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【AZアーカイブ】新約・使い魔くん千年王国 第十四章&十五章 白炎襲来&炎蛇

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【第十四章 白炎襲来】

ロサイスに対する奇襲作戦は成功し、トリステイン・ゲルマニア連合軍は遂にアルビオン大陸に上陸する。ダータルネスに艦隊が出現したとの急報を受け、3万の兵を率いて首都ロンディニウムから北上したホーキンス将軍は、青空へゆっくりと消えていく幻影の艦隊を見て愕然とした。

とは言え、ロサイスからアルビオンの中心部に位置する首都までは300リーグあまり。細長い大陸を縦断する街道はあるが、途中いくつもの都市や要塞があり、すぐにアルビオン全土を制圧するわけには行かないだろう。

特にロサイスとロンディニウムの中間点、古都サウスゴータには亜人混じりの革命防衛軍がいる。水際防衛線があっさり破られた以上、そこで押しとどめねばなるまい。あるいは今度こそ北から回り込んでくるやも知れぬ。ホーキンスは下唇を噛み締め、ダータルネスの防備を固めさせてからロンディニウムへ戻った。

松下とルイズは3隻の『千年王国艦隊』に戻り、ロサイスへ向かう。その船室で、二人は戦況報告を受けていた。
「ロサイス上陸作戦では、味方の損害は比較的軽微だったようだな。教団兵にもさしたる死傷者はいない。我々の陽動も功を奏したが、ゲルマニア軍にも新兵器があったというし」
「ふーーーっ、とにかく休みたいわ。『虚無』の魔法は強力で独特だけど、魔力の消耗が激しいのよ。まだ私は『虚無のドット』ってとこね……」
「『虚無』か。伝説によれば、始祖ブリミルには四人の僕がおり、三人の御子と一人の弟子が指輪と秘宝を授かり、四大王国を作ったと言うが……」

「そうよ。三人の御子はガリア・トリステイン・アルビオンの、弟子はロマリアの王。アルビオンの王統は、今回の革命騒ぎでほとんど途絶えてしまったし、ロマリアも王国ではなくなって、教皇聖下が治める都市国家連合になったけど。ゲルマニアはブリミルの正統を引いていない、成り上がりの集まりよ」
「四人の僕と王国の祖は、違うのだな? 疲れているところ悪いが」

ルイズは怒りもせず、溜め込んだ知識を披露する。実技以外では、彼女は優等生なのだった。
「ちょっと横にならせて。……いろんな説があるけど、まあ、そうでしょうね。王国の祖が『虚無の担い手』で、四人の僕は『虚無の使い魔』よ。私とあんたみたいにね。あんたは『神の右手、神の笛』ヴィンダールヴだったわよね? 他には『神の左手、神の盾』ガンダールヴ、これはあらゆる武器の使い手。『神の頭脳、神の本』ミョズニトニルン、これはあらゆる魔法具を操るそうよ。もう一人は『名を記すのも憚られる』として、失伝しているらしいわ」

「ふうむ……笛と盾と本、もう一つ、か。四大王国に四大系統、四つの指輪に四つの秘宝。四人の『虚無の担い手』に四人の『虚無の使い魔』……」

「メシヤ、ミス・ヴァリエール、じきロサイスに到着します。ご準備を」
シエスタとマルトーが伝令に来た。さて、ロサイスからアルビオン本土をどう攻めるか。戦いは、これからが本番だ。

一方、その日の深夜。1隻の小さなフリゲート船が、アルビオンから密かにトリステインへ降下していた。傭兵メンヌヴィルとその部下たち、ベアードやフーケを乗せた、奇襲用のフネだ。

「よーし、どうにか警戒線を抜けたぞ。攻めている側は、案外自分が攻められるとは思わんものなのかな。……いや、学院上空には、やはり探知結界が張ってあるな。直接侵入は出来ない。付近の森林に空き地がある、そこに降ろそう」
操船しているのは、風のスクウェアメイジ・ワルド子爵……に取り付いた、妖怪バックベアードだ。暴走しかねないメンヌヴィルの目付け役であり、情報収集も担う。彼の周囲には小さな黒い球体がいくつも漂っていた。それには各々『魔眼』が付き、ベアードの視覚とリンクしている。

到着を前に、メンヌヴィルは檄を飛ばし、部下の士気を高める。
「さあて、野郎ども! 目的はトリステイン魔法学院の制圧と衛兵の始末、そして貴族のメスガキと教師どもの生け捕りだ! なるべく殺すなよ! 制圧が完了したら、人質以外は殺すなりなんなり、好きにしろ」
うっひひひひひ、と下卑た笑いが起きた。

