新学期 一瞬だけ

……同じクラスの福丸小糸ちゃんは、小動物みたい。

私たちの代の新入生代表で、入学式のときに壇上に呼ばれていた。「頭いいんだなー、すごいなー」って、その時はその位しか思わなかったけど、福丸小糸ちゃんがかわいい声で定型文の代表挨拶を読み上げている時間だけは、なんとなくちゃんと聞いていた。福丸、小糸。覚えやすい名前。同い年なのに小さくて、頭が多分よくて、そんで声が高い。ぴぇ。

運がいいのか悪いのか、私と福丸小糸ちゃんは同じクラスだった。出席番号が前後で、あの子よりは絶対に背が高い私はしばらく彼女の前の席に座ることになった。黒板が見えにくいんじゃないかなとか、そんなことばっかり思っていた。プリントを渡す時に後ろを向くと、彼女は控えめな声で毎回お礼を言ってくれていた。
「ねぇ」
昼休みに話しかけたのは私からだ。後ろを向いて、こそこそと話しかける。
「ぴぇ……!な、なぁに?」
「次の授業当てられそうなんだけどさ」
「あ……そうだね!高橋先生、いっぱい当ててくるもんね……!」
「そー、あのさ……ここ、教えてくれないかなって……わかんなくて。答えられないと面倒そうじゃん?」
教科書を取り出し、当てられそうだなと目をつけた場所を指さす。
「もちろん、いいよ……!ここはね、えっと……」
小動物。うさぎ、ハムスター?リス……みたいな?流石新入生代表、教えてもらった通りに当てはめるだけで、うんうん唸ってた時間が馬鹿みたいだった。
「え、凄い!ありがとー福丸さん」
チラッと見えた福丸さんのノートはかわいい丸字で埋まっていて、可愛い子は字も可愛いんだなーと思う。
「英語の高橋、面倒じゃない?」
「そ、そうかな……わたしは結構、嫌いじゃないよ!」
「そっか〜……福丸さんって、」
続けようとした言葉は、遠慮なく開けられたドアの音で遮られた。
「あ、いた〜!小糸ちゃーん、透先輩のとこ行こー!お昼食べる時間なくなっちゃうよー」
「わっ、雛菜ちゃん……!今行くね!」
雛菜ちゃん。誰だろう、と思って私もドアの方に目を向ける。結構背が高い女の子。謎の熊がついた薄い黄色のカーディガン。緩いパーマがかかった茶髪。
「ごめんね、中途半端になっちゃったね……」
「え、全然いーよ!助かった〜、ありがとう」
ぱたぱたとお弁当らしき鞄を持って福丸さんが教室から出ていく。高校一年生特有の、まだグループが定まっていない雰囲気から抜け出して。私もお昼を食べようとした時、通路を挟んで隣に座っていた子が話しかけてきてくれた。たすかる〜……
「よかったら……一緒に、お昼食べない?」
「いいの?うん、是非!(笑)」
「もち!こっちくる?机狭いけど」
「椅子借りちゃお、ここ誰の席だっけ」
「えーっと、ね……わかんない、ね、さっき!福丸さんと何話してたの?」
「英語嫌すぎて教えて貰ってたー、しょーみダルい」
「高橋せんせーなー、いちいち当ててくんなって感じはある」

モソモソとお弁当を食べ始めると、短い昼休みは結構すぐに終わってしまう。福丸さんが帰ってきたのは予鈴が鳴った頃で、例の透先輩や雛菜ちゃんとは相当仲がいいんだろうなぁと思う。

福丸さんと話したのはそれきりだ。雛菜ちゃん、は昼休みに教室に来たり来なかったり。でも福丸さんが昼休みになると教室の外に行くのは変わらなかった。1度くらい一緒にお昼を食べてみたかったけど、そんな機会は来ないまま、教室のグループが定まっていく。だいたいは最初に近くの席に座ったとか、お昼食べたとか、そんなん。ていうか雛菜ちゃんって誰?

ダラダラと過ごしているうちに、福丸さんをテレビで見た。え、なんで?彼女は水色の衣装を着て、目に見えて緊張していた。新入生代表の挨拶なんかよりずっと。カメラは福丸さんではなく、あの日雛菜ちゃん、が言っていた透先輩をずっと追っていた。あんな綺麗な先輩がうちの学校にいるのは知らなかったけど、彼女たちは幼なじみだそうだ。「友達の絆、見せてもらいましょー」とMCは言って、ライブが始まる。
「歌ってなくね?透先輩……違う歌じゃん、童謡じゃん!これ」
カメラが焦っているのがわかる。雛菜ちゃん、を映し違う(多分先輩)を映し、結局福丸さんにカメラは寄った。
画面越しに見る福丸さんは、似ている別人みたいだ。
「えー……アイドル?283プロ……?知らなかった……いや当たり前だけど……アンティーカと同じ事務所じゃん」
明日、学校に行ったらきっと、あの時話した福丸さんはいないのかもしれない。
いつかライブに行こう。小糸ちゃんって呼ぶために。






シャニマスさいこ〜!


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