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9月の読書日記

今月も読んだ本を紹介していく。
本屋大賞作品を中心に以前から読みたかった作品を加えて計10冊ほどを読了。

本屋大賞の本

かがみの孤城/辻村深月

2018年大賞作品。
不思議なお城に集められた少年少女達と狼のお面を被った”オオカミ様”の物語。
気づいたら読み終えていた、という爽快感があって作品全体のテンポの良さが際立っていた印象。
いくつもの謎と同じくらいに散りばめられたヒントやミスリードが程よく推理を促し、ああでもないこうでもない、と読む手を休ませてくれない。
かと思えば不登校の主人公「こころちゃん」の心理描写に昔の自分を重ねてしまったり「自分のことは軽んじていいと思っているんだろう」という強烈なセリフに考えさせられる。
謎やギミックに興味を惹かれるが、物語の中心は間違いなく「青春群像劇」であり、主人公の成長物語だ。
人が人であるために必要なものが沢山詰まっているように感じたけれど、それが押し付けがましくないのが心地よかった。

ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーウェンズ

2021年翻訳小説部門1位作品。
ミステリだけに収まらない深さと広がりを感じた作品だった。
二つの時系列が交互に進んでいく構成にまず引き込まれた。
一方で謎が深まり、もう一方では豊かな自然と人間模様が重なるように描かれる。
人間も自然の一部なのだと当たり前のことを思い出させられ、ラストシーンに驚きはあったが、何故かそれが当然のことのように感じられる、少し不思議な一冊だった。

赤と青とエスキース/青山美智子

2022年ノミネート作品。(2位)
もしも知り合いに「おすすめの本ある?」と聞かれたら、今後は真っ先に紹介することになる本になると思う。
短編形式で進んでいく物語、平易な文体、素敵なプロット。
読みやすい文章だから引き込まれるのか、引き込まれる物語だから読めてしまうのか。
エピローグまで読み終わったときの穏やかな驚きとじんわりとした感動を味わって欲しいなぁと思う一冊だった。

汝、星のごとく/凪良ゆう

2023年大賞作品。
物語の骨子は2000年代のケータイ小説のようなラブストーリー。
しかしその内容は稚拙とは程遠いほどに鮮やかな人間模様を描写しており、取り扱う話題は現代的だと感じた。
読み進めていくうちに見えてくる「自分を縛る鎖を自分で選ぶ」という本書のメッセージ。
少なくとも現時点では誰にでも出来るものではない「現実的な自由」が痛々しく浮き彫りにされている作品だ。
作中で夕星(ゆうつづ)という名が用いられ繰り返し描写される金星は、同じものが見え方一つで変わってしまうことの比喩なのだろうか。
主軸は二人の登場人物の視点を行き来する恋愛小説なので読みやすく、しかし読む人によって感想が変わるタイプの物語だと感じた。
大賞を受賞するのも納得の一冊だった。

ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒

2023年ノミネート作品。(2位)
第69回青少年読書感想文全国コンクール・高等学校の部の課題図書にもなっていたりする。
最優秀賞受賞者の感想文には舌を巻いた。
決して本書の表現は直接的ではなかったのに、10代の少年少女がこの深さで読むのかと、過去の自分がいかに思慮に乏しい人間であったか、そして今もそうかもしれないな、と、劣等感を刺激された。
(該当感想文全文はこちらから読むことが出来ます。)
さて、私の感想は「生きること」について書かれた本だと強く感じた。
ゴミ箱すらない生活をしていた男がどうしてゴミ箱を買ったのか。
そして何故この物語のような行動に至ったのか。
所詮誰もが何かの仮面を付けて生きている。
生きるとはそういうことなのかもしれない。
その「そういうこと」が淡々と描かれているのが印象的な一冊だった。

…高校生の感想文の方が立派に見えてしまう。

君のクイズ/小川哲

2023年ノミネート作品。(6位)
ここ最近読んだ本の中でダントツに合わなかった一冊。
クイズに絡めたトピックが随所に散りばめられた文章。
語られる僕や君のエピソードの数々。
クイズ中に行われた駆け引き。
最後に明かされる真実。
何故かどれをとっても冗長に感じて面白いとは思えなかった。
単に自分が斜に構えてるから楽しめないのだろうか。
結構雑食的にいろんな書籍を楽しめていたつもりだったのでなんだかショックを受けた、残念な気持ちになってしまった一冊だった。

川のほとりに立つ者は/寺地はるな

2023年ノミネート作品。(9位)
最後数ページが印象に残っている。
ハッピーエンドで終わらせたくない感じが個人的にはとても好印象だった。
現実はそんなにいつも上手くいかないし、やるせない。
けど悪いことばかりでもない。
そんな生の感触をそのままに書いているような感じだった。
人によってはすっきりしない感じが残るかもしれないけど、と思いつつ、でもこの本を大切にする人も多いだろうなとも思った。

前から読みたかった本

おいしいごはんが食べられますように/高瀬隼子

第167回芥川賞受賞作品。
どこかで目にした「コンビニ人間の古倉さんを”見てる側”の物語」というレビューがこの作品を知るきっかけだったのだが、言い得て妙だなと思った。全体的に粘着質な感じが漂う作品だったけど「じゃあ芦川さんは加害者なのか?」という疑問を繰り返し突き付けられているような気分になったし、どんな人にも苦しみがあるんだなと感じた。
押尾視点で読むとそんな感じになるし、二谷は二谷で芦川との関係に共依存的なものを感じていて、無自覚に自分を痛めつけているようにも感じた。
人間の多面性というか、なんというか。

Self-Reference ENGINE/円城塔

『屍者の帝国』で知った作家さん。
今作は物語であると同時にある一つの概念の色んな角度からの見え方を記述した何か、のような印象を受けた。
読みにくい、分からない、というのが素直な感想で、ちょっと人に勧めにくい感じはある。
でも作者の人に実際に会ってみたら案外ロマンチストだったりするんじゃないかな、とかそんなことを考えたりもした。

りんごという言葉がない日本語でりんごを表現しようとしたらきっと均一な表現にはならないだろうな、という想像をしてもらいたいのだけど、そういう雰囲気のことが書かれているのだな、と僕は理解した。
理解した上で、それが何かを考えるには僕の頭はあまりに小さすぎたので結局休み休みでしか読了できなかったし本当のところは何も分からなかったような気もする。

ただ、ブーツのストラップを自分で引っ張って空を飛ぶ寓話が現実の問題としてはあっけない解決がなされたように、この物語にもいつか意味が付けられてそして現実的な解決を見たりすることもあるんじゃないかとか、そういう妄想をするのが人間なんだろうな、と、ありきたりなことを思ったりした。

息吹/テッド・チャン

衝撃的だった『あなたの人生の物語』でテッド・チャンを知って今作にもチャレンジ。
表題の「息吹」では、人間とは祈る存在であると主張されているように感じた。
それは今現在人間とされている人達もそうだし、これから人間になるかもしれない存在に向けられた物語のようにも感じた。

直前にSelf-Reference ENGINEを読んでいてだいぶ頭を捻っていたので読書筋の筋肉痛を起こしたのでソフトウェアオブジェクトのライフサイクルまでを読んで離脱。
決定論的な世界観に加えて、人間以外の人間的な生命体が現実的に存在する世界の描写が面白い作品達だった。

今月は比較的忙しくなりそうでペースが落ちそう。
村上春樹なんかも読んでみたいしどうなることやら。
続けよう。

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