「……一応レディの目の前で、そういうセリフは自重してくんない?」
「そりゃ悪かったな、『土くれ』のフーケさんよ。まあ、荒くれをまとめるにゃこれが一番さ。俺は盗みや犯しはしねえ、焼き殺すだけだ。老若男女、平等にな」
ベアードが振り向き、メンヌヴィルに尋ねる。
「好奇心で聞くんだが、なぜそんな物騒な性格になった? 生まれつきか?」
「そうじゃあねえ、この目玉が焼かれちまってからさ……」

到着するまで、ちょっと昔話をしよう。元々俺はトリステインの下級貴族でね、アカデミーの『実験小隊』ってとこに士官として所属していた。あんたのいた魔法衛士隊みてえな華やかな仕事じゃねえ、ま、裏方の何でも屋だ。

あれはもう20年も前になる。俺は二十歳になったばかりだった。

トリステインの北の海岸に、ダングルテール(アングル地方)って小さな漁村があった。アルビオンからの移民が住み着いていた、ちんけで辛気臭ぇ村だ。牡蠣を拾うぐれえしか金目のものはねえ。で、上の方から、そこで疫病が流行っているから『焼き尽くせ』って命令がきた。

疫病、確かにそうさ! そこは新教徒の巣窟だったんだ。まあ、俺は神様なんぞ信じちゃいねえが。

……でよ、隊長が俺より少し年上の男だったんだが、こいつが凄い。酷薄非情で狙った者は皆殺し、火を使うくせに酷く冷てえ、蛇みてえな奴だった。そのダングルテールを焼き滅ぼしたのも、そいつなのさ。それも一人で!

ああ、今でもあの美しい炎の竜巻が、脳裏に浮かぶぜ。夜の海に映って、すげえ綺麗だった。それにあの、たくさんの人間が焼け焦げる香りと来たら!何にも代えられない、素晴らしい芳香だった! お蔭で俺は、すっかりイカれちまった。隊長のことが大好きになって、思わず焼き殺したくなった! 咄嗟に杖を向けて、呪文を唱えた。次の瞬間、俺の目玉はこの通りさ。

フーケが、実にいやそうな顔をしている。
「……酷い話だね。よく殺されずに済んだもんだ。まぁ、あんたがイカれてるってのはよーく分かったよ」
「へへへ、こういう仕事はちょっとイカれてねえとできないのさ。それに俺は鼻が利くようになったし、耳も鋭い。ついでに頭もすっきり冴え渡って、熱の位置や微妙な変化が手にとるように分かるようになったよ。目明きよりよっぽど便利だぜ、この能力は」
「私のような『魔眼』の使い手には、結構いろんなものも見えるんだがな。まあ、杖を突いて歩くのではなく、振って歩けるのは大したもんだ」

メンヌヴィルが、狼のような口で『にやっ』と笑う。
「ありがとよ。それから俺はトリステインを飛び出して、ゲルマニアで傭兵稼業を始めたよ。実に天職だね。なにしろゲルマニアやロマリアあたりじゃあしょっちゅう戦争してるし、あぶれ者やちんけな村を焼き尽くしたって、別に誰も文句を言わねえ。都市を襲えば大金持ちだ。強いものが自由と富を得て、弱いものはサクサク死んでいく。坊主どもだってそうなんだもんよ」
「なんとも、楽しげだな」

「ああ、実に愉快だ。飯も酒も美味いし、わりと財産も築いた。俺はこうなったのをまったく後悔してねえ。唯一気に食わねえのは、例の隊長があの後すぐに行方をくらましたと聞いていることだ。俺はこんなに強く、あいつよりも激しく炎を繰り出せるようになったのに!ああ、あいつを焼きてえ! あいつが焼け焦げて消し炭になる匂いを、胸いっぱいに吸い込みてえ! それだけが、俺の最大の望みであり、悩みなのさ。はは、はははははははははは、ひいはははははは……」

メンヌヴィルは、気が触れたように笑い始めた。いや、彼はとっくに気が触れているのだろう。ベアードは珍しくもなさそうに見ているが、フーケはぶるっと身震いした。鳥肌が立っている。こんな妖怪や狂人の同類には、絶対になりたくない。

彼らはバアルのために高き祭壇を築き、息子たちを火で焼き、焼き尽くす献げ物(ホロコースト)として捧げた。私はこのようなことを命じもせず、定めもせず、心に思い浮かべもしなかった。…この所をトペテや、ベンヒンノムの谷と呼ばず、『虐殺の谷(ゲヘナ、地獄)』と呼ぶ日が来るであろう。
―――旧約聖書『エレミヤ書』第十九章より

夜明け前、メンヌヴィルたちは魔法学院の裏門に近付いた。しばらく学院に勤めていたフーケの話から、内部の構造などは知れている。居眠りしている衛兵を永久に眠らせ、フーケが『錬金』で門扉に穴を空ける。音も立てず、十数人の小部隊は学院に潜入した。フネは森の中に隠してあり、人質を連れて脱出する手筈だ。

