋ったのね」

“んにゃーんにゃららーほにゃほにゃふにゃややー”

桐谷さんには全く聞き取れない。
意味もわからない。
意図もわからない。

「ね?ギャルいるでしょ?」
そういいながら母を見ると、見たこともないような怖い顔でその女の子を凝視していた。

「うぢんめらすてだすきゃぁたらじごくさたたぐおどすてける!!」

母が突如呪文で怒鳴り返した。
びっくりする桐谷さんの目の前で、ギャルがパッと消えた。

「母から“あんたね、津軽弁でずっと殺してやる死ね死ね死ね死ね連れて行く連れて行く寂しい寂しい一緒に行こうさみしい寂しいって言われてたんだよ。わかんなかったの?!”って言われて初めて「えっ!?」って思ったんだけど。でも私、津軽弁わかんないし、お母さんが怒鳴った内容もわかってないし、あの女の子は以降はもう見てないし、この体験全然怖くなかったのよね」

桐谷さん、青森生まれ、そこそこ都会育ち。
ガチの津軽弁にはあんまり馴染みがない。

話しかけてくるならせめて標準語がよかったな、何かモヤモヤするんだよね……とボヤいた桐谷さんは現在もそのアパートに住んでいる。

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