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ロックスターの凱旋公演を観たって話 〜マカロニえんぴつ ツアー2022 山梨公演を観て〜

⚠️この投稿では、本公演で披露された楽曲・MCについて触れた記載があります。これからライブに行かれる方でネタバレを避けたい方は、閲覧を控えることをオススメ致します⚠️

2012年春

山梨県のとある街に、音楽で生きていこうと決めた男がいた。かつて野球少年だったその男は中学生のときにギターに出逢い、音楽を志すようになった。

同年、音楽大学で出会った友達と組んだバンドは、少しずつ人気に火をつけていった。

時が経ち、2022年2月27日(日)。

場所は、山梨・YCC県民文化ホール。

その男は、地元に錦を飾りにライブを行った。

かつて、高校の文化祭のステージでたったホールには、満員のお客さんが詰めかけていた。多くの人が、バンドのTシャツやタオルを身につけ、彼らの音楽に身体を揺らしていた。

この日、目の当たりにしたのは、そんな男の人生史そのものと言えるような音楽とステージだった。

この日、マカロニえんぴつの全国ツアーにて、
フロントマン・はっとり(Vo/Gt)は錦を飾った。

そんな話をしよう、飽きるまで。

山梨と凱旋ライブのエピソード

思えば、個人的にアーティストの地元での公演を観る機会って何度かあったけど、それが「凱旋公演」だったことってそういえばなかった。

そもそも「凱旋」って言葉を使うからには、そのライブにかける思いは言葉にしたら膨大なものになる。覚悟を持って上京したり、その世界に飛び込んだ人間が、成長して、多くの人たちに支持される存在になって、そして満を辞して地元に帰ってくる。だからこそ、「凱旋」という華々しい言葉がそこには飾られるわけだ。

ちょうどこの日の会場が山梨だから、ふと思うのはフジファブリックの志村正彦の凱旋公演の話。今は亡き志村の地元・富士吉田市も山梨県にある街だ。その映像をYouTubeで観ると、当時人気に火がつき始めていた彼らの勢いや満を辞した顔が出てるのを思い浮かべる。

だからこそ、今日のライブは間違いなく「凱旋」って言葉が似合うものだったのではなかろうか。

それは、近年のマカロニえんぴつの活躍を見れば一瞬でわかることだった。2020年11月のメジャーデビュー以降、多くのライブ開催やCM・映画のタイアップやテレビ出演を通じて、バンドの人気は全国区へ拡大していった。昨年末の「なんでもないよ、」のサブスクでの大ヒット、日本レコード大賞・最優秀新人賞の獲得と、バンドの人気や存在は確固たるものとなった。

そんな大躍進の1年を経て迎えた2022年。
バンドにとって大事な1年を迎えた。

それは、2022年は結成10周年イヤーだからだ。

神奈川の音楽大学で結成されたバンドは紆余曲折を得て、はっとり、長谷川大喜(Key/Cho)、田辺由明(Gt/Cho)、高野賢也(Ba/Cho)の現体制となり、今に至っている。

インディーズ・メジャーを経て、迎えたバンド結成10周年。バンドが続くという奇跡はとてつもなく凄いものだ。そんな彼らにとっての大事な記念のツアーが2月の日本武道館より始まった。

昨日と今日の2日間、山梨で行われたのは、その10周年ツアーの模様だった。1月にリリースされた最新アルバム『ハッピーエンドへの期待は』を提げ、東京・山梨・名古屋・新潟・大阪と巡る全国ツアーの中盤にあたるこの日の山梨公演。およそ1,900人入るこのYCC県民文化ホールには、全国から多くのマカロッカー(バンドのファンの名称)が集まった。

↑上記4枚は開演前のホールの様子。


ちなみに、私はというと別の意味で震えていた。

チケットを発券し、「1階1列目」という座席を知ったとき、少し腹括らねばと思っていたのだ。生まれて初めて体験する最前列という景色。思えば、1年前の浜松でのマカえんも1階3列目と良い景色を味わっていたのだが、まさかそれを超える日がすぐに来るとは。しかも、こんな大切なライブの日に。

自分にとっても忘れられないライブになるのは、その瞬間わかった。今まで行ったどのライブも大切なのは間違い無いんだけど、今日はその中でも特別になるのは… 言うまでもないことだった。

座席に着いた途端、目の前にステージがあること、足元に紐が引かれていて、これより先に足を踏み入れないでねと示されているのを、この日初めて知った。

そして何よりも、撮影用のカメラがたくさんあることに驚いた。ホール規模でこんな多くのカメラを見るのは初めてだった。後に知るのだが、この日の模様を後日テレビで放送するのだとか。