物陰に隠れると、ベアードがふよふよと『魔眼』たちを内部へ飛ばし、衛兵や生徒の居場所を偵察する。
「……ふむ、一般の衛兵が20人ばかり、女子銃士隊が同数。そこそこだな。衛兵どもは気を抜いているが、銃士は『火の塔』に駐屯して、二交代制で不寝番をしているようだぞ。教師が数人、オールド・オスマンの姿は見えないな。教師と女子生徒の総数は、情報によれば90人ほど……。む、あれはタバサ! あの『雪風』のタバサが目を覚ましたぞ!」

フーケがぴくっと反応する。確か、あのルイズやマツシタの仲間だ。
「あのガリア出身のちびメイジか。トライアングル級で風竜も使い魔にしてるし、手強い相手だね。感づかれたか、どうなのか……他はどうだい? ヤバイ相手は起きているかい?」
「いや待て、今いいところなんだ。よーし、集まれ魔眼ども……」
「何デバガメやってんだい、このロリコン妖怪!!」
「漫才やってねえで、さっさと情報をよこしな、ミスタ・ベアード」

ともあれ学院内に大した動きはない。タバサはまたベッドに戻ったようだ。
「……じゃ、内部の構造と衛兵・銃士の配置はこんなところだね。使用人どもは、まあいいか」
「うっし、制圧戦の開始だ。セレスタン、四人連れて銃士のいる『火の塔』を抑えろ。ジョヴァンニ、てめえらは寮塔だ。俺らは本塔を抑えておくから、メスガキどもをこの食堂に集めて来い!」

突入した分隊は、次々と女子寮の部屋のドアを蹴破り、女子生徒や教師を集める。寝込みを襲われ、杖も奪われ、皆なすすべなく捕縛された。すすり泣くばかりで抵抗もしない。衛兵たちは警笛を吹き鳴らし、剣や槍で応戦するが、歴戦の傭兵メイジたちには敵わない。

メンヌヴィル・ベアード・フーケは、占拠した本塔の『アルヴィーズの食堂』で待機している。続々と人質が集められ、食堂の床に座らされていく。メンヌヴィルが眠たそうに欠伸をした。

「……あーあ、簡単すぎて欠伸が出ちまうぜ。こういうやわな仕事は俺向きじゃあねえな。もうちょっと歯ごたえのある奴はいねぇのかよ? 俺、まだ誰も焼いてねえし」
「じゃあ、もうちょっと上に行ってみるか。学院長も探し出して、捕らえておかねばな」「しょうがないね、道案内にあたしも付き合うよ」

人質たちが集められた食堂の壁際を、ちょろっと白いハツカネズミが駆け抜けた。

その頃、傭兵メイジのセレスタンは、『火の塔』を守るアニエスと戦っていた。戦槌のような『杖』と、平民の磨いた牙である『剣』が交錯する。
「チェッ、いい女なのに勿体ねぇなあ! その牙、引っこ抜いてやらあ」
セレスタンは元ガリアの『北花壇騎士』、その実力はメンヌヴィルに次ぐ。
杖から火球が飛び、アニエスの剣が灼かれて折れ曲がった。

「貴様、火のメイジか! 私はメイジが嫌いだ、特に火を使うやつはな!」
アニエスは曲がった剣をセレスタンに投げつけ、言葉とは裏腹に逃げ出した。
「『騎士』が背中を見せるとは、さすがは平民出身じゃねぇか! その背中、がら空きだぜ!」
セレスタンが『魔法の矢』を放つが、アニエスは身を伏せて避け、振り返り様に拳銃を撃つ!
「私は、『銃士』だ」

「ぶがっ……」
醜い呻き声を立て、セレスタンが額に銃弾を受けて、どさっと斃れる。彼の率いていた傭兵たちも、銃士隊に追い詰められて討伐された。そこへ、ハツカネズミが走ってくる。アニエスはそれを見て、にっと笑った。
「よし、この塔は守った。ついて来い、作戦通り残りを掃討する! 耳栓をしろ!」

本塔を昇っていたメンヌヴィル・ベアード・フーケは、急に眠気に襲われた。塔の上から鳴り響くのは、鐘の音だ。

「チッ、オールド・オスマンのじじい、『眠りの鐘』を使ってやがるね……」フーケは手早く『錬金』を唱え、耳栓を作った。
「この耳栓を使えば多少は防げる、さっさと学院長室に殴りこもう!」
「狸寝入りでもしていたのか? ミスタ・ベアードの魔眼にも、見抜けないもんはあるようだな」
「やかましい。お前は盲目だからいいが、私の魔眼と目を合わせたら命はないぞ。オスマンのじじいも睨み殺してやるさ」

三人は耳栓をして、階段を駆け上がる。だが、鐘の音は『下』……さっきまでいた食堂の周囲からも、響いていた。

三人はバアンと学院長室に殴りこむが、誰もいない。
「隠れていても分かるぜ、そこだァ!」
メンヌヴィルが天井を火球で貫くと、オールド・オスマンがふわりと降りてきた。手には『眠りの鐘』がある。オスマンが鐘を床に投げ、三人はひとまず耳栓を外した。

