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タランティーノを観よう〜! 中江大珠(東高円寺・たまりBAR店長) 『暇』2024年5月号

 こんにちは、大珠と申します。いきなり本誌にて執筆させていただく運びとなった経緯について簡単に説明しますと、かの有名な『山賊ふみまろ』の友人という役割を小中高と務めさせていただいていたからでございます。私事ですが2023年の9月から東高円寺にて『たまりBar』という店の店長を任されており、店に山賊が何回か押しかけてくれたこともあり杉本さんと繋がった次第です。かなり酔っ払っている時、生意気にもタランティーノについてベラベラと語っておりましたら杉本さんから「Youさ、書いちゃいなよ」的なイキフンで今こうして筆を取らせていただいている訳です。

 本題に入りますが、人生観を変えるような映画に出会った事はありますでしょうか? 僕は偉そうに尋ねましたが、一本もないのです。文学も芸術も映画も、あくまでも一種の興奮剤や安定剤のようなもので、その者の人生観や価値観を書き換えてしまう程の力は無いと考えております。実際、中学生の頃あまりにも無気力だった僕を見かねた父親が、矢沢永吉の『成りあがり』と言う自伝を読ませてきました。読み物として面白かったし、確かに頑張ろうといった漠然としたやる気が一瞬だけ生まれましたが、残念ながら今でも僕は無気力な訳です。ただ、今よりもかなり無気力だった中高生の時分にどっぷりとハマったもの、それがタランティーノ作品です。初めて観た『パルプ・フィクション』、これを観たおかげで人生を揺るがす程の衝撃はなかったものの謎の感動がありました。今でも謎なので、頭を整理しながらその魅力を書き綴っていこうと思います。

大タランティーノ(2015年7月、撮影: Gage Skidmore)

 先述した『パルプ・フィクション』について、こちらは公開年が1994年と今から約30年前の作品なのですが現代の若者が観ても古臭くないスタイリッシュな作品となっています。冒頭のボニー&クライド気取りのバカな強盗カップルがダイナーを襲うシーンから、3本の独立した短編の物語が時系列バラバラで展開され、エピローグで冒頭のシーンと繋がる。所謂、普通のオムニバス形式の作品とは一線を画したスタイルが大当たりしカンヌでパルムドールを受賞……って、「そんな事は大体の人間が知っとるわ‼ この作品の良さはな、斬新なストーリー展開の仕方とかそんなんじゃない、雰囲気を楽しむ映画なんですわ!」と、そんなことを言ったらファンにどつき回された挙句、掲示板にこの文章と僕の悪質なコラ画像を貼り付けられて嘲笑されそうですが、僕は声を大にして言いたい、雰囲気映画だと。二日酔いで頭が回らない日曜の午後に、ビールかコーラを飲みながら馬鹿でかいハンバーガーを頬張りつつ鑑賞していただきたい。この作品に登場するバカな強盗カップル、間抜けなギャングの殺し屋コンビ、美人だけどかなり残念なギャングのボスの妻、持ちかけられた八百長試合を反故にして大金を手にする落ち目のボクサー、ひょんな事からギャングのボスのケツの穴を犯してしまう残念なハードゲイ集団……と、説明するだけで目眩がしそうなほどキャラの濃いバカなアウトロー達が絶妙に関わって織りなす物語、これをボーッと眺めてるだけで心が安らぐのです。つまり、この映画は安定剤なのです。まだまだ青かった思春期の頃の僕が、タバコの味を覚える前に経験してしまった快楽な訳です。でも、タバコを初めて吸った時から好きになる人はいないじゃないですか? そうなんです、何度もカッコつけて吸うから中毒になってしまう。全作品で現在9本の監督作品が出ており、次の10本目で監督業を引退すると公言しています。他にも魅力的な作品をピックアップしましょう。
 かなり迷ったのですが『デス・プルーフinグラインドハウス』はおすすめしたい作品となっています。愛すべきおバカ映画の巨匠ロバート・ロドリゲス等のエログロスプラッターの重鎮達とタッグを組んで作られた本作は、エクスプロイテーション映画やB級映画等を2〜3本立てで上映していた「グラインドハウス」を意識して作られており、70〜80年代の作品をオマージュしています。実際、アメリカではロドリゲス監督の『プラネット・テラー』と2本立てで同時上映されました。主演は『遊星からの物体X』などでお馴染みのカート・ラッセルが若い女をつけ狙うイカれたシリアルキラーを見事に怪演、このジジイがとにかく面白い。スタントマン・マイクと名乗る男は酒場や道端で女をナンパしては、耐死仕様が施されたスタントカー(運転席のみ保護されており、助手席に座ってる女の子は100%死ぬ)に乗せてわざとクラッシュさせるという常軌を逸した殺害方法で次々と女の子達を葬ります。物語前半は呆れて笑えちゃうほど血と肉が飛び散りますのでご注意ください。そして後半からは旅行中の現役スタントマンの女の子達を狙うのですが……是非続きはご自身の目で確かめてください。激しいカーチェイスもエロもグロも全てが満点です。あと酒場で出てくるお酒やナチョスなどの料理もめちゃくちゃ美味しそうで食べたくなります(笑)
 最後に紹介するのは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』、これもかなり狂ってます。厳密に言うと監督は前段でも名が挙がったロバート・ロドリゲス、制作総指揮と脚本と出演でタランティーノが参加しています。まだまだ若手の頃のジョージ・クルーニーとタランティーノが凶悪強盗犯の兄弟を演じまして、国境を超えてメキシコに入るためにキャンピングカーで旅行中の家族を人質にして逃亡するという話になっております。ちなみにこれ以上説明しちゃうと作品の良さが急になくなっちゃうのでやめます、とりあえず観てください。どんな生き方をしたらこんな物語が思いつくんだろうな……。
以上で3本のご紹介となりましたが、映画好きの方々は既に鑑賞済みかもしれませんね。是非、まだ観てない方は急いで観てください。各サブスクでも配信が増えてきましたので……。
さて、2025年は引退作となる10作目「The Movie Critic」が公開予定です。それまでにみなさん予習復習がてらタランティーノ作品を楽しみましょう!レッツ・タラちゃん!

中江大珠(なかえ・たいじゅ) 1998年8月27日、東京都新宿生まれ新宿育ち。小中学生時代を山賊ふみまろと共に刺激的な毎日を過ごす。高校卒業後は現場監督や飲食業など職を転々とし、現在は『東高円寺「たまりBAR」(杉並区高円寺南1・22・18)で店長を務める。雇われ店長ながらも「ボクシングと競艇を楽しむ」という店のコンセプトを完全に無視し、好き勝手に働いている。

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