それだけ、この日はバンドにとってもエポックだった。目に焼き付けるどころか、歴史そのものに刻む瞬間が、幕を開けた。

バンドの歴史を駆け抜ける

開演 16:06  終演 18:12

定刻を少し過ぎ、ホールは暗転。
お馴染みのThe Beatles「Hey Bulldog」のSEが鳴り、メンバーとサポートドラマー・高浦“suzzy”光孝の5人がステージに登場した。

メンバー一人ひとり、とても晴れやかな顔をしていた。田辺、長谷川は満面の笑みで客席を眺め、高野はクールな表情で一礼し、定位置に着いた。他のメンバーより少し遅れて登場した、錦を飾りにきたはっとりはいつもよりも凛とした表情でステージに登場した。大きな拍手で迎えられた5人は、楽器を手に持ち、1曲目を鳴らし始めた。

鳴らせ 響くまで ここにいるって
ちゃんとここにいるってさ 叫ぶんだ
(マカロニえんぴつ「鳴らせ」より)

疾走感あるシンセサイザーのイントロから始まったのは、インディーズ1作目となったミニアルバム『アルデンテ』の1曲目に収録された「鳴らせ」。

この曲から、マカロニえんぴつは全国区への道のりを辿り始めた。バンド初のMVもこの曲だった。だから、震える瞬間がそこにはあった。

続く「レモンパイ」は、バンドの人気をより押し上げた1曲。軽快なピアノのイントロと、ステージ先端で回るミラーボールの景色が圧巻だった。(ちなみに、最前で見ていると、スタッフさんが1曲目を終えたタイミングでミラーボールを覆ってた布を剥ぎ、「レモンパイ」を終えたときにミラーボールを回収し履けていく様子が。ライブを支えるスタッフさんのお仕事、巧みです)

「お待たせしました、俺たちがマカロニえんぴつです!そして、ロックスターが地元に帰ってきました!」とはっとりが挨拶し、最新アルバムに収録されている「トマソン」。ここから、背景には映像が投影され、ライブの序盤を派手に彩る。途中でレゲエの要素が織り込まれるマカえんらしい自由な展開を繰り広げるこの曲で、フロアはより温まる。

↑この日のライブの模様 (公式Twitterより引用)

間髪入れずに「はしりがき」を披露し、バンドは最初のMCへ。はっとりは「10周年ツアーの中盤戦です、今日はなんか寂しい気持ちでいっぱいで。これ終わったら、帰んなきゃいけないんだと思うと」と率直な気持ちを話す。そんな言葉に続けて、「昨日は張り切り過ぎたので、今日はいい感じにリラックスしてます。楽しみましょう」と話した。

「この曲はみんなが作ってくれた曲です」と話し、昨年バンドの人気をより確固たるものにしたヒット曲「なんでもないよ、」を披露。

僕には何もないな 参っちまうよもう
とっておきのセリフも特別な容姿も
きみがくれたのは愛や幸せじゃない
とびっきりの普通と そこに似合う笑顔だ
(マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」より)

ストレートなラブソングだが、この日はなんか特別な思いに聴こえた。好きな人へ、というよりはライブに来てくれた一人ひとりに向けて歌ってるように聴こえた。だから、「みんなが作ってくれた曲」と称したのだろう。聴く場所によって、聴こえ方が変わるのが音楽の魅力だ。

最新アルバムに収録されている「好きだった(はずだった)」は、ピアノのイントロと歌詞の展開が切ない1曲だ。

好きなんだ 好きなんだ あなたとのわたし
あなたが思うよりもずっと
満たされるより 待たされる恋を
選んでしまったんだ、似合うとおもって
(マカロニえんぴつ「好きだった(はずだった)より)

こういうラブソングの切なさは、マカえんの真骨頂だ。胸にキュッと締め付けられる感覚は、私が最近そんな恋を最近していたからだろうか…

個人的な話を織り込んで失礼しました。

序盤戦は「これぞマカえん!」と言えるような曲が一気に続いた。普段のライブなら終盤戦で披露される「ヤングアダルト」がここで登場した。

夢を見失った若者たちは 希望を求めて文学を
はたまた汗まみれのスマートフォンを
握り締めて詩を書き溜める

ハロー、絶望 こんなはずじゃなかったかい?
でもね、そんなもんなのかもしれない
(マカロニえんぴつ「ヤングアダルト」より)

この流れを聴いていると、序盤のセトリはまるでマカロニえんぴつ… いや、はっとり自身の音楽の、バンドの歴史そのものが映し出されているように思えてきた。生き方、音楽との向き合い方、恋愛観、そして希望… マカえんのスタンダードと言えるような曲たちには、そんな彼の血が染み渡ってるんだなと感じるのだ。そんなことをこの日集まった「山梨ヤングルーザー」たちは感じていただろう。