「久し振りじゃの、三人とも。まだ生きておったか」
「そいつぁこっちのセリフだぜ。二十年以上前からじじいのくせに、あんた何百年生きてんだ? まあ、あんたなら相手に不足はねえ。確か『土のスクウェア』級だよな?」
「好戦的な男じゃのう。そこのフーケとワルドの実力も知っておる、生半なメイジでは相手にならんな。では、わしがおぬしら三人をまとめて相手にしてやる。かかってこい!」

オスマンが杖で床を叩くと、床は溶岩のように煮えたぎって激しく渦を巻き、三人を窓の外へ吹き飛ばす。三人は『飛翔』の魔法で宙に留まるが、オスマンのいる部屋には、地面や他の塔から砂や石材が飛んできて集まる。

ゴゴゴゴゴゴと物凄い地響きがして、土砂は本塔の上半分を包み、獅子の体を備えた巨大な石の獣の姿となる! その顔は、内部にいるオールド・オスマンそっくりだ!!

「「うわっははははは、これぞ我がゴーレム『スフィンクス』じゃ!! スクウェアメイジを甘く見るでないぞ! そおおれ、食らえい!!」」

スフィンクスの顔がオスマンの声で高笑いし、塔のように巨大な腕が振り回される。三人は青褪める。まさか、いきなりここまでやるとは!
「てっ、てめえじじい、状況が分かってんのか? 俺らは学院の貴族の子女を人質にしてるんだぞ? 殺さねえまでも、攻撃をやめねえとそいつらの耳や鼻や指を……」

「「分かっちょるわい、おぬしらの奇襲なんぞ全部まるっとお見通しよ。わしの使い魔モートソグニルくんがのう。それに食堂に集まった傭兵どもは、隠れさせておいたミセス・シュヴルーズの『眠りの鐘』でとっくに夢の中じゃ。今頃は耳栓をした銃士隊に捕縛されているじゃろう。戦いは情報網と物量じゃよ諸君、ひょひょひょ」」

オールド・オスマンとアニエスたちは、学院のテロ対策をしっかりしていたようだ。モートソグニルとネズミたちが学院内外を警戒し、非常時には合図を送って連絡する。そして敵が一箇所に集まったところを、二つの『眠りの鐘』で人質ごと一網打尽。さらには、これだ。

「じょ、冗談じゃないよ! あのセクハラじじい、こんなバケモノだったなんて!!」
「ええいフーケ、気休めかも知れんが、お前もゴーレムを出せ! 私は『魔眼』の姿に戻る!」
「しゃあねえ、俺は食堂に戻るぜ。……いや、『火の塔』から銃士が出て来たな、あれから片付けるか」

バックベアードが黒煙とともに現れ、フーケのゴーレムがスフィンクスのパンチを受け止める。スフィンクスは目から怪光線を放ち、ウオーーーッと咆哮する。妖怪・怪獣大決戦の始まりだ!!

その頃、『火の塔』の傍らにあるコルベールの研究小屋では。

「これは『神秘幻想数学』、これは古代サハラの数学書、アリストテレスなる哲学者の著書、『光輝(ゾハル)の書』に『東方魔法大全』! ああ、一生かかっても読み切れない! これを解読できれば、ハルケギニアはまさに革命的変化を……!!」
コルベールは感涙に咽びながら、『薔薇十字団』から送られてきた注釈付きの魔法科学書に没頭している。そこへ、二人の生徒が駆けこんできた。外からズズズズズという地響きもする。

「コルベール先生! 未だにこんなところで何をしているんですか、大変なんですよ!」
「おお、ミス・ツェルプストーにミス・タバサ、こんな深夜に何事かね」
「敵襲。アルビオンの傭兵団が学院を急襲し、生徒及び教職員約90名を人質に取った。我々は脱出して無事。反撃の体勢を整えるため、あなたを捜していた」
「な、なんだって!? ……時に二人とも、アレは何かね?」
「は?」

二人がコルベールの指差す方を振り返ると、バックベアードとゴーレムが巨大なスフィンクスと戦っている!!
きゃーーーーーーーっ!!? な、何よアレ!?」
「あの黒い眼は、以前ニューカッスル上空に出現したものと同じ。ゴーレムはフーケのものと同じデザイン。ならばあのスフィンクスは、恐らくオールド・オスマンのもの」

「そうだ。我々銃士隊と学院長が連携し、テロリストの大半は作戦通り捕縛した。残るはあのバケモノどもと……こいつだ」
いつの間にか、アニエスも近くに来ていた。体にいくつか火傷を負っている。そして向こうから歩いて来る大柄な男に、銃を向けた。キュルケとタバサも、杖を構える。

