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2021年のロックの扉が開くとき 〜ザ・クロマニヨンズ 東京ガーデンシアター公演 完全ライブレポ〜

2021年2月20日(土)
私は、3年2ヶ月ぶりに
東京都内でライブを観に行った。

ここ数年、横浜アリーナかさいたまスーパーアリーナに目的があったから、都内なんて経由地かそれ以外に過ぎなかった。故に、私の人生の中では都内というものにそこまで親しみを感じたこともなかった。言い過ぎかもしれない。

ただ、2020年は都内に行く用事がたくさんあるはずだった。2020年2月時点で、都内でのライブが2公演観に行く予定が入っていた。どれも、楽しみな公演だった。しかし、その2公演とも、昨今のウイルス騒ぎで中止に追い込まれてしまった。

その2公演のうち、5月に行く予定だった場所がある。予定なら、その月にこけら落としが行われ、開業したばかりの綺麗なアリーナとして話題になるはずだったところだ。

今日のライブは、そのアリーナで行われた。
りんかい線に乗り国際展示場駅へ、そこから歩いて数分で見えるのが、昨年開業したばかりの商業施設・有明ガーデン。その中にある場所こそ、東京ガーデンシアターだ。

キャパ最大8,000人。
4階席まであるこの会場は、アリーナ規模ではあるものの、客席がステージを囲っているような形であり、尚且つホール規模に近いようなステージと客席の距離感が魅力の会場だ。

昨年7月に行われたラジオ局主催の無観客ライブイベントでこけら落としが行われ、今日に至った。昨年末にはここで何公演か有観客でのライブも行われていた。

そして、この日ステージに立ったのは、デビュー15周年を迎えたロックバンド、ザ・クロマニヨンズだった。

ザ・クロマニヨンズの2020年

2006年に甲本ヒロト(Vo、以下ヒロトと称す)と真島昌利(Gt、以下マーシーと称す)を中心に結成されたザ・クロマニヨンズは、近年は年1ペースでアルバムを発表し、そのアルバムを提げた全国ツアーを開催していた。2020年は、前19年にリリースしたアルバム『PUNCH』を提げた全国ツアーの中盤戦から幕を開けた。序盤から中盤戦は全国のライブハウスを中心にスケジュールが組まれており、どの会場も凄まじい熱気に包まれていたという。

しかし、その年に流行したウイルスの脅威は恐ろしいものだった。2月下旬に政府から出されたイベント自粛要請により、2月24日の京都公演を最後に、残りのツアーは延期に。最終的に、残っていたホール会場12公演は中止となってしまった。

そんな中、彼らはある決断をする。
それは、中止になってしまった『PUNCH』ツアーのライブ音源をリリースするというものだった。

2020年9月23日(水)、約6年ぶりのライブアルバム『ザ・クロマニヨンズ ツアー PUNCH 2019-2020』をリリースした。アルバム曲を中心に構成されたセットリストと観客との熱気が詰まったこのアルバムには、彼らのライブそのものが詰まっていた。

自粛期間を過ぎたその年の夏、バンドは新たなアルバム作りに取り掛かった。アルバムは無事に完成し、リリースすることに。

11月4日には先行シングル「暴動チャイル (BO CHILE)」がリリースされ、翌12月2日に14枚目のオリジナルアルバム『MUD SHAKES』がリリースされた。派手な装飾はひとつもなく、ストレートに鳴り響くロッケンロールは、間違いなくクロマニヨンズの音そのものであった。

そんな新作がリリースされた1週間後の12月11日、クロマニヨンズは初の配信ライブを開催した。アルバム『MUD SHAKES』の収録曲を全部披露するライブは、収録されている全12曲に加え、先行シングルのカップリング曲「東京ブギズギ」とライブ定番曲「クロマニヨン・ストンプ」を披露し、幕を下ろした。

そんな配信ライブの最後に告知されたものが、翌2021年2月20日(土)に、東京ガーデンシアターで有観客&配信ライブとして開催される一夜限りのライブ「ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021」であった。