↑高野賢也(Ba/Cho)この日のライブより
(本人Twitterより引用)

高野のカウントで始まった「恋人ごっこ」も、今やマカえんを代表する名曲のひとつだ。彼らにとって初のストリーミング再生回数1億回を突破したのも、この曲だった。

そんな序盤の7曲だけでも、マカえんの歴史を映し出すような曲ばかりだった。デビューから最新アルバムまでの展開が一気に来る序盤戦。これだけでも、震えるものがあったんです。

山梨での思い出は止まらない

一旦はっとり以外のメンバーがステージを捌けたあと、彼が「弾き語りをやるので、一旦座っていただけたら」と観客に着席を促す。

私じゃなきゃだめな理由を
10個並べて見せてほしいんじゃなくて
手を繋いで繋ぎ止めておいてほしい
あなたじゃなきゃだめな理由なんて
いくら探したって出てこないから
まだ分からない、分からないままでいいか
(マカロニえんぴつ「キスをしよう」より)

アルバムにも収録されているはっとりの弾き語り曲「キスをしよう」で、ライブは中盤戦に突入した。バンドメンバーが戻り、バンド初のフルアルバム『CHOSYOKU』に収録された「春の嵐」を演奏。思えば、昨年春のツアーでも、この曲が披露されていた(詳しくは下記の記事より)。


こういうご時世もあり、なかなか訪れない季節を願うような1曲。この日のバンドでの演奏は、なお聴き入るものがありました。

↑長谷川大喜(Key/Cho) この日のライブより
(本人Twitterより引用)

今の季節にぴったりな「メレンゲ」で、雪景色の幻想的な映像と相まった演奏が続いたのち、はっとりは次の曲について語り始めた。

「3歳から18まで過ごした山梨は、僕にとっての青春が形成された街でした。自転車に乗った帰りの様子とか、そんなことを思い浮かべながら、次の曲を書きました」そう話し、「青春と一瞬」のワンフレーズを歌い始めた。

つまらない、くだらない 退屈だけを愛し抜け
手放すなよ若者、我が物顔で
いつでも僕らに時間が少し足りないのは
青春と一瞬がセットだから
(マカロニえんぴつ「青春と一瞬」より)

はっとりの青春が詰まった街で鳴らされるこの曲は、とても感慨深く思う1曲だった。そんな曲に続き、バンドはトークコーナーに突入した。

昨日、はっとりが1人で15分も話し倒した結果、話すネタがなくなったという始まりを迎えたトークは、昨日話した身延線の話や地元の中央市(隣町のイオンのこととか)をショートカットで話し始める。

ここで、初めて凱旋公演となったこの日のことを話し始めた。

「僕らマカロニえんぴつは、何度か山梨でライブをやっているんです。3年くらい前には、イベントで呼んでもらってはいたんですけど、まだ『マカロニえんぴつって誰?』ってなっている状態で。だから、こっそり凱旋はしているんだけど、ここまで胸を張ってはできなくて。(もし凱旋公演をやるのなら)みんながマカロニえんぴつのことを知っている状況じゃないと意味がないと思えて。それで昨年頑張って、日本レコード大賞(最優秀新人賞)も獲って、これで行けるだろう!という気持ちで、今日ここに立たせてもらってます」
(2022.02.27 ライブ中のMCより抜粋)

ひとり延々喋るはっとりに、笑いながら相槌を打つ田辺と、少し引き気味に眺める長谷川と高野。それにツッコミを入れつつ、MCは最新アルバムの話題へ。

「で、1曲だけ輪を乱すような曲があるんですよ。田辺の作った曲で。(中略) この曲もツアーでやろうと思ったんですけど、入れ込む場所もなくて。追加公演でできればいいんですけど…」と話すはっとりの横で、何やら赤いタオルを頭に巻き始めるギターの田辺。何を隠そう、生粋のサウナ好き。熱波師の資格まで持った彼が見せたタオルには「熱波道」の文字が…

マカロック、乱れ打ち

その文字を田辺が読んだ途端、会場は暗転。ステージにはスモークが焚かれ始め、何かが起こりそうな予感にホールは包まれ始める。

するとステージ上には、革ジャンを着てロン毛で金髪のカツラを被ったメンバーの姿が。炎が焚き上がる中、ハードロック調のサウナ賛美歌といえよう「TONTTU」をここでドロップ。はっとりが尊敬してやまないユニコーンの楽曲「服部」のパフォーマンスを彷彿させるような演出に、会場のボルテージはヒートアップする。

↑田辺由明(Gt/Cho) この日のライブより
(本人Twitterより引用)