「おやおや、熱と硝煙の匂いを頼りに追ってきてみれば、かすかに懐かしい香りがするなァ。さっきの女銃士が一人、火メイジと風メイジの女、それにもう一人。おい、おまえの名前は何だ?」

男を見たコルベールの表情が、さっと変わった。温和で臆病な普段からは想像できない、冷たい顔だ。
「……久し振りだな、『白炎』のメンヌヴィル」
その声音を聞いて、メンヌヴィルはあっと驚くと、両手を広げて心底嬉しそうに笑った。
「おお! おおお!! お前は『炎蛇』! 『炎蛇』のコルベールではないか!! 覚えていてくれたのか! 久し振りだな隊長殿、20年振りだ! あのダングルテール以来だ!!」

「!!」
アニエスは、対峙する二人を物凄い表情で睨み付けた……。

【第十五章 炎蛇】

「隊長殿! ミスタ・ジャン・コルベール! 本当に久し振りだ! しかし一体、今まで何をしていた?貴様の噂を聞かなくなって、もう20年だぞ?」
冬の日の出前、大気は寒い。だが『火の塔』の傍らで、メンヌヴィルは熱く、狂ったようにまくしたてる。

「俺の噂は聞いているだろう? どれだけ俺が人を焼き殺し、多くの都市や村を滅ぼし、見違えるほど強くなったか……」
「せ、先生。こいつ、ヤバイわよ」
キュルケが思わず呟く。奴は伝説の傭兵、『白炎』のメンヌヴィル。火のトライアングルとしての実力は理解できるが、これほどの異常な、怪しい火の気配を感じた事はなかった。

メンヌヴィルはそれを聞き、鼻息を吹いて大いに驚嘆する。
「ふはっ! 先生、先生だと? あの『炎蛇』のコルベールが、か? これほど似合わん話はない! 確かにここは魔法学院だが、貴様がいったい何を教えるのだ? 人殺しの簡単なやり方か? 武器の鍛造法か? まさか料理教室を開いているわけではあるまい?」

コルベールは無言のまま、眉間の皺を深めた。頭の中には今まで読んできた、『東方』の優れた思想がある。

はとても強力で、かつ扱いづらい系統だ。メイジは土壌を肥沃にし、都市や城壁を築き、金属を錬金し宝石を加工し、ゴーレムを操って活躍する。メイジは河川や湖を治水し、航海や漁業を助け、雨を降らし泉を湧かせて農地を潤し、心身を治癒して命を救う。メイジは天候を操り空を飛び、フネを飛ばし情報を聴き取り、恐ろしい竜巻や稲妻、『遍在』を用いて戦う。

では、火はどうか。戦いではトロル鬼をも焼き殺し、硫黄などの秘薬を用いて恐ろしい砲火を放つ。有害なゴミを焼き尽くし、疫病の瘴気を浄化するのも、確かに火だ。一方で火は森を切り拓き、草木を焼いて土壌を肥沃にし、金属を熔かして精錬加工する。炉に火のない家では料理も不味く、夜は暗闇に包まれ、冬場は凍え死んでしまうだろう。火は罪深い戦争で使われるのみならず、暮らしを豊かにしている。貴族よりも平民の方が、それを理解できよう。

火は、文明そのものだ。全てを焼き尽くす危険性を孕みながら、よく制御すれば優れた科学技術となり、人類の未来を熱く明るく照らし出す。それはいつの世も変わらない。火こそは太陽の光であり、命であり、社会を動かす原動力なのだ。進歩への情熱と理性の光。それこそが、我々に与えられた松明だ! 啓蒙と、教育。おおこれこそ、私に与えられた使命ではないか!!

ついにコルベールは口を開き、眼鏡をギラリと光らせ、自らの理想を情熱的に話し始めた。
「……そう、火の本質は、破壊と情熱。この戦乱の時代、破壊ばかりが強調されるのはやむを得まい。だが建設的な使い方をすれば、火の系統は他の如何なる系統より勝るかも知れない。それは古い世界を改革し、無知の闇を松明で照らすように、新しい『理性の光』の時代をもたらすだろう!」

「「……はあ?」」

「火の鳥、フェニックスを知っているかね? 500年に一度、火の鳥は故郷に帰り、わが身を炎で焼いて灰の中から復活するという。そこのキュルケくんの使い魔はサラマンダーだが、これも欲望や苦難の炎に耐えて生命力に換え、汚れた金属を浄化するという……」

しかしメンヌヴィルもキュルケも、タバサもアニエスも、コルベールの話にまったくついて行けない。戦いの空気が学院の講義でのそれに変わり、延々と熱苦しい演説は続いていた。まるで松下が彼に乗り移ったようだ。やがて、しびれを切らしたメンヌヴィルが叫ぶ。
「何をごちゃごちゃぬかしてやがるんだ、学問のし過ぎで頭がいかれちまったか!? 俺は貴様と戦って、火炙りにしてやりたくてウズウズしているんだ! さっさと攻撃して来いよ! さあ!!」