一夜限りのロッケンロール

この情報を聞いたとき、行きたいという思いと同時に、少し不安が芽生えてしまった。彼らのライブを一度観てみたいなという思いが強い反面、この時期の都内ってのはリスキーだよな…という手触りがあった。SNSを見ても、似たような反応をする人は多かった。実際にチケットを購入した人でも、時期的に不安を覚えて払い戻しを希望する人もちらほら見かけた。

その選択は間違いではないと思う。少なくとも、私もこのライブに至ってはギリギリまで行くかどうかの判断に悩んだ。「行きたい!」という願望と「都内である」という不安。どちらを取るべきなんだ?と悩むのは当然だったはずだし、2021年のエンタメ業界が抱える大きな難問のひとつだと思う。安全であることが100%じゃない中で楽しむということは、望ましいことではないと思うからだ。

悩んだ末に、私は行くことにした。
それまでも、全国で何公演か観に行っていたこともあるし、それを過ぎてからの体調は万全だった。行く際には、対策をきちんと行なっていくということを最優先に、今回行くことを決断した。

16:30、強い風が吹く有明に着いた。
初めてやってきたこの会場は、海が近いからか空気は澄んでいるように感じた。高速バスで降りた新宿や経由した渋谷がどれだけ淀んでるか…()なんて思ったりするんだけど、何よりも会場周辺の雰囲気がとても素敵な場所でした。

周辺のベンチで風に吹かれたり、近くのレストランモールに行って軽食を済ませてから、会場内へ。アリーナAブロック・13列目の席は、左寄りだけどもステージがしっかり見える場所。初めましてでこの席ってのもなんか良いな、と思いつつ。

そこでふと思い出したことがひとつ。
実は、昨年5月に行くはずだった同会場で行われる予定だったsumikaの全国ツアー。そのとき、友達がとってくれた座席はアリーナCブロック・10列目だった。なんか… 左右は逆だけど、近いよななんて思いながら。変なリベンジ感がここに。不思議な縁があるみたいです。

そんな感慨に浸ってるうちに、
開演時刻を迎えていました。
ライブの幕が、まもなく上がります。

開演 18:30 終演 19:56

定刻の合図が会場内に響き、拍手が起こったのち、ステージ上にライブスタッフが登壇した。会場内の観客に向けての諸注意や配信で参加する人たちに向けたアナウンスをしたのち、「盛り上がってますか?」と客席や画面に問うスタッフ、そしてそれに反応する観客たち。「皆さんで“MUD SHAKES”の扉を開こうではありませんか!」と開会宣言をし、ステージが暗転。

不気味な声が鳴り響く中、ステージ上に『MUD SHAKES』のアルバムジャケットがステージ後ろに登場。それと同時に、桐田勝治(Drums、以下カツジと称す)、小林勝(Ba、以下コビーと称す)、マーシーが定位置につき、その後をヒロトがマイクを握りステージに向かう。

この日のライブの1曲目は、アルバムA面の1曲目でもある「VIVA! 自由!!」だ。そこから、ヒロトのブルースハープが印象的な「暴動チャイル (BO CHILE)」やレスポンスやマーシーのギターソロが光る「新オオカミロック」など、アルバムA面の曲を立て続けに披露した。

ここで最初のMCに。
ヒロトは客席に向かって「全てのノルマをクリアして来てくれた君達は全力で楽しんでいってくれよ」と、会場に来てくれた観客に感謝を伝え、「アルバムツアーの初日、そして最終日になるかもしれないこの日。俺らがヘトヘトになるまでやるから」とこの日の意気込みを伝えた。

アルバムの曲を一旦中断し、「今回初めて来た人に向けて」と話し、前作『PUNCH』にも収録された「クレーンゲーム」、ドラマ主題歌として話題になった「生きる」、ヒロトのブルースハープがカッコいい「ペテン師ロック」と、近年のシングル曲を続けてパフォーマンスした。

“MUD SHAKES”とは一体?