バンドのセッション、ソロ演奏が続いた後、長谷川のキーボードで始まった「ワルツのレター」は、報道番組のエンディングテーマに起用されている1曲。

愛の歌はきこえてるかい?
逃げ出すフリはできてるか
希望の歌を忘れたんなら 
おれが歌ってやるぜ
(マカロニえんぴつ「ワルツのレター」より)

続く「STAY with ME」、「ハートロッカー」とライブの定番曲が一気に続き、ライブの熱が高まる。フロアとステージがより密接になり、ライブは終盤へと突入していく。

↑ライブ中の模様 (公式Twitterより)

最新アルバムに収録され、DISH//に楽曲提供したことでも話題となった「僕らが強く。」を披露し、はっとりがMCを続ける。

「さっき、お世話になったバンドの先輩に会って。「バンド最高だよ」と言ってくれた先輩がいて。そして、今日恩師や父親、家族が観に来ていて。思うのは、自分のことを応援してくれてる人を大切にして欲しいということです。大学に進むことを願っていた親だったんですけど、僕は早いうちに音楽で生きていきたいと決めていて。そんな中、父親が「音楽で大学に行けるところあるぞ、ラッキー」と言ってくれて。父も音楽やってたし、わかってくれてたんだと思います。父が言ってたのは「いい声があるわけじゃないけど、音程はいいしリズム感はあると思うぞ」と言ってくれて。変な自信というか勘違いをさせてくれて。(中略)それが今も続いてるんだと思います。次最後にやる曲、ここで歌えてとても嬉しいです」
(2022.02.27 ライブ中のMCより抜粋)

そうして歌い始めた本編最後の「あこがれ」の歌詞には、こんなフレーズがある。

どんなに頑張ったって
あなたにはなれないけど
憧れだけで生きていけるさ
才能ないとか やめちまえとか言われても
憧れはやめられないから
(マカロニえんぴつ「あこがれ」より)

ふと気付くのだ。
このバンドは、ずっと憧れの延長に今を生きていたんだということ。それは、はっとり自身が、ここまでバンドを続けることができたということ、それは一人でできたことでもなく、素敵な人たちに出会えたからではなく、大切な人たちがそこに居たから。それは、地元で出会った人たちもそうだし、ここにいた観客もきっとそう。この山梨だからこそ、込み上げた思いも間違いなくあったはずだ。

↑はっとり(Vo/Gt) この日のライブより
(本人Twitterより)

感情を丸出しにするように、この曲を歌いきり、バンドは一旦ステージを後にした。笑顔でステージを降りるメンバー、そしてやり切ったように客席を眺め、フロントマン・はっとりは一旦捌けていった。

観客の熱いアンコールに応えるように、メンバーがまたステージに戻ってきた。最新アルバムのリード曲「ハッピーエンドへの期待は」を披露し、「アンコールありがとうございます!」とはっとりは客席に叫ぶ。

「愛するOKKAKEの皆さんに、最後にもう一曲だけやります!マカロニえんぴつでした!」と言い、ファンとの絆を歌った「OKKAKE」を披露し、2時間のライブは幕を下ろした。

↑この日のライブの集合写真
(公式Twitterより)

2時間のライブは、まるではっとり自身の人生絵巻が展開してるように見えた。それが、マカロニえんぴつというバンドの歩みにもなった。

音楽には、その人の人生が映し出される瞬間がある。それは、聴いた人の中に宿されるそれもあるけど、作った人間の生き方がそこにも映し出されることがある。

今日のライブは、はっとりの凱旋公演だった。
このツアー、恐らく全公演セットリストは同じだと思うのだが(調べたら、初日の武道館公演と同じでした)、同じ演目でも、場所が、気持ちが聴こえ方を変えてしまうことがあるんだ。

この日の、山梨で起きていたのは、そんな瞬間だった。バンドにとっての、はっとり自身の大きなエポックとなったライブは、そんな熱と気持ちの中で、幕を下ろしたのです。

↑会場ロビーにあるシャンデリアが綺麗でした

((この日のセットリスト))

マカロニえんぴつ マカロックツアー vol.13 
~あっという間の10周年☆
    変わらずあなたと鳴らし廻り!篇~
2022.02.27(日) 山梨 YCC県民文化ホール

01, 鳴らせ
02, レモンパイ
03, トマソン
04, はしりがき
05, なんでもないよ、
06, 好きだった (はずだった)
07, ヤングアダルト
08, 恋人ごっこ
09, キスをしよう
10, 春の嵐
11, メレンゲ
12, 青春と一瞬
13, TONTTU
14, ワルツのレター
15, STAY with ME
16, ハートロッカー
17, 僕らが強く。
18, あこがれ

((アンコール))
19, ハッピーエンドへの期待は
20, OKKAKE

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