コルベールは演説を止め、フルフルと首を横に振った。
「メンヌヴィル、私はもう二度と、人殺しはしたくない。たとえ異端の罪で火炙りにされても。火の系統を破壊だけに用いるのは、間違っている。あの日から20年間、私はそう思って研究を続けてきた。もうすぐそれが、現実味を帯びた実を結ぶかもしれないんだ」

「くそっ、坊主が生悟ったような事ばかり言いやがって、俺にはさっぱり分からん! もう任務なんぞどうでもいい、貴様を焼き殺せりゃあ俺は満足だ!!」
メンヌヴィルが杖を振るって炎を放ち、それをキュルケとタバサが魔法で掻き消す。コルベールも仕方なく杖を抜く。いよいよ決戦だ。アニエスは拳銃に弾丸と火薬を込めると、後ろに下がった。

「奴らが、私の仇。ダングルテールを、故郷を、家族を焼いた奴ら」

人間ってやつぁ、どうもやたら苦しんでおりますな。この星のちっちゃな神さまは、いつもいつも妙なことばかり、それこそ天地開闢の日このかた繰り返しております。ほんとうは、もっとましな生き方もできたんでしょうが、旦那(造物主)がお天道様のかけらなんぞ分けてやるからですぜ。そいつを理性とやら名づけて振り回したあげく、犬畜生よりもっとひどいことをやらかす始末でさぁ。
―――ゲーテ作『ファウスト』天上の序曲でのメフィストのセリフより

一方、本塔のあった辺りでは、オスマンの操るスフィンクスが暴れていた。
フーケの巨大ゴーレムが、スフィンクスの放つメガトンパンチで叩き潰される! たまらず空を飛んで逃げ出すフーケに、スフィンクスはぷーーっと砂を吹きつけた! 砂は空中で身長何メイルものオールド・オスマンになり、尻でどすんとフーケを押し潰す! しかしフーケもさるもの、咄嗟に地面に穴を空け、地中に逃れた。

そこへバックベアードが大声で呼びかける。
「「こっちを見るのだ、オスマンじじい!! 私の『魔眼』にはいかなるものもかなわぬのだっ」」
「「わはははははは、ワルドに取り憑いちょる妖怪とやら、そんな大目玉で何をしようというんじゃ? 砂を吹きつければ、お前さんなぞひとたまりもないじゃろうが!!」」

ベアードにぷーーっと砂が吹きつけられる。だがベアードは煤煙となって霧散し、しゅるしゅると分裂する。そしてたちまちスフィンクスの周囲に、5つの巨大な『魔眼』が出現したではないか!
「「我が『魔眼』の遍在、ようやく出せるようになったぞ!! そして食堂の奴らは、この私が催眠術で操ってくれよう!!」」

5つの『魔眼』はばらばらと無数の小ベアードに砕け、食堂へ殺到する!
「「させぬわあっ!!」」
スフィンクスも大量の砂塵に変化し、ごおおーーーっという砂嵐となってベアードどもを吹き飛ばす!!再び合体して大魔眼となるバックベアードは、ぴかぴかと眼を光らせ、激しく笑い出した。

「「うわはははは、手ごたえのある相手は大好きだ! 今度は貴様に取り憑いて、女子生徒の私生活でも覗いてくれようぞ!!」」
「「このセクハラ妖怪が、うちの学院の女性にセクハラしてよいのは、このオールド・オスマンただ一人じゃああああ!!!」」

オールド・オスマンとワルド・ベアード、セクハラ妖怪スクウェアメイジの戦いは、どんどん激しさを増していく。それにしてもその言動は、極めて不純であった。

「……付き合いきれないね、任務は失敗ってことにして、あたしはさっさとアルビオンに帰ろう。テファたちも心配しているだろうしさ」
フーケ(マチルダ)はいち早く学院の外へ脱出し、一路ラ・ロシェールへ向かう。変装してアルビオン侵攻軍への慰問団にでも紛れ込み、故郷サウスゴータへ行くつもりだ。クロムウェルに仕えるのも、そろそろ潮時だろう。さあて、どうしようか。

その頃、コルベールたちはメンヌヴィル一人に苦戦していた。もうすぐ日の出だ。

「おいおいどうした、この程度か? まだまだ物足りないぞ? やはり人間の焼ける香りを吸わないと、俺の渇きは癒されないのだなあ」
「くっ、こいつ、強い!」

コルベールは防御シールドを張るのに徹し、その背後からキュルケとタバサが魔法を、アニエスが銃弾を放つ。だが、魔法はメンヌヴィルの周囲で拡散し、銃弾もプチュッと蒸発する!
「ぐわはははは、効かないねぇ!! そおら『炎の蛇』を食らえ!!」
ぶおんと鉄の杖が振り回され、巨大な炎の帯が四人を襲う!