計9曲を披露したのち、ヒロトは「アルバムのB面曲行くぜー!」と『MUD SHAKES』のB面1曲目の「妖怪山エレキ」を披露した。

この曲から、あることに気付く。
ステージの照明が、
少し特殊なことをしていたのだ。

スクリーンも派手なセットもないステージには、バンドの4人とアルバムジャケットがあるだけなのだが、照明が映し出しているのはステージで演奏している4人だけではなかった。それは、アルバムジャケットに書かれている“MUD SHAKES”という文字だった。思えば、A面曲を披露していた時も、そんな演出がされていたような気がする。

思えば、最初の前説のときにも、スタッフの人が「“MUD SHAKES”の扉を開きに行きましょう!」なんて話していた。彼らにとって、“MUD SHAKES”って一体何なのか?

それは、続く曲を聴いていけば見えてきた。
B面曲を追うごとに、アルバムジャケットにあたるスポットライトの数が増えていった。「新人」や「ふみきりうどん」では、ジャケットに描かれているヘビの顔にもライトが当たっていた。

B面曲が残り1曲となったあたりで、クロマニヨンズは別のレパートリーを続けた。ここで、今までずっと後ろにあったアルバムジャケットは一旦捌けてしまった。4人以外何もないステージでカラフルな色の照明が当たった「東京ブギズギ」やカツジの4つ打ちから始まる「エルビス(仮)」、「タリホー」といった近年のシングル曲がここで続いた。

シングル曲が続いた後で「B面最後の曲やるぜー!」とヒロトが叫び、アルバム最後の1曲「かまわないでくださいブルース」を歌った。ここでまたアルバムジャケットが登場し、全体にスポットが当たるような演出が施された。

この時に、何となく感じたことがある。
“MAD SHAKES”という言葉を単純に訳すと「泥を振るう」という感じになる。そして、ジャケットにはヘビのイラストがある。

ヘビって普段の生態を考えると、土の中でトグロを巻いて生きていて、どんなぬかるんだ道でもニョロニョロと動き続ける。それはまるで、身体に付きそうな「泥を振り落とす」ように。

じゃあ、今の世の中はどうだろう?
何かと肩身の狭い感覚を、私は感じてしまう。

この日のライブなんかきっとそうだ。
中盤のMCで、ヒロトは「(客席に)いるのをバレないように、そっちは暗くしてありますので」と話していた。今時、ライブに行くというだけで、社会的な偏見とか言いがかりをつけられてしまうこともある。仕事のために行けない人だっている。そういう背景があるから、行くか否か悩んでしまう。

思えば、かつてロックは親に隠れて聴くような音楽だった。今の時代、ロックというものは大衆権を得て、日本の音楽のスタンダードになりつつあるが、60-80年代のロックって「教育に悪いから」みたいな偏見があって、ロック好きな少年は親に隠れてこっそりそのビートに震えていた、なんて聞く(私は22歳だが、そういうことは経験したことない。しかし、歳上の人からはそんな話を聞いたことがある)。

そのことを感じたのは、昨年11月にフジテレビで放送されたバラエティ番組「まつもtoなかい 〜マッチングな夜〜」で、ヒロトが俳優の菅田将暉と対談したときに話していた、ロックを聴き始めたきっかけを思い出したからだ。その時のことを少し抜粋する。

「音楽は幼稚なものだと思ってた、お遊戯のような。で、ロックは在留の外国人の為にあるようなものだと思ってたの。でも、あるときラジオから聞こえてきたロックに涙を流して。『え?身体悪くしたの?』って。どこも痛くないし。じゃあ、何が原因なの?この音楽なの?!と思って」
(フジテレビ系列「まつもtoなかい 〜マッチングな夜〜」2020.11.21 21:00-放送)

何かある羞恥だとか、偏見を超えた先にあるものに、震えた。ロックの洗礼を浴びた原体験も、何かが振り落として見つけたものだった。

それを考えていると、今のライブシーンだとか、かつてのロックが持っていた背景って、何か似ているような気がする。(泥のように纏わりつく)周りの偏見や言いがかりを振り落として、観たいもの・聴きたいものに狂気狂乱する。何かを振り落とした先に、面白いがあるような。

私が思うに、「“MUD SHAKES”の扉を開く」というのは、今を振り落として、新しいものを掴みに行く、みたいなものがあったりするんじゃないかな?と思っている。事実、今のエンタメシーンが置かれてる状況だとか、アルバム制作にも少しは反映してるのかもしれない。

アルバムに収録されているどの曲も、色が違えど純度の高いストレートなロックに包まれていた。そこには、彼らの持つ「しがらみを振り落として掴んだワクワク」みたいなものがあるように思える。

それは、この日のライブでのヒロトの一言一言にも見えていた。「楽しいなぁ!」とか「最高のアルバムだよ」と終始話していた。それは、何もまとまりついてない、純粋な笑みのままで。しがらみも何もない、ただ面白いからやる。それがロックなんだ、ライブなんだ、クロマニヨンズなんだ、と。

呼吸を止めてなるものか

普段のツアーでは、アルバムの最後の曲で本編を締め括るように、このライブもアルバム『MUD SHAKES』のラストナンバー「かまわないでくださいブルース」で本編は終了するはずだった。

しかし、ヒロトは「ここで後ろへ行ってもやることないから続けるよ」と言い、ライブはおまけ(というか実質アンコール)へ。そこから、ライブは「エイトビート」に続いた。

この日のライブは、アルバム収録曲以外で披露された曲はシングル曲だったというのが印象的だった。昨年リリースされたライブアルバムを聴くと、前々作のアルバムからも何曲かやってた印象を覚えるので、今回のセットリストは初めましての人にも分かりやすいようなセットリストだったんじゃないかと思える。

ただ、その中にも彼らなりの思いがあったような感覚があって。それは、力強さみたいなものもあったんじゃないかということ。

この日披露されたシングル曲は、カテゴライズ的には(俗に言うポップス的な言い方をしてしまえば)、応援ソングみたいな、エールのような側面を持った曲が多かった印象を持つ。「どん底だから上がるだけ」と歌う「どん底」なんかわかりやすいかも。聴きていると、今のご時世に似たような思いを感じてしまって。

この「エイトビート」もそう。

ただ生きる 生きてやる
呼吸を止めてなるものか
(ザ・クロマニヨンズ「エイトビート」より)

何かと生きにくい、そして悩んでしまう今だからこそ、この曲がこの1年ズドンと心にきた。個人的な話を織り込んでしまっていいのなら、昨年最も聴いた曲が「エイトビート」だった。こういうウイルス騒ぎ関係なく、身辺の変化だとか個人的なことでもがいてしまい、生きるのが嫌になった時期が長かった。そんなときに、ふと耳にしたこの曲で、久々に涙してしまった。

どんな形であれ、生きてやるか。
そんな思いにさせてくれたのも、この曲だった。

それを思えば、私も今“MUD SHAKES”の扉を開けていたのかもしれない。ひとつの辛いことを振り落として、一歩進んでいる。彼らのロックはそんなことを与えていたのだった。

ライブはその後、「ギリギリガガンガン」、「ナンバーワン野郎!」と続き、ライブは終演。ヒロトが「楽しかった!またやろうぜ!」と話し、この日誕生日だったマーシーはいつも通り「またねー」と呟き、コビーもカツジも手を振ってステージを去っていった。

約90分・計23曲のロッケンロール。

“MUD SHAKES”の扉を開ける旅は、未来への希望を開ける旅そのものだったのだ。

この日のセットリスト

ザ・クロマニヨンズ MUD SHAKES 2021
2021.02.20 東京ガーデンシアター

01, VIVA! 自由!!
02, 暴動チャイル (BO CHILE)
03, 浅葱色
04, 新オオカミロック
05, カーセイダーZ
06, ドンパンロック
07, クレーンゲーム
08, 生きる
09, ペテン師ロック
10, 妖怪山エレキ
11, メタリックサマー
12, 空き家
13, 新人
14, ふみきりうどん
15, 東京ブギズギ
16, エルビス(仮)
17, どん底
18, 突撃ロック
19, タリホー
20, かまわないでくださいブルース
21, エイトビート
22, ギリギリガガンガン
23, ナンバーワン野郎!

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