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やはり厚木にはすべてがある「久喜ようたとやはり厚木をやる旅」『暇』2023年7月号

久喜ようた(本厚木駅南口)

「暇をやるにはエリアの選択がいる」。そこで厚木だ。相模川を挟んで東は湘南文化圏、海老名から本厚木へひとたび小田急で相模川を西に超えれば宇宙がある。厚木には山がある、温泉がある、猿もいる、土地はいくらでもある。おのずから隙間もいくらでもある。やはり厚木にはすべてがある——

『暇』5月号 暇人家族論「暇・隙間・やはり厚木にはすべてがある」の意味」

指の先には「ニュー本厚木」

ここ数年、首都圏住みたい街ランキング1位に急浮上してきた本厚木。2010年代はパルコをはじめとして駅前商業施設の相次ぐ撤退を経て衰退が意識されはじめていた厚木。だが何かが変わり始めた。厚木市政発足70周年を前にして何が変わったのか。あるいは何も変わっていないのか。まずは厚木をやってみる。これまで死角となっていた「ニュー本厚木」のリアルと幻を久喜ようたと検証するやはり厚木をやる旅。(TEXT:杉本健太郎『暇』発行人)

新宿発「こね27号」で43分

4月30日正午。久喜が新宿駅西口喫煙所に現れた。まずは久喜から久喜作による「意味の手前・ニュー本厚木」ホテルキーを受け取り、12時20分新宿発はこね27号の3号車に乗り込む。

久喜はずっと「こね27号!」「こね27号!」と連呼していた。文節の罠で新宿発「はこね」27号を「新宿発は、『こね27号』」と思い込んでいた。新百合ヶ丘を過ぎるあたりまで、いま乗っている車両は「こね27号」なのだと信じて疑わず「こね27号!」「こね27号!」と連呼しながらずっと鼻唄を歌っていた。12時40分、新百合ヶ丘を過ぎ、12時53分相模大野通過、海老名と厚木の境界線・相模川を通り抜ける。相模川を越えれば指の先にはニュー本厚木。ずっとへらへらしていた久喜の表情も一転緊張の面持ちだ。そして13時5分、本厚木駅に降り立つ。

バスセンター上の「遅い時間」

本厚木駅を降りたらまずは「バスセンター上」にのぼる。バスセンター上とは、1984年に多数化しすぎた神奈中バスの路線網の集約整備のために建設された厚木バスセンターの屋根部分を公園として整備したもの。広さ2500平方メートルの空中地盤広場だ。「厚木サンパーク」の名称で厚木市の公園緑地課が管理しているが厚木市民にとっては「バスセンター上」と言ったほうが通りがいい。バスセンター上にはベンチがある。まずは一回座るしかない。目の前にでかい鳩がいる。隣のベンチにはおじいさんが座っている。タブレット端末を持った男がひたすらぐるぐるぐるぐる円を描くように歩き回っている。隣のベンチのおじいさんはかばんを置いたままイオンへ。さらにでかい鳩がいる。タブレット端末を持った男はさらにぐるぐるぐるぐる歩き回っている。つまり、厚木にあるのは「間と沈黙」に満ち満ちた「遅い時間」だ。一度ベンチに座ってしまうと容易には立ち上がれない。だが「やはり厚木をやる旅」はまだ始まったばかりだ。

バスセンター上のベンチに一度座るともう二度と
立ち上がれなくなるぐらいに「すわり」がよい

次はバスセンター上からバスセンター裏に移動。バスセンター裏では、営業しているのか?休みなのか?外みからはまったくわからないけれども実はちゃんとやっているラーメン店「ラーメン相楽」に入ってみるかと思いながらも入らずにただ外観だけを見て二礼二拝一礼して立ち去り、本厚木駅北口・かん助前を通り抜け、中町4丁目・山中屋ビルの趣きをただただ眺める。そして今回の旅の主要目的地である中町2丁目・昌栄プラザへ向かった。

昌栄プラザ前ライブドローイング

昌栄プラザとは6月以降『暇』紙の発行拠点となる中町2丁目のダイニングバー「中ちょう倶楽部」横の築41年のビル。その1階軒下で久喜のライブドローイングが始まった。

「30分で描く!」と宣言し描き始めると15分ほどして犬をつれた初老の男性が通りかかった。しばらくニコニコしながら様子を見ていたがただ何も言わずに通り過ぎていった。やはり間と沈黙から意味以前の時間が流れる。そして描き上げた絵を携え、次なる目的地、本厚木駅南口へ向かった。

#だじゅん(2023年4月30日、本厚木駅南口前)

現在、厚木の音楽シーンに一石を投じようとしているのが#だじゅんだ。本厚木駅前路上を起点に活動を開始し、8月26日にはバスセンター上で前代未聞の郊外夏フェスとして#だじゅんフェスを企画主催する。#だじゅんはこの日も厚木にいた。北口にいるのかと思えば南口にいた。本来だったら海老名ビナウォークでのイベントに出演予定だったが雨で中止「夕方から厚木で路上をやる」とはやしだから連絡を受け、17時ごろ北口に向かうと奴らは南口にいた。南口で約1時間の路上ライブをへて第2幕としてバスセンター横へ移動する。バスセンター上から始まりバスセンター裏を経て、やはり厚木をやる旅の最終地点は「バスセンター横」。「バスセンター横」にはやはり一度座ると立ち上がることができなくなるベンチがある。バスセンター上のベンチから始まりバスセンター横のベンチで#だじゅんを見て終わる「久喜ようたとやはり厚木をやる旅」。最後は中町4丁目のフィリピン料理店A−RAYで久喜はロンガニーサをおかわりして再び小田急に乗り新宿へ。10時間厚木を歩き回る間に久喜は昌栄プラザ前でおろしたての煙草ケースを紛失した。帰りの新宿駅構内での「厚木をやり疲れた!」の一言がこの日の久喜の最後の言葉であった。

すべてがあるのにすべてをなくした昌栄プラザ前でライブドローイング。その土地に根付くにはその土地のムードを持たなくてはならない。趣さえあればどうにかなるのだ。人を受け入れる間合いがやっていくには大切だとわからされた右脚ぐちゃぐちゃの一日。フィリンピン料理のロンガニーサをおかわりして帰宅、爆睡

2023年5月1日 久喜インスタより

 久喜ようたの「やはり厚木をやる旅」はこれでで終わりではむろんない。6月30日から7月1日にかけて再び久喜は厚木を訪れた。この日のもようは次号で改めて報告することになるだろう。


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