敵の放つ強力な魔法を防ぎながら、タバサは冷静に戦況を分析する。
「通用しない、というより、魔法を『吸っている』。何らかの強力なマジックアイテムを所持しているか、『先住の魔法』の可能性がある」
「何それ、反則よ!! それになんか、あいつの周囲の空気が青白く見えるわよ!?」
「怒りの顔色と同じように、火は高熱になるほど、色が白く、青くなる。あれは恐ろしい高熱の炎だ。情熱の赤は、まだ『微熱』というところだね」
「ご教授有難いわ、ミスタ・コルベール。不殺でいいから、あいつをどうにかしてよ!!」
「……では、炎には炎、杖には杖。出でよ『炎蛇』、トピ・テイ・バ・テア!!」

コルベールが懐からもう一本の杖を取り出し、地面に投げる。すると杖はたちまち、体長20メイルはある巨大なキングコブラとなった! その体は滑らかな緑色の鱗に覆われ、眼や口からはチロチロと炎が出ている。

『私は、太陽神の娘にして額の聖眼、王者(ファラオ)の象徴、毒の炎にて悪を焼く偉大なる蛇。私は「立ち上がるもの」、ウラエウスなり』

アロンが自分の杖をファラオとその家来たちの前に投げると、それは大蛇となった。そこでファラオは賢者や魔法使いたちを呼び出し、彼らもその魔術によって同じ事を行なった。しかし、アロンの杖は彼らの杖を呑み込んだ。
―――旧約聖書『出エジプト記』第七章より

「せ、先生! これが先生の使い魔!?」
「私はとある魔術結社に所属していてね、団員になるとそこから使い魔というか、『守護天使』を1体もらえるんだ。彼女は私の守護天使、聖なる炎蛇ウラエウスちゃんだよ」

『私を「ちゃん」などと呼ばないで、ミスタ・コルベール。けれど、危ないところでしたね。おお、なんという邪悪な男と戦っているのでしょう!』
ウラエウスは、がーーーーっと大きく口を開き、毒牙を光らせる。

『私の一番好きな食べ物は、お前のような神を冒涜する人間なのだ!』
「うおおッ!?」

メンヌヴィルの頭上からウラエウスが襲い掛かり、炎をものともせずに頭から丸呑みする! 彼女はぺロリと敵を平らげ、腹の中に収めてしまった。メンヌヴィルはなおも暴れていたが、やがて消化されたか、静かになる。
「……案外、あっさり片付いたわね」
「人殺しはしたくなかったが……まぁ、彼は魂を悪魔に売り渡したような男だったしなあ」

満腹したウラエウスは振り返り、コルベールに話しかける。
『ミスタ・コルベール。私はあなたの忠実な下僕、というわけではない。あくまでもあなたを守護するために付けられた、目付けのようなもの。しかしこれだけは伝えておきましょう。あなたは「東方の神童」松下一郎に、使徒の一人として召されている。彼に仕え、従いなさい。そうすればあなたの罪は贖われ、共に天の国、パラダイスに入る事ができるでしょう』
「使徒……天の国……この、罪深い私が……」

「そうだ。貴様はわが故郷ダングルテールを焼き、罪なき人々を殺した大罪人。命令を下したリッシュモンを殺す事は陛下から止められたが、私の気はおさまらぬ」

コルベールのすぐ背後に、いつの間にかアニエスが立っている。手に拳銃を握り締め、彼の後頭部に当てている。
「アニエス!」
「狡猾な蛇め、まむしの子め! こんな穴ぐらに身を潜めて、くだらん研究に耽っていようとはな! きさまも善悪をわきまえる知恵はあろう、潔く死ね! ジャン・コルベール!!」

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お前はこの事をしたので、全ての家畜と全ての野獣のうち、最も呪われる。お前は、腹で這いまわり、一生塵を食らうであろう。私は敵意を置く、お前と女の間に、お前の子孫と女の子孫の間に。彼はお前の頭を砕き、お前は彼のかかとを砕く。
―――旧約聖書『創世記』第三章より

咄嗟にキュルケとタバサが飛びかかり、間一髪アニエスを地面に押さえつける。ウラエウスも、かーーっとアニエスに牙を向けた。

「アニエス! 私たちがいる限り、先生は殺させないわよ!」
「貴女の気持ちも分かる。でも、理性的に考えて」
「やかましい! きさまら安穏と育ってきた貴族の小娘なんぞに、私の何が分かる!!」
「私は安穏と育って来ていない。貴族もいろいろ、人生もいろいろ」
「そんな言葉で片付けられてたまるかああ!! 私の、私のこの20年間の労苦は……」

二人に押さえつけられ、半狂乱になるアニエス。やがてコルベールは目を閉じ、諦めた表情をする。
「いや、分かっているよミス・アニエス。私はやはり罪人だ。ここで君に会ったのも神の裁きだろう、潔く復讐の銃弾を受けて贖罪としたい」
「せ、先生! そんな」「………!」

だが、ウラエウスの様子がおかしい。
『……うっ、ぐっ、これは何だ?! 私は何を呑み込んだのだ?!』
げっ、とウラエウスは何かを吐き出す。それはメンヌヴィルの死体ではなく、なんとも奇怪で異様な姿をしていた。

体は青黒い狼、頭はフクロウ、クチバシには牙が並んで火を吐き、後脚がなくて下半身は大蛇。キュルケがうえっと口を押さえる。こんな出鱈目な幻獣は見たことがない。
「な、何これ!? まさか、悪魔!?」

 《カム ナガ ラ ナム ア モ ン》

怪物の全身が炎に包まれ、空中に飛び上がって咆哮する!

《高く立ち昇る、芳しい供物の煙(ハンモン)よ!! おお、余は何者か!? 余は風、余は息吹、余は隠されたる、計り知れぬもの……》
ウラエウスが叫び声をあげる。
『あ、あなたは、アモンさま! エジプトの主なる神!』

彼こそはアモン、炎の侯爵、東方の王にして神の神。シリアではバアル・ハンモン(アンモン)と呼ばれた。本来はテーベという都市の古い神に過ぎなかったが、さまざまな神々を『吸収』して最高神の地位に就いた。のちに悪魔として地獄に落とされ、多くの魔神とともにソロモン王に使役された末、封印された。今は同族のベリアルによってハルケギニアに召喚され、メンヌヴィルに取り憑いていたようだ。

《おお汝ら人の子よ、余は『東方』へ、日の昇る地へ行く! 余は太陽なれば! 知られざる、隠されし知識を追い求めよ! 『東方』の彼方、『神の門』へと!!》

炎を吹き上げ、ギャアギャアと騒ぎ立てるアモン。フクロウも蛇も知恵の象徴、しかし彼は狂っている!狂った神アモンは、呆然とする一同を尻目に、暁光の差す『東方』へと飛び去った。

闇夜は過ぎ去り、バックベアードも敵わぬと見て退却したようだ。学院での攻防戦は、終わった。

「……あの、何? 何がどうしてどうなってるの? ひょっとして、アレがフェニックス?」
『いいえ。あの方こそは、偉大なる神アモンの堕とされし姿。全知全能の神でありながら、唯一絶対の神とはなれず、地の底へ堕とされた古代の神。けれど、あのお方は「東方」へ、「聖地」へ向かわれた』

「『東方』か。……まさか、『東方の神童』つながりですかな?」
『おそらくは。あの邪悪な男に取り憑いていたせいか、少しおかしくなっておられたようですが、あの方が「東方の神童」の敵となるか味方となるかは、私にも分かりません』

アニエスは深く溜息をつき、立ち上がって拳銃を収める。気を削がれたし、ここで殺すのもなにかとまずい。
「……コルベール。復讐の権利は、ひとまず保留しよう。武人の礼だ。火は破壊ばかりとは限らないし、私の武も殺しのためだけにあるのではない」
「武人としての礼儀、有難くお受けしよう。やはり私は、まだ死ねない。この世界にあの太陽のような理性の光をもたらし、あらゆる人間のための理想郷を実現する時までは……」

『東方』から朝日が昇る。その輝きは、コルベールの禿頭をまばゆく照らし出した。

そこへ、オスマンがふわりと降りてきた。
「それではおぬし、永遠に死にきれんぞい、ミスタ・コルベール」
「オールド・オスマン!! ……どうするんですか、この惨状を!!」

学院の建物は、妖怪との決戦でボロボロだ。というか、スフィンクスによる破壊が大半を占めている。
「かーーっ、うるさいのう。わしが責任持って元通りに修復しておくわい!あのスフィンクスがなければ、おぬしらここに生きておれまいぞ。随分創造に手間はかかったがのう」
スクウェアメイジとはいえ、あれだけのパワーはそうそう振るえない。ベアードは強敵だ。下準備をしてホームグラウンドに引き込んで、やっと撃退できたというところだった。

「それから、学院はしばらく休校じゃ。おぬしらにも休暇をやるから、じっくり研究に励みたまえ。わしは千年王国も理想郷もどうでもよいが、夢は見れるうちに見ておきなさい。……ああ、だいぶくたびれた」

ふらふらとオスマンが膝をつく。一方キュルケは、コルベールに熱い視線を向けた。
「ねえ先生、いいえジャン、ゲルマニアへ来ない? 火と情熱と技術の国、新しくて熱気に満ちた国よ! 資金はツェルプストーからも出すわ。それに『東方』へ行くのなら、ゲルマニアが一番近道じゃない!」
「ふうむ、ゲルマニアか。……確か『薔薇十字団』もゲルマニアから……」

希望に燃えるコルベールの懐で、ルビーの指輪が熱を帯び始めていた……。

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