巧みな演出で体験できる2人だけのピアノコンサート『KAGAMI -Ryuichi Sakamoto MR Live-』:XR映画ガイド第7回
今回紹介する『KAGAMI』は2023年3月28日に亡くなった坂本龍一さんの生前に、ピアノを演奏する姿をボリュメトリックキャプチャ(*1)で3DCG化していたデータを使ったXR Liveです。この作品をどうしても体験したいと思い、台湾まで行ってきました。とにかく全てに圧倒されました。開催された場所は最新鋭の設備と1,500人規模の観客収容数を誇る、台湾を代表する劇場の国家戲劇院。劇場の舞台は2つのスペースに分けられています。このイベントでは総勢80名の観客が同時に、このピアノコンサートを体験できるようになっています。最初のスペースでは坂本龍一さんの大きな過去の写真パネルと大型スクリーンでドキュメンタリー映画『Coda』の一部が上演され、メインスペースでいよいよMRデバイスのMagic Leap2を装着すると、目の前に坂本龍一さんの姿が現れて、ピアノの演奏が行われます。
見所:巧みな演出で体験できる2人だけのピアノコンサート
綿密に、丁寧に作られたこの作品は今まで最も感動したXR Liveでした。Magic Leap2の視野角の狭さや、表示される映像品質の難しさを会場の照明でうまくカバーしており、さらに音楽ライブとして肝心な音についてもデバイスを通して聞くのではなく、会場に設置されたスピーカーから、あたかも坂本龍一さんが目の前でピアノを弾いているかのように音響演出されています。またオクルージョン(*2)の精度が難しい中、オクルージョンを使わないという思い切った演出にしているのには驚きました。オクルージョンを使った演出だとステージ上でピアノを演奏している坂本龍一さんの前に人が立つと、人が被って坂本さんのピアノの演奏が見えなくなります。この状況は現実と同じ体感です。今回はオクルージョンを使わない判断をしたので、目の前に人が立っていたとしても、ピアノを演出している坂本さんの姿は人に隠されることはなく、その人に重なった状態で表示されます。通常だとリアルに近い存在感が一気に薄れてしまいます。しかし、照明の巧妙な演出と繊細なデジタル表現の調整で、状況の難しさを逆手に使った新たな演出を生み出しています。大勢の観客と一緒に坂本龍一さんのピアノコンサートを体験しているのですが、他の観客の気配を薄くすることで、体験者と坂本龍一さんの2人だけの時間を体験することができました。
*1ボリュメトリックキャプチャ:被写体を3次元で動画のように撮影・計測する手法
*2オクルージョン:手前にある物体が後ろにある物体を隠す